第3話:陽気な八月の国と金魚達の世界

土の中で夢を見た。かなり昔の夢だ。八月のある暑い日の夢だった。青い空に入道雲、そして冷たいスイカがあるような牧歌的なある種のデストピアだ。私は一年の内で八月が大嫌いだった。暑いからとか寒いからとかそういう問題では無く、夏休みという存在が大人になった今でも嫌いなのだ。

間違われてはいけないのだが、私は学校が嫌いだった。偏屈な性格から友達はおらず、いつも一人だった。まるで苦虫を食い潰したように、嫌な思い出しか思い出されない。

勉強は好きだったのが、唯一の救いだったのかも知れない。学校はある種の律義さをもって、人と共に生きる事を私に対して強要してきた。私にとってクラスメイトは水槽に入った魚の様な存在だった。同じ場所にいるのだが、隔てる壁があった。私はそちら側に行くことが出来なかった。なぜならエラ呼吸が出来なかったからだ。

そんな私が夏休みを苦手としていたのは、夏休みという存在が、私が何者でも無い事を考えさせたからだ。とめどない時間があった。その時間を私はもてあましていた。そして私はその時間を自分が本来いるべき場所について考えていたのだ。

それは陽気な八月の国だった。人々は優しく、そして私はちゃんと人々の間に存在していた。金魚達とは違って、そこには私と意思疎通が出来る人がいた。そんな世界を私は心の中で求めていたのかも知れない。

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