すっごーい!! みんなでフレンズになったよーーっ!! たっのしーー!
いましん
1話しかないってー! すっごーい!!
「わーい!! 朝だよーっ!! おはようーーっ!!」
眠っている俺の耳に届いたのは、朝食を作り終えた母親の声だった。目をこすりながら、パジャマから着替えて食卓に着く。
「すっごーい!! きょうは早起きなんだねーっ!!」
目玉焼きを出しながら言われる。まだ頭がぼんやりとしていて、単に少しテンションが高いなという程度にしか思っていなかった。
俺は朝食を食べながらニュースを見るのが日課で、その日も白米を頬張りながらテレビを点けた。
『今日は、〇月△日、□曜日だよー! みんなーっ!! おっはよーーー!!』
『今日もいちにち、がんばるよーー!!』
『あはははは!!』
……ここに来てようやく、異変に気が付き始めた。いくら何でもテンションが高すぎる。
『さいしょのニュースだよーー!! B線が、人身事故のえーきょーで止まってるってーー!!……ねえ、じんしんじこってなあに?』
『えっと次は、けーざいじょーほー!! 円高ドル安? は続いていて、インフレ? だってー!!』
駄目だ、ニュース番組が崩壊している。
慌ててチャンネルを切り替えていってみると、
『もーーっと、きれいな素肌へーーっ!』
『今夜7時からー!! きょーふのえーぞー100連発!!』
『ちゅーごくとのぼーえきで、れんけーを取ることが、とーよーを支える基盤? になるんだってーー!! すごーい!!』
『だってあの人が、私の子どもを殺しんだよー!! ひどーい!!』
どれもこれも、よく分からないことになっている。俺の脳内では、非常事態宣言が発令された。
「どーしたのーー? 具合でも悪いのー?」
「いや、別にそういう訳じゃないけど……」
母が心配したようだが、皆の様子がおかしいから、という言葉は言えなかった。
パニックを起こす頭を必死に回転させて、もしかしたら俺の方が異常なのではないかという考えにも至ったのだ。
「はやくはやくー!! こーこーに遅れるよー!!」
「あ……うん、行ってきます……」
急かされて、ついつい家を出てしまった。不安しかないが、とりあえず高校へ行くしかない。もしかすると、周りの状況がより分かるようになるかもしれない。
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
校門から教室に入って自分の席に着くまでの、耳が痛くなるほどの「おはよー!」ラッシュで、既に疲れた。
しかし疲れを見せている暇もなく、先生が入ってくる。
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
「おはよーー!!」
先生とクラスメイトによる、「おはよー!」砲が発射される。耳を塞いでおいて良かったと切に思う。
「今日は、1時間目から体育です!!みんな、たいそーふくは持ってきたかなーっ!!」
「はーーい!!」
「はーーい!!」
「はーーい!!」
「はーーい!!」
「はーーい!!」
「はーーい!!」
先生の返事をする度に、天然スピーカーが直接頭を揺さぶってくる。
気になるのは、昨日までは、先生もこんなキャラじゃなかったはずだという事だ。年配の男の先生だし。
「あはははは!! そーれっ!!」
「いったーーい!! 私からもいくよーーっ!! 」
「うわーーーっ!! たっのしーー!!」
ドッチボールをしているだけだというのに、なんだこの盛り上がり様は。高校生というよりは、小学生と言われた方がしっくりくる。
遊んでいる人達を横目に見ながら、色々と思考を巡らせた。
そもそも、こんな世界になってしまっているが、何か不都合があるのだろうか。
もし仮に世界中がこんな状態ならば、地球上のどこにも、喧嘩も戦争もない平和な世界。貧困も暴力も存在しない、理想と呼べる世界ではないのか。
だとしたら、それはそれで良いのではないだろうか。
ニュースをやっていたように、社会は滞りなく進んでいるようだし、このまま一生この世界でも問題は無いのかもしれない。
つまり俺は、
「あっ!! あぶなーいっ!!」
ゴツン!!
バタン!!
「うう……」
頭をぶつけたみたいで、とても痛い。我慢して、立って目を開ける。
「ねー! だいじょーぶ?」
「うん! だいじょーぶだよーっ!!」
遠くまで広がるさばんなちほー。僕は、ここで生まれたフレンズなんだ!!
「ほら!! げんきげんきーっ!」
「ほんとだーっ!! すっごーい!!」
「よーっし! あっそぼーー!!」
「うん!! はやくはやくーーっ!!」
「あはははは!!」
「あはは!! たっのしーー!!」
すっごーい!! みんなでフレンズになったよーーっ!! たっのしーー! いましん @zunomashi
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