第2話 舞い込んだ一輪の雛菊
精神を集中させ、じっと的を見つめる。藁を丸めて作った的は中心が赤く塗られ、そこから同心円を描くように黒い円が描かれている。ふぅ。大きく深呼吸をし、弓に矢をつがえる。狙うは的の中心。大丈夫、普段通りやればいいんだ。しかし……。
昨晩見た女の子の裸体が頭の中を支配する。あの後レストランで眠れない夜を明かし、結構な時間を置いたが、それでもあの時の光景を払拭することができなかった。頭の中の邪念を追い出すために、無心になるために行っているのに、考えてしまうのは女の子の裸、胸、顔、そして巨乳……。
ズドッ!
放った矢は中心からかなり離れた箇所に突き刺さった。
「ああもう!!」
毒づいても、頭をガンガン叩いても、邪念を追い払えるどころか逆に強く深くこびりついてくる。確かに裸体なんて今まで見たことがなく耐性が無かった。だからなのだろうか。弓矢をしているのにあの子の胸が思考を占領し、邪魔してくる。少しも集中できない。
「くそっ、もう一度だ。集中して…邪念なんか振り飛ばせ…」
自分に強く言い聞かせ、的に意識を集中させる。狙うは胸…じゃなくて的の中心。的。的。的。的的的胸胸胸胸……。
「あああああんもう!!!」
俺のバカ野郎!!フランクフルトも鎮まれ!!!鎮まれぇぇぇい!!!
そう何度も心の中で訴えかけているのに、一向に鎮まるそぶりを見せない。
「最悪だ…。まさか俺がこんなことになるなんてな…」
弓を地面に落とし、その場にへなへなと座り込んだ。今までこのような状況に陥ったことは一度もなかったため、こんな時にどうすればいいのか、その対処がまったくわからない。どうすればこの気持ちを抑え込むことができるのか。このむらむらと湧き上がってくる感情をどう処理したらいいのか。
「料理かな……」
邪念を追い払えないのなら、それ以上の思考で上書きをすればいい。俺にとってそれは料理をすること。確かに弓矢も狩猟の練習になるし、無心になることができる。邪念を振り払うことだってできたはず。しかし今回はあまりにも邪念が大きすぎた。だからこそ料理に集中する。それしかない。
「よし、中に入ろう」
立ち上がってお尻についた土をぱんぱんとはらい、レストランの厨房に向かった。
厨房はいつもの静けさに包まれていた。ここに来る間にとおった自室では、相変わらず女の子は眠ったままだ。分厚い毛布をかけておいたので体のラインは見えなかったが、可愛らしい顔と艶めかしい唇に心を奪われそうだったため、急いで部屋を後にした。
地下の食糧庫からかき集めてきた食材を目の前にし、目を閉じて過去の記憶を思い出す。今から約11年前、まだ自分が7歳だったころ、俺は街で運命的な出会いを果たした。寒空の下、空腹と冷えで死にそうになっていた俺を、死の淵から救い出してくれた一杯のスープ……。
「今度は自分が、人の運命を変えるスープを…」
俺の運命を変えてくれたように、今度は自分が誰かの運命を変えられるようなスープを作るんだ。
水を火にかけ、沸騰させているうちにジャリパン地鶏の挽肉を2本の包丁で叩き、砕き、ミンチに。刻んだ生姜とネギを混ぜ込んだらさらに叩く。ボウルに移して溶き玉子、酒、塩、濃い口しょうゆ、片栗粉を投入して両手で揉み込む。粘りが出てきたら手で団子状に丸め、沸騰したお湯へ投入。野菜の下ごしらえとして白菜、人参、ビターマッシュ、豆腐を切りわけ、火の通りにくい野菜をスープストックに投入し、沸騰させる。
「味付けは…これでいってみようかな。少しスパイスを利かせて…」
野菜とつみれを投入し、最後に豆腐を入れて、と。こしょう、すっきりとした辛みと香りを演出するビリースパイス、今回は少し上品にロイヤルフィッシュで採った出汁を加えて…。
「地鶏のつみれスープ、完成かな」
カップにすくい上げ、刻みネギを散らす。スパイスの香りが鼻を刺激し、食欲を増進させる。大きめに作ったつみれも視覚から食欲に訴えかける。このスープを目の前にした人は食欲が刺激され、よだれが溢れることだろう。
しかし、俺はこのスープを見ても、何も感じることができなかった。俺の運命を決めたスープには遠く及ばなかった。臭いも、具材も、これとは違っていたのかもしれない。カップの淵に唇をつけ、スープを少しすする。ロイヤルフィッシュの旨味、野菜の甘味、つみれのコクが一体となった中に、ピリッとしたスパイスのアクセントとして聞いてはいるが、あの時食べたスープとは全然違う。あの時はもっと深みがあった。具材も違っていたのかもしれない。そもそもつみれという選択肢は……。
「ああんもう!」
むしゃくしゃした感情のまま、カップを持った手をテーブルに叩きつけた。ドシャンと大きな音を立て、中から飛び散るスープ、つみれ、野菜。腕にスープがかかったが、その熱さを感じられないほど、俺の心はモヤモヤしていた。これじゃない、まったく届かない、あのスープに、あの時の記憶に……。
ぐぅぅりゅりゅりゅぅ~っ
「ん?」
その時、お腹の虫が上げた唸り声が耳に届く。おかしい。俺は食事を摂った後だからお腹は空いていないはず。そして店の中には俺一人だけ。後ろを振り向いても居住スペースへと通じるドアがあるだけで、他に人が隠れるスペースは見られない。
「まさか……」
あの子が目を覚ましたのだろうか。もしそうだったら色々と聞きたいことがある。そのドアに近づき、ドアノブに手を描けるとグイッとひねり、前に押し出した。
ゴンッ!
「いったぁぁぁ」
その直後、何か固いものにぶつかったような音と、女の子の悶絶するような悲鳴が聞こえた。あっ、もしかして自分まずいことやっちゃったかな。そう不安に思い、今度はゆっくりとドアを開け、部屋の中を確認した。その直後目の前から迫る握り拳……って!?
「何してくれてんのよーっ!」
「ぶへっ!」
いまどき誰も叫ばないような悲鳴を放ち、後方へ殴り飛ばされる俺の身体。殴られた鼻から骨、筋肉を通って脳や全身へと響く強烈な痛み。これが女の子の放つ一撃かと感心しながらも、女の子に全力で顔面を殴られたショックと痛み、そして目を覚ましたことに対する嬉しさが混じった形容しがたい感情を抱きながら厨房の床に背中から崩れ落ちた。鼻血は出ていないことがせめてもの救いなのかな。
俺を殴り飛ばした女の子がはっと我に返ったようで、慌てて俺の下に駆け寄ってきた。
「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「う、うん、大丈夫。それよりも、目を覚ましたんだね、よかったよ」
本当はまだズキズキと痛かったのだが、女の子を心配させまいと平静を装った。それよりも、綺麗な瞳だな。雲一つなく晴れ渡った空のように澄んだブルーの瞳だ。声も、明るくてはっきりとしている、聞いているだけで元気を分けてもらえるような感じだ。彼女は昨日着せた服の上から厚手のものを羽織っているため、体のラインが隠れている。これならドキドキして下腹部が反応することもない。
「えっ、じゃあこの手当をしてくれたのって……」
「ああ、俺だ。昨日いきなり店に倒れ込んで」
ビターン!
「わ、私の裸を見たのね!この変態!」
今度は強烈な平手打ち。そ、そんなのひどいよ。
気まずい。気まずすぎる。目を合わせることもできず、いったいどう声をかければいいのだろうか。俺も女の子も何も話さず、グツグツというスープの沸騰する音がやけに大きく響く。未だにひっぱたかれた左の頬が痛い。確かに、年ごろの女の子にとって、見ず知らずの男に知らない間に裸を見られたのはショックだったと思うし、勝手に着替えさせられていたというのも驚いただろう。だからひっぱたく気持ちも分からなくもない。でも、このまま気まずいままじゃあ話を聞くこともできない。こうなったら自分から謝って機嫌を直してもらうしかない。……いやいや、なんで俺から誤らなきゃいけないんだ?俺は手当してあげたんだから逆にお礼を……いや、でも裸を見られたショックだって……。
「あ、あのっ」
「はいっ!?」
心の中で自問自答しているうちに、不意に女の子から声をかけられた。完全に不意を突かれたため驚いて声が裏返ってしまったのがとても恥ずかしい。後ろを振り返ると、女の子は髪を指でクルクルとまわしながら、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「あの、ごめんなさい。助けてくれたのに、殴っちゃったりして……」
口から出てきたのが謝罪の言葉であったことに少し驚いたが、この気まずい空気を払拭してくれた一言と、なかなか言い出せなかった言葉を先に言ってくれたことへの感謝の気持ちが溢れてきた。
「ううん、こっちもごめんな。傷を治すためとはいえ、配慮が足りなかった。やっぱりショックだよな。気を失っている間に、見ず知らずの男に裸みられるなんて」
「確かに、今でも恥ずかしい。けど、あなたが手当てしてくれなかったら私は今どうなっていたか分からなかった」
話しにくそうな声だったが、言葉の中から感謝の気持ちが伝わってくる。ありがとうという言葉はなかったが、それでも十分に伝わったような気がした。
「それに、あなた私が眠っている間に変なことしてこなかったでしょ?」
「へ、変なこと?」
「それは……って、わ、私に言わせるなっ!」
そう言って顔を赤らめ、テーブルをどんと叩きながら叫ぶ。その反応に驚きながらも、顔を真っ赤に染めて必死で訴えてくる表情がものすごく可愛い。
「そんなことしないよ。それはお互いの愛と了承があって初めて行うべきものだからな。意識の無い相手を無暗に襲うことは男のすることじゃないだろ」
そう言うと、なぜか女の子は驚いたように目を開いた。
「あれ、なんか変なこと言っちゃったか?」
「ううん、ちょっと驚いただけ。だって、男ってみんな性欲に飢えた獣のように、手当たり次第に襲いかかるものだと思っていたからね。そんな奴じゃないって安心したよ」
「確かにそう言うやつもいるだろうな。でも、俺はそんなことしないぜ。っと、スープできたよ。えっと……」
「あ、私デイジー!よろしくね!」
「うん、よろしく。俺はディル。はい、召し上がれ」
温め直し、味も調節しなおした地鶏のつみれスープをカップに注いで女の子、デイジーの前に差し出した。彼女はスープを目にした瞬間、わぁっという歓声を上げ、澄んだブルーの瞳を一層輝かせた。それだけ待ち遠しかったのかな。
「いっただっきまーす!」
そして元気よくスプーンを取り上げると、スープをすくって口の中へ運んだ。その直後目が飛び出すほど見開き、そしてとろけるような満面の笑みを浮かべた。その表情を見れば、どう思っているかなんて一目瞭然。この表情を見るのが、レストランをやっている中で一番の楽しみ。この笑顔を見たいからオープンキッチンにしたんだ。
「うーん、美味しいー」
「そうか、よかったよ」
いい表情しているな本当に。夢中になって食べ勧めているデイジーの表情は物凄く輝いて見える。思わず瞬きを忘れて見とれてしまうほどだ。デイジーについて知りたいことが山ほどあったのだが、夢中になってスープを楽しんでいるところを邪魔しちゃうのは申し訳ないし、今聞くのは止めた方がいいな。
「ねえ、このつみれって何?」
「え?ああ、これね。これはこの村で昔から飼育されている、その名もジャリパン地鶏。ストレスなく飼育されているからしっかりとしたうま味と甘みが特徴なんだ」
「そうなんだ。この生姜の効いた味付けも最高ね!さすが、城下町で噂になっているだけのことはあるね!」
「え、噂になっているの?」
自分の知らない間に城下町でうちの店が噂になっていたのか。一体その噂って何なんだろう。
「そうよ。ジャリパンにあるスープバーがとっても美味しいって評判なんだから!スープを目当てに旅に出る人もいるくらいよ」
そうなんだ、まったく知らなかった。最近この村の人以外に、見慣れない人物や、やたら着飾った人など、様々な人種や種族がこの店を訪れるようになったのは城下町の方で噂が広まったからなんだね。それに美味しいって評判なのはものすごく嬉しい。
でも、まてよ。だとしたらなぜデイジーは俺のことを知らなかったんだ?店のことが評判になれば、俺のことも、少なくとも名前くらいは出回るはずだ。それなのに名前を知らなかったのは何故だろう。
「ところで、俺のことも噂になってた?」
「ええ、なってたわ。でも、良い噂は聞かなかったよ」
え、マジで?そう言われて、思わず身構える。
「店の人が無愛想だったり、敬語を使ってくれなかったり、独り言が多かったりといい噂は全く聞かないわ」
「げぇっ!そうなのか!?」
自分の噂がそんなひどい物ばかりだったとは全く予想もしていなかった。だから名前もそれほど出回っていなかったんだね。いやぁ、知らなかったのも無理はないか。
「あはは、そうなのか、そうなんだ。いやぁ、まあ、しょうがないけどさぁ……」
「出た、独り言」
「しょうがないよ、これは昔からの癖だから直しようがないし、昔から敬語に触れてこなかったから話すことも難しいんだ。無愛想なのは、まあ、気を付けるけど。でもなぁ……」
「もしかしてディルって、おしゃべりだけど人見知りが激しいタイプだよね?」
「た、多分そうかも……」
デイジーから指摘された通りなのかもしれない。子どものころから主に料理を作ることばかりに向き合ってきたから、人と関わることはほとんどなかったような気がする。今までの人生を、自分の運命を変えてくれたスープを再現することばかりにつぎ込んできた。今では、ただ単にスープを作り続けているだけになってしまった。
その後デイジーはまた夢中になってスープを食べ始めたので、俺も自分のすることをしよう。大きな寸胴の中からスープストックを移し替え、寸胴を綺麗に洗わないと。ここは腐っても飯屋、清潔に保たないといけない。
「ねーねーディルゥ!お代わりちょうだい!」
「えっ、お代わり!?」
驚いて振り返ると、空っぽになったカップをグイッと突きだすデイジーの姿が。その表情は物凄い笑顔だ。
「だって私物凄くお腹減っているんだもん!それと追加で何か食べ物もちょうだい!」
「はいはい。ちょっと待ってな」
その後、デイジーの注文はとどまることはなかった。あまりにも美味しそうに良い表情で食べ進めていく姿をじっと見ていたかったという気持ちもあったが、何より自分の料理をおいしいって言ってくれるのが心から嬉しかった。それにお腹を空かせている人を放っては置けないからね。
「それにしても……」
完成したばかりのウォーピッグの角煮を皿に盛りつけながら、じっとデイジーを見つめる。思い返すのは昨日見た彼女の裸。たくさん食べているけど、いったい、あのすらっとした細い体のどこに入っていくんだろう。
でも、このまま食べ続けていたらいつまでたっても自分の疑問を解決することはできない。どうして店の中に倒れ込んできたのか、なぜあれほどの傷を負っていたのか、そして、そもそもデイジーはいったい何者なのか……。
「ねえ、そろそろいいかな?」
「えっ、何?」
「そろそろ俺の質問に答えてくれないかな。なんであんなに傷を負っていたのか、どうして店の中に倒れ込んだのか。そして、デイジー、君はいったい何者なのか」
「でも角煮が」
「答えてくれるまで出しません」
「んもう、しょうがないなぁ」
そう言って不満そうに頬をぷくーっと膨らませる。その表情を見て申し訳なく思ってしまったのだが、そうまでしないといつまでたっても話を聞いてくれないだろう。何か隠しているとは思えないが、純粋に詳しく、そして早く知りたいだけだ。
「私はここにスープを食べに来たの。街で噂になっているから、一度食べに行きたいと思ってね。それに、冒険者になって初めての冒険を兼ねているから、のどかな草原を通るジャリパンへの道を選んだ。でも、私聞いてないわ!」
そう言うと途端に語気を強める。一体何があったんだろう。
「何かあったのか?」
「そうよ、ここに来る途中真っ黒な姿をした不気味な怪物に襲われたの!こいつら弱いくせに集団で襲ってきて、命からがら逃げてきたんだから。そのせいで体中に傷を負っちゃって、死ぬかと思ったわ!ジャリパンの周りにあんな怪物がいたなんて知らなかった」
「怪物?」
デイジーの話を聞き、俺は首をかしげた。昔からここに住んでいるし、よく狩りに草原に繰り出したことも、野宿をしたことも数えられないほど経験している。生息している獣についても把握しているつもりだ。しかし、彼女の言う、集団で襲ってくる真っ黒な姿をした不気味な怪物なんて今まで聞いたことも、見たこともなかった。そんなもの存在しないはずだ。
彼女にもう一度その怪物に関して特徴を聞いたのだが、やはりその特徴と合致する生物は今まで見たことも聞いたこともなかった。一体どんな奴のことを言っているんだろう。
「だからな、そんな奴ら俺は見たことも聞いたこともないんだよ。夜だから見間違えたんじゃないのか?」
「本当にいたんだもん!夜だとしても明かり持ってたし見間違いようがなかったもん」
「その明かりはどこへ行ったの?ここに来た時には荷物を何も持ってなかったじゃないか」
思い返してみると、確かに彼女の持ち物は何一つなかった。さっきの話を聞けば、城下町からここに来るには、広大な草原を通り抜ける必要があるため、かなりの時間がかかる。それなのに、荷物を何も持っていないというのはかなり不自然だ。ここに来てくれる客の中にも、かなり大きな荷物を抱えている人がたくさんいる。それくらいの準備はしてくるはずなのに。
「それは、その……。奪われたのよ。その怪物に」
「はぁ!?」
言いにくそうに発した言葉に、俺は自分の耳を疑った。え、荷物を奪われた?あの真黒な怪物に?いや、そもそも草原にすむ獣の中で人間の持ち物を奪うような高度な知能を持つ獣は存在しなかったはず。だとしたら、その真っ黒な怪物は何者で、そして何のためにデイジーの持ち物を奪ったのだろうか。
え、まてよ。だとしたら……。
「おい、もしかしてお金も奪われたのか?」
「う、うん……ごめんねっ」
「そりゃないよ!」
「てへっ」
予想通りお金を持っていなかったことに驚き、あきれ、思わず頭を抱えた。だとしたら今まで約1時間、思いっきり食べ続けていた食事の代金も払えないということじゃないか。一体何人分食べたと思っているのだろうか。でも、空腹の人を放っては置けないし、たとえ一文無しでもお腹が空いていれば食べさせるのが俺の心情でもある。お金は、またあとで持ってきてくれればいいだけだしな。
「じゃあ帳簿につけておくよ。今払わなくていいから、またお金があるときに持ってきてよ」
「えっ、じゃあお金が無くても食べていいの?」
「ああ。その代り、死ぬ前までには必ず払ってもらうからな。いつでもいいから、お金が用意できたら持って来いよ」
「わかったわ、ありがとう!じゃあ豚の角煮ちょうだい!」
「まだ食うのかよ。温め直すから待ってて」
そう言って皿に盛りつけた角煮を再び鍋の中に戻し、火をつけた。その後、デイジーと街でのことや旅に出た目的など様々なことを話し合った。彼女の口から語られる話は、田舎に暮らす自分にとってはかなり新鮮で驚きと興奮に満ち溢れていた。
運命のスープ 戌眞呂☆ @inumaro0524
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