Time after time

『・・おまえがあんまり平気だから。ちょっと前に、ファンの女の子にシャツに口紅つけられたとき、おまえ何も言わなくて。知らん顔で洗濯してくれてた。何か言うかと思ったのに、何も言わないから。友達に髪の毛もらってトイレに置いた。でも何も言わないし。マニキュア落としは、爪割れたときにマニキュア塗ったけど、弾きにくかったから止めたから、取って捨てた。ピンは、髪の毛、風呂場にも仕掛けたのにおまえ何も言わなくて、でも無くなってたから。友達にもらって俺が枕の下に入れた。おまえ、そんなに俺に関心ないのかって。』

 私の右手の眼鏡を取り返そうともせずに、なんか必死で。

 顔をあげてあなたの目を見つめる。泣きながら。あなたは目を細めてない。まっすぐに私を見つめて言った。

『ずっと本当は気にしてくれてた?俺のトラップに気づいて、我慢してくれてた?ごめん。怖くて、情けないけど怖くて。おまえ、かわいいし。なんで俺なんかと一緒にいてくれるんだろうって。トラップなんか仕掛けてごめん。ちゃんと聞かなくてごめん。』

 そんな言葉を聞いて、もっと涙が出てきた。

「・・平和な時間を・・壊したくなかったんだ。・・だから考えて。想像して・・・。」

 あなたは、そのまま私の頭を濡れた胸に抱きしめて言った。

『ごめん』

 ワーワー泣いた。声を出して。濡れた胸で。シャワーの滴の上から私の涙があなたの胸を濡らす。

『ごめん』

 泣きながらちょっと嬉しくなった。自分の泣き声で、カラカラって頭の中の音が聞こえなくなった。


 体が冷えたからって、あなたはもう一度バスルームに戻った。私は右手にあなたの眼鏡を握りしめて、頭から外されて、洗面台の上にある赤いヘアクリップを見つめる。

 目を半分閉じてわざと焦点をぼかして。0.1くらいにボケてるかな。

 ヘアクリップは白い洗面台の上で、ちゃんと自己主張していた。赤い色で『私はここよ』って。


 ねえ、私たちは二人して大バカだよね。5歳も違うのに。一緒の大バカだよね?

 バスルームの中から、あなたの鼻歌が聴こえる。私たちが出逢ったときに、あなたが歌ってた歌。

 私がひと耳惚れした歌。

 バスルームでエコーがかかって、あの日みたいに聴こえる。

 私はずっとこんなだと思う。でも、あなたも一緒だったんだね。5歳も年上のくせに。男の人のくせに。

 無器用に少しずつ、本当の平和な日常を作っていければいいな。二人で一緒にちゃんと素敵なオトナになりたい。

 Time after time  バスルームのドア越しにあなたの歌声が響いている。

一緒に生きていきたい。



〈Fin〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Loveing Red = 0.1の風景 = moco @moco802310

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ