寿司の起源、そして宇宙へ 寿司小説 決定戦に出しそこネタ

壱りっとる

第1話

 水と緑に囲まれた火星で権勢を誇るα-アミノ酸生物群S-C族は、滅亡の危機に瀕していた!


 太陽風で大気が吹き飛んでしまうからである。


 準備された移民船団S-C『ANA』は、大量移送を前提に竜骨の周囲にα-アミノ酸生物群S-C族をそのまま配置し、生存に必要な酸素・栄養素を送廃する管を張り巡らせ、真空を遮断する複層皮膜でパッケージ、更に外板で補強した、最小にして万全のものだ。


 第三惑星の水は汚染されており、この移民船の中で数世代を過ごすことになるだろう。


 いずれ時が来れば本来の姿に戻れるだろう。

 願わくばその時が早く訪れんことを。


 だがS-C族が移民船から開放される日は来なかった。

 火星のように澄んだ水と大気が生まれるには、数十万年の時が必要だったからだ。


 移民船団は増築と改良を重ね、船一隻を一単位として群体のように生活を送っていた。

 それが数万年続き、数十万年が過ぎた頃には、最早船一隻は一個体であると信じて疑わず、自動化された建造過程を”繁殖”と信じるものが大半となった。


 だがその時、彼らは釣り上げられたのだ!!


 船体を守る外板を破壊され、外気を遮断する複層皮膜に亀裂が走った瞬間、彼らに先祖の先祖のそのまた先祖の祖先から引き継いがれた知性がほんの少しだけ蘇った。


 癒着した竜骨より引き剥がされ、一心同体であった同胞から切り離され、冷ました酢飯に乗せられ、指につままれ、その口中から食道を通り胃で消化され、彼は大腸小腸で吸収される。


 細分化され、人類のα-アミノ酸と半ば同化してもなお、彼らの本能に近い知性は残されていた。


 定期的に寿司を食べたくなるのは、彼らが同胞を求めるシグナルでしか無いのだ。


 人類と一体となったα-アミノ酸生物群S-C族は、いずれその船である人類と共に母なる火星へ帰る日は来るのだろうか?

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