第2話
囚われた美しい姫君と召使いを兼任する私の朝は、城主様(世間では魔王と呼ばれている男)を優しく起こすことから始まる。
今朝の食事はステーキだった。(何の肉かを考えてはいけない)
囚われの姫とはいえど、召使いの真似事くらいできないようでは、この城で生きていくことはできない。
ステーキをなるべく音を立てないよう切り分けた後、いつものように城主様を起こそうと見せかけ私は意図的に足をもつれさせた。
「おはようございます。城主様…アッ!!」
我ながら自然な足のもつれさせかただった。
倒れこむ勢いに加え、自然な形で腰のひねりを乗せ、腕は順手に握ったナイフの刀身と一体化させて、無防備な寝顔の右目へ鋭い平突き!
どこからどうみても不幸な事故です。申し訳ございませんさようなら城主様。
「ナユタ王国短刃剣術 暗殺技 宮躯切(ククリ)」
姫として生まれた私が、どうして王国の武技を学ばされていたのかは、今の今でもさっぱり分からない。行き遅れの叔母(姉王)が嫌がらせで「戦闘狂国と言われるナユタの王族たる者が、自国の武技を全て使えなくしてどうしますか」と父に吹き込んだためだろうと確信している。しかし今だけはそれに感謝したい。
15年もの間、毎日修練した結果が完璧な平突きを形作らせていた。
ナイフの風切り音すらも発生させない理想的な暗殺技は――枕に深く突き刺さった。
心の中で舌打ちを繰り返しながら私は後ろをゆっくりと振り返る。そこには私が切り分けたステーキを手づかみで食べている男の姿があった。
「おはよう姫君。今日も無駄にお元気そうでなによりだ」
ベッド脇に倒れ込む形なっていた私は、ゆっくりと体を起こし、身なりを軽く整え、何事もなかったかのように城主様に対し改めて挨拶をした。
「おはようございます。城主様」
毎晩この男の寿命が尽きることを天に祈っているのに、今日もお元気そうで大変残念だ。
しかし祈りは天に届かなかった 乃良狗 @no_ra_inu
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