史上最悪のトラウマ小説を投稿します

ちびまるフォイ

ほら…あなたにも…

僕はこの小説を最大級のトラウマ小説にしようと思って筆をとった。


この小説を読んだ人の心がえぐられて全治1ヶ月くらいになるような

ものすごいトラウマを抱えてほしい。


そんな思いで書くことにした。


でも、この冒頭から懸命なみなさんが察するように僕に文才はない。

そこで知り合いのネット小説家の先生に聞いてみた。


「ふむふむ、トラウマ小説を作りたいと」


「はい。ぜひ先生の力が借りたいんです」


「うーん、丸投げされてもねぇ。なにかアイデアはあるのかい?」


「はい、実はちょっと書いてみたんです」


先生に原稿を渡した。


とある廃墟に訪れた少女がそこで出会った幽霊と心通わして

最後には友達になると思いきやの死亡エンドというお話だ。


「……ありがちだね」


「そうですか? 僕なりにトラウマを考えたんですけど」


「この小説はすでにタイトルで「トラウマ注意」と書いただろ?

 その時点で読者はすでに"あ、これ怖い系だな"と思うじゃないか」


「なるほど」


「そうやって身構えた相手に、ありきたりの後味悪いホラーは通用しないよ」


先生の言うことはもっともで、僕は考え直してみることにした。

カクヨムやってる人がみんなひとしくトラウマになってもらえるようなもの。



「あ、そうだ!!」



「なにか閃いたかい?」


「はい、雑学なんかどうですか」


僕は自分のひらめきをひけらかすように語った。


「布団が実はダニの糞と死がいまみれなのは、もう知ってるじゃないですか。

 そんな感じで知りたくもなかったことを小説にすれば

 きっと読んだ人がみんなトラウマになると思います」


「ふむ、それはそうかもしれないな」


「でしょう!」


読んだ人が共感できる内容ほど、トラウマに向いたものはない。

僕は文才はないけれどアイデアだけにいは自信があるのだ。


もちろん、アイデアだけなので、その先は考えていなかった。



「……で、何を書くの?」



先生に言われて目がテンになった。



「あーー……えと、ぜんぜん知りません。テレビ見ないし」


「それじゃダメだねぇ」


またしても計画は中絶してしまった。

僕は悩んだ。

先生が諦めて帰ったあとも一人で悩んで考えまくった。


それでも答えが出なかったので、人に聞いたり、実験したり。


ありとあらゆる思いつく限りのことを脳汁を振り絞って考えた。

人生でここまでカロリーを使った頭脳労働はないくらいに。





トラウマについて考え続けること10年。



僕は小説を完成させた。

血と汗と涙と、命を削りに削って書いた作品だ。


「先生、お願いします」


「うむ」


僕はドキュメンタリータッチに書かれた小説を先生に読んでもらった。

先生はじっくりと読み終わると、首をかしげた。



「この小説、君がトラウマについて考え続けて、

 私に小説を読ませるところまでは書かれているね。

 でも、どこにもトラウマなんてないじゃないか」



「いえ、あるんですよ。ちゃんと見てください」


先生は小説をくまなく読み直した。

でもやっぱり見つからないみたいで反論した。


「トラウマなんてどこにもないぞ!

 私が怒って君に怒鳴っているセリフしかないじゃないか!」


「良く見てください。トラウマはここにあります」



僕はそっと小説を指さした。





「ほら……これだけ手間暇かけた小説なのに、誰も評価してないんですよ……」





先生はぞっとして、ブラウザバックした。

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