第9話彼女はピッピ
彼女は告白した事で心の錆びたドアはほんの少し開かれたのかもしれない。話し終わった後ホッと溜息を吐いて彼女は言った。
「でもこの髪は自分で気に入ってピンクにしてるのよ。今の自分に一番似合ってると思うから」と。
彼女はやっぱり奇抜で凛としていてとてもキュートだと僕は改めて思った。
・・・・・・
「おーい、また飛んでんのか?朝礼とっくに終ってんぞ」
級友に肩を叩かれて僕はようやく意識を今現在に取り戻した。
「あっ・・マジで?凄くいい事思い出してたのにな」
少し恨めしそうに呟くと級友は何か誤解したようだ。
「どんな事考えてたんだよ!嫌だね~これだからムッツリは」
そんなことを言ながら教室を出て行こうとする。
「おい、どこ行くの?」
そう聞いた僕に本気で呆れたと言わんばかりの声で級友は答えた。
「体育館だろ。今日は新入生が来る日じゃないか」
僕は級友の後に続いて歩きながらまたしても彼女の事を考えていた。彼女とは結局2回しか会わなかったのだ。その2回で僕は彼女に恋をした。たぶん。この気持ちは恋なんだろう。彼女と別れた時僕は中2だった。そして今、僕は中3に進級するのだ。
「なあ、新入生かわいい子いるかな~!」
呑気な声で級友は窓の下を通って行く新入生をチェックし始める。
「何やってんだよ」
今度は僕が呆れてると、何か窓の外に引き込まれた。何だ?何が気になったのか自分でも分からずに戸惑う。何かが視界に入ったんだ、そう何か僕の琴線に触れるような・・・ピンク色のウサギ!僕は窓をのぞいていた級友を押しのけて、身を乗り出して目を凝らした。その小さなマスコットは紺色の人の波を泳いでいた。学校指定の同じカバンの1つにそれはちょこんとぶら下がっていて、その片耳には包帯のように巻かれた赤いバンダナ。
「ピッピ・・・」
3階の窓から呟いた僕の言葉にマスコットの持ち主が振り返った。肩までで切りそろえられた真っ直ぐな黒髪の少女。彼女と目が合ったのはほんの一瞬だった気がする。でも、彼女は微笑んだんだ僕の目を真っ直ぐに見つめて。
「知り合いでも居たのか?」
級友は探すのを諦めて歩き始めた。僕は体育館に向かっているはずの彼女に思いを馳せる。
彼女の名前はピッピ。
僕の大好きな女の子だ。
僕のピッピ 夜紗花 @sayaka-toy-box
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