第8話錆びたドア

 ミコトと姉妹になりたかった。だから同じ色に髪を染めたし、ミコトを離さなかった。姉妹が欲しかったのだ。どうしても。


(姉妹みたいだ)


 と彼が言った。その瞬間泣きそうになった。嬉しくて、嬉しくて。私はこの言葉を貰いたかったのかもしれないとフッと思った。この何て事の無い平凡そうな男子中学生なら私を理解してくれるかもしれないとまで思えたんだ。


「昔ね、小さな女の子がいたの」


 突然話出しても彼は特に反応もしないで私の話の先を促してくれる。この人なら心の奥で錆び付いたドアを開いてみてもいいかもしれない。そしたら、私も楽になっても許されるのだろうか?

 まだ私の髪が黒くて、ミコトと出会うずっと前。私には小さな妹が居た。居たと言うのは正しくないかもしれない。私にはその頃の記憶が殆ど無いのだから。その小さな女の子は生まれつき体が弱かったのだと父から聞いた事がある。だから父も母も小さな女の子にかかりきりだった。その頃私はまだ幼くて妹の存在も、その妹が病弱な事も理解できなかった。いつでも優先されるのは妹。突然やって来て泣きわめいて、父も母も独占してしまう。疎ましく思っていた。本当に。その頃の嫌な感情だけは今でもはっきりと覚えている。黒くて重い塊のような感情。妹は1歳になれなかった。風邪をこじらせて肺炎になってしまった。あっけなく妹は居なくなった。みんなの心に大きな風穴を開けて。私に残ったのは後悔と懺悔。なぜ優しくしてあげなかったのか、大事だったのに、とてもとても。


「その子がね、私を(ピッピ)と呼んだの。意味なんか無いのよ。まだ上手にしゃべれなかっただけ。ピッピと呼ぶその声だけははっきり覚えてる」


 ずっと心の中で後悔していた。誰かに許して欲しかった。彼女を忘れるのが怖かった。その内それがミコトと姉妹になりたいという形になって表れたのだ。そして今、初めて心が軽くなった気がする。


「ミコトは妹さんだったんだね」


 静かな声で彼が言う。


「うん、そう」


 いつの間にか真上に移動した太陽を見上げて2人は少し笑った。


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