けつまつ
「アメリ、私の服、どこに行ったか知らない?」その日の晩にアメリを尋ねたリカは、ベッドに座るアメリにそう尋ねた。それまで手持無沙汰にマントの端を弄っていたアメリは首を傾げ、リカの着ているジャンパースカートを指した。リカは首を横に振った。
「桃色のワンピースだよ、どこに行ったか知らない?」アメリは赤い目を見開いた。ピンクのワンピースの在処を聞いたということはリカの記憶が戻ったということに繋がる。
アメリは自分の格好を思い出した。メッシュの髪、先の色の違う耳、ピアス、変わってしまった目の色。リカの記憶が戻った今、『あの頃』から変化しているのは自分だけだということに、アメリは酷く恐怖した。黒いマントで体を隠すように丸まり、アメリは端を握りしめて湧き上がる震えに抗った。
「ねえ、『メリー』、なにが怖いの」返事をしないアメリにリカが近づく。ベッドに乗り、服の裾を引く。そうして、やっと振り返ったアメリは泣いていた。
「ずっと頼ってきた姉さんが、倒れて、もう目を覚まさないって、」ぐずぐずと泣くアメリの言葉はとぎれとぎれで不明瞭だ。
「それ、それで。それからはずっと一人で、それがあたりまえで、姉さんが戻ってきたけどどうしていいかわからなくて。私、私は……」一人でも生きていけると強がってアメリは薬剤と魔法と思い出に縋り、走り続けた。走りぬいた未来も見えないまま。
「大丈夫、また、二人でやっていける」リカはアメリを抱きしめて、その肩にキスをした。身じろぎするアメリに、ベッドが軋みをあげた。
「姉さん、私でも?」アメリはリカを抱き返した。リカは深く肯定する。
「うん。アメリならできるよ。大丈夫。二度目だから前よりきっともっと上手くいくよ」アメリはさめざめと泣いた。
リカはアメリが落ち着くまで待った。
「ねえ、アメリ」やさしくリカは髪をなでた。アメリは顔をあげた。
「あのときアメリが助けてくれなかったらわたし、今こうしてはなかったと思うの。助けてくれて、ありがとう」リカはアメリをぎゅっと抱きしめる。アメリはリカの言葉をさえぎって話しだした。
「そんなこと、リカが私をかばったことに比べたらたいしたことじゃない。私は、それをずっと、謝りたくて」アメリは再び咽び泣いた。
リカはもう一度、今度は額にキスをした。アメリは驚いて口をぱくぱくさせた。耳や首に線が赤く浮かび上がる。真っ赤になったアメリは、リカをまじまじと見ると、目を閉じて唇にキスをした。リカは微笑んだ。
翌朝アメリを起こしに行ったリカは、アメリと手をつないで朝食に現れた。
アメリは恥ずかしそうに明後日の方向を見ていたが、その手を振り払うことはなかった。
そんな二人を見て、婦長さんは優しく笑った。猫たちは肩をすくめ、それを見守っていた。
イン・ザ・カプシュール 佳原雪 @setsu_yosihara
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