巻積雲
巻積雲———秋の代表雲。細かな雲の粒がたくさん集まってできている雲で、空に白い小石をばらまいたように見えるため、うろこ雲やいわし雲、鯖雲などと呼ばれている。でも形が崩れやすく、美しい姿を長くはとどめないことが多い。
「涼香、売店いこー」
もうお昼。午前の授業は本当にお腹が空いて聞く気になれない。来年受験生なんだけどこのままで大丈夫かな。
あ。あの人。
朝空の写真を撮っていた、あの人。
同学年!?そんな、まさか。あんな人見たことない。転入生?そんなわけない。
少し茶髪でいかにも普通っていう感じの髪型でメガネをつけてて、結構整った顔立ち。制服は着崩してはいないけどぱっと見チャラい雰囲気がでてる。今時の男子高校生いって感じ。
こんな人が空好き?なんか変なの。
「優、あんた今日なに買うの?」
「今日もメロンパン食べたいけど、多分食べれないからクリームパンかなあ...」
私の学校の売店はメロンパンが凄く人気。だから、食べれない日が凄く多くて、最近はクリームパンばっかり食べてる。やっぱりメロンパン食べたいよ...。
うわ、やっぱり皆並んでる。というか塊ができてる。今日も無理かなあ。
「優!優!」
涼香の呼ぶ声がする。私を手招きしているみたい。右手にはメロンパンが、左手には焼きそばパンが。いつの間に私の隣からいなくなったかと思えば、あの塊を押しのけて前に行ってたみたい。
「え、ありがとう...嬉しい」
「あんたぼーっとしてるからでしょ。ほら教室戻るよ」
「えへへー」
涼香は私にメロンパンを渡し、笑顔でそう言った。それにつられて私も笑顔になった。こういうかっこいい女子に私はなりたかったなあって思う。まあ無理だけど。
廊下を歩いていると、またあの人がいた。窓の外を見てる。私もつられて立ち止まり、窓の外を見た。巻積雲が出ている。
「あ、巻積雲...」
つい言葉が出てしまった。するとあの男の子は、私を見て驚いた顔をしてみせた。
「君も雲が好きなの?」
「え、は、はい!」
初めての会話。巻積雲がきっかけで。
涼香は空気を読んだのかわからないが、「先行くわ」といって教室へ向かってしまった。それに気づいたのか、少し申し訳なさそうに、
「ごめん友達行っちゃったね、僕は倉田悠斗。雲とか空が好きでよく写真撮ってるんだ」
「私は赤佐優です。あの、私もです。雲が好きで...人に理解されないですけどね」
私と悠斗くんはお互いに笑いあった。こんな急展開有り?さっきまでは『あの人』だったのに、名前もわかった。ああ涼香様、神様、私これからなにが起こるんですか?
見上げたら雲があったので。 はる @Haru_rrr
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