世界の果てのバレンタイン

葛瀬 秋奈

バレンタインの贈り物

 数年前、時の塔の管理者たる私以外の人類は地上から姿を消した。

 以来、季節行事にはほとんど無関心に過ごしてきたが、今日はバレンタインデーなのだと新聞を配達してきたロボットに教えられた。それではひとつバレンタインをネタにしたポエムでも書いてみるかと思い立ったはいいものの、思いつかない。

 仕方ないからこのようなエッセイもどきを書いている次第である。私はこのような散文は慣れていないのでおかしなところもあるかもしれない。

 ちなみにチョコレートなど食べられないロボットに、バレンタインの意味があるのかと配達夫に尋ねたら、現在ロボットたちの間では人間文明時代の文化の真似事が流行っているらしく、バレンタインには好きな素材を使ってそれぞれの想像する「チョコレート」を作って送りあっているのだという。流行とは実に奇っ怪である。というかロボットたちに想像力が生まれていることに驚いた。

 配達夫は私にもハート型のボール紙をくれたので、素直にありがとうと言っておいた。手紙も書けないロボットにも贈り物をする程度の心は存在しているらしい。あるいは何も考えず人間の真似をしているだけなのかもしれないが。

 それでも私は嬉しかった。

 かつて、我が国においてバレンタインは大切な人へチョコレートを贈る日であった。私は長い間この行事とは無縁に過ごしてきたのだが、配達夫の来訪によって計らずも私はバレンタインに参加することになってしまった。

 そこで私も思いついた。ロボットたちに習い、チョコレート以外の贈り物を誰かにしてみようと。

 察しのいい方ならばこの時点で気づいたかもしれない。そう、この文章そのものが、私から貴方への贈り物なのだ。これならば腐る心配もない。

 何日、何年かかっても構わない。時間も空間も越えて誰かに届くことを切に願い、この文章をネットの海へと流す。もはやバレンタイン関係ないなどと野暮なことは言わないでほしい。

 前置きが長くなってしまったが、最後にここまで読んでくれた貴方に、心からの感謝と、愛を込めてこの言葉を贈ろう。


 ハッピーバレンタイン!

 (タンポポコーヒーを飲みながら)

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