第26話
「本当に、それだけでよかったのか?」
「はい、十分です。奈月さん、晴さん、愛希くん、真冬君。ありがとうございます。」
大事そうに荷物を抱えながら、歩は、俺達に礼を言う。
「逢った時でいいから母さんと涼子さんにも言ってやって。喜ぶから。」
「あと、朔ちゃんにも。」
「はい!」
瞳は結局、マグカップを選んだ。自分の分と、俺達兄弟の分と母さんと、後は俺達の様子を伺いながら涼子さんと朔ちゃんの分を。
他のものは、俺達が適当に選んで買った。
「じゃあ、車乗って。」
行きと同じように、晴が運転席に座り、エンジンをかける。ドアを開けて歩を促すと、歩は小さく頭を下げて後部座席に乗り込む。
「代わろうか?晴。」
「いい、誰かの運転より、自分の運転のほうが安心する。」
晴のすげない言葉に、ナキ兄はふわふわと笑う。全員が乗り込むと、晴は車を発進させる。
するとほどなくして、歩がゆらゆらし始める。
「ん…?」
「あ、すみません…。」
「いいよ、寝て。真冬。」
「あいよ。」
真冬が後ろから、涼子さんが持ち込んだひざ掛けを手渡してくる。
歩は眠気に抗っているが、抗い切れていない。
「疲れたんだろ。静かに運転するわ。」
「ん。」
前の兄二人が、後ろの様子を察して、流石の息の合い方で、音楽と冷房と運転を静かにする。
「道混んでるしね。着くまでよろしくね。愛希。」
「僕も寝よーっと。晴ちゃん、安全運転~。」
「お前に言われなくてもだよ、真冬。」
晴がおらつくと、真冬が背後で目を閉じたのが感じられた。
「奈月。お前は寝るなよ。」
「寝ないよ。」
晴の釘刺しに、ナキ兄はまた笑う。
「愛希、お前は寝ててもいいぞ。」
「眠くなったらな。」
弟を労わる言葉に小さく反抗をなんとなくしてみる。
「あ、晴。スーパー寄って。今、朔に連絡したら朔も夕飯食べてくらしいから、お礼しようかと。材料買いたい。」
「何もなくても朔に食わせてるけどな…。」
晴は口は悪いが、口ほどに心の狭い男ではない。
二人の小声の話を聞いている間に、俺は眠りに落ちた。
このルートを選ばせる。 水無瀬 @Mile_1915
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