第25話

(流石)

俺が歩を誘って店に入ると、和歌奈さんは予告通り、値段を隠してくれていた。

隠せない、と言われたあたりも目立たなくしてくれているという完璧、っぷりだ。

「おせえぞ。」

「晴。」

どうやら急いできた、晴のほうが早かったらしい。

「すみません、晴さん。」

「別に責めてない。」

歩が謝るとぷいとそっぽを向いてしまう。

「母さんに怒られんぞ。」

小さく俺が囁くと、拳が振ってくる。いつもながら理不尽だ。晴は一つ咳払いして

「歩。お前のものを買おうと思う。」

「…さっき、買ってもらいましたが…。」

「あれは、よもぎのだし、母さんの金。今度は俺達4兄弟から。」

「でも…。」

「奈月。」

遠慮を見せる歩に晴は選手交代する。

「僕たちに花を持たせてよ。可愛い妹のためにね。」

「愛希君に真冬君も…。」

「僕たち、そこまで金ないことはないよ。」

「可愛い女には惜しまないよ。」

「そうやって、遊び人ぶる…。」

呆れるように呟く真冬をにらみつける。それでも遠慮を隠さない歩に、和歌奈さんが援護射撃をしてくれる。

「歩さん、店長の和歌奈です。…自分で言うのもなんですが、うちはそんなに高価な店ではありません。彼らの懐はさして痛みませんよ。男の人を立ててあげてください。」

歩はまだ迷いを隠さないが、折れる気は見せた。

「歩サン、これなんかどうです?」

真冬がずけずけと進む。真冬がちらりと視線を向けてきたのに、俺は乗っかる。

「俺はこっちかな~ナキ兄、晴。俺にも買ってくれる?」

「ははは…どうする、晴?」

「ダメに決まってるだろ…奈月、俺にも買ってくれ。」

「ははは…。」

わらわらすると、歩はクスリと笑う。

「じゃあ、私からのお願いです。奈月お兄ちゃん、晴お兄ちゃん。歩のわがままだと思って、お揃いが欲しいです。」

正直、いい年した男どものお揃いは見苦しいものがある気もするし、その願いは彼氏にでもしろよ、とも思う。

晴は少し考え込む様子を見せるが、歩の願いを断れはしない。

和歌奈さんは笑って

「男性でも使えるもの置いてますよ。どうぞ。」

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