夜明けに吼える

藤井カスカ

夜明けに吼える

 俺は夢を追ってきた。ただひたすらに、漫画家になりたいと思って突き進んできた。アルバイトをして食いつなぎ、必死に原稿を描いてきた。現状で成果は出ていなくても諦めなければ努力はいつか実を結ぶ、そんな無責任な言葉を勝手に信じ込んできた。新人賞に応募して、その結果が発表される刊は全て買ってきた。自分が受賞していないのを知っていても、それでもどこかに名前がありそうな気がして隅から隅まで目を通していた。

 馬鹿野郎だ、どうしようもなく。

 気付けば三〇歳を過ぎていて、恋人はおろか友人すらいなくて、両親からは見放されて、編集者からは一声も掛けられていなくて、コンビニのバイトと風俗くらいでしか会話はしていなくて、描いている原稿も面白くない。夢を諦めないことの一体どこが美徳なんだ。それは叶えられて初めて賞賛されるような美徳になるわけで、こんな俺を一体誰が褒めてくれるというんだ。どうして俺は気付かなかったんだ。昨日の俺を殴りつけて、そして一昨日の俺を殴りに行かせたい。気付かなかった今までの自分すべてに、そして漫画を描き始めた頃の俺に痛みを届けたい。努力と現実逃避は違うんだぞ、と。なりそこないになる未来を一度でも考えてみろ、と。

 いつの間にか俺は泣いていた。狭い部屋の中、洟をすする音と冷蔵庫の低い駆動音だけが聞こえる。


 しばらく六畳一間の端にうずくまっていたが、泣くのも馬鹿らしくなってバイトの支度を始めた。夜光塗料でわずかに光る目覚まし時計の針は、静かに午後九時半を指していた。

 コンビニの深夜シフトは雑務こそ多いが、接客頻度が低いので楽だ。いつも俺は仕込みや清掃をさっさと済ませて、漫画の設定やら内容やらを練っている。いや、練っていた。もうそんなこともしないだろう。年甲斐もなく泣いたのは、自信のあった作品が落選したからだった。今まで何度もそんなことはあったが、急に、何もかもが馬鹿らしくなり、何もかもが無駄に思えてきた。なぜかは知らないが、自分のしている行為の愚かしさに気付いてしまった。紙の無駄だ。才能なんて俺にはなかったんだ。そんな思考が溢れ、死にたくなった。取り返しがつかないことをした、と、焦りも感じた。三〇を過ぎた男が、そんな理由で、部屋の電気も点けずに泣いていたのだ。滑稽。今すぐにでも消えてなくなりたい、と思った。

 しかし、子供のようにいつまでも愚図っているわけにもいかないし、まして面倒を見てくれるような存在もいないから、俺は諦めてバイト先へと向かった。冬の風が責めるように肌を刺した。


 川沿いの道を歩いていると、不意に夜明けが怖くなってきた。陽が昇ればまた少し年を取る。それを繰り返して、無意味な時間を塗り重ねて、こんな価値のない俺が生まれたならば、明日の朝にはさらにどうしようもない俺になっているに違いない。そんな考えが浮かび、堪らなく憂鬱な気分になった。肺を万力に掛けられたような息苦しさに耐えられず、ガードレールに手をついて深く息を吸った。しかし、いくら吸っても肺が空気で満たされることはなかった。すぐ側を流れる川のせせらぎが、俺を置き去りにして響き続ける。

 歯を食いしばって再び歩き始めたのは、およそ六分後のことだった。


 バイト先に着き、諸々の支度を済ませてタイムカードを切る。同じ時間帯のシフトに入っている山田は、すでに品出しに取り掛かっていた。客は一人もいない。

「あ、菊池さん、おはようございます」

 俺に気が付いた山田が挨拶をしてきた。

「うっす」

 山田は上京中の男子大生で、授業の関係もあり深夜のシフトに入っているらしい。建築家を目指している、と言っていた気がする。

「菊池さん、漫画の方はどうですか?」

 爽やかな笑顔を湛え、そう聞いてきた。この前のバイト中に新人賞の話をしたのを忘れていた。彼には何の罪もないが、無性に苛立つ。

 聞くなよ、そんなこと。

「あぁ、まだ確認してないんだよ。今回は挑戦的なやつを描いたから、一般受けしないかもしれないんだ。だから、受賞となるとどうだろうか」

「そうなんですか、やっぱり売れるような作品じゃないと受賞は難しいんですかね。流行りとかも関係あるだろうし」

 山田は納得したような顔をして頷いている。しかし、俺の言葉は醜い嘘でしかなかった。ちっぽけな自尊心を守るために騙したのだ。なぜなら、今回の作品は万人受けを念頭に置いて描いたのだから。受賞を狙って、さっきの自分の発言と真逆のことをしたのが現実だ。だが、本当のことは情けなくて言えるはずもなかった。

「早く読みたいですよ、菊池さんの。俺、絶対に面白いと思うんです。いろんな知識もあるし、話も面白いし」

 やめてくれ、と内心で思う。そんな話は聞きたくない。何の疑いもなく発せられる言葉が、鋭く俺の心を切り裂いた。

「そうか?」

 取り繕ってそう言いはしたが、俺の声は明らかに震えていた。

「漫画家目指してずっと頑張ってる菊池さん見てると、俺も頑張ろうと思えるんですよ、建築家目指して……あ、お客さんだ」

 

 働きながら今後どうするかについて考えてみたが、何も思い浮かばなかった。資格もない上に年も食っているから就職に有利とは決して言えない。今までの自分が本当に漫画一筋だったというのが痛いほど分かった。デビュー出来れば良いが、出来なければこれほど悲惨なのか。そうやって客観視でもしないと耐えられないくらいに現状は酷い。思わず溜息が漏れる。もっと他にやりようだってあったはずなのに、どうしてこんなことになっているんだ。今に至るまでの俺が何を考えて生きてきたのか、自分のことながら理解出来なかった。何がそこまで俺を動かしていたのだろう。それさえも冷静になってみると分からなかった。山田の言った素直な感想を思い出して、内臓が縛り上げられるような苦しさを覚えた。


 ぽつぽつと来る客の相手をしながら仕込みを進めていると、深夜三時になっていた。山田が休憩している間に、俺はちょっとした洗い物を片付けることにした。蛇口から出る水は当たり前だが冷たく、冬の厳しさを感じる。そっとすくってみたが、指の間を抜けてこぼれていった。辺りには排水の音と、スポンジで器具をこする音しかしない。

 落選した作品の何がいけなかったのか、気が付けばそんなことを考えていた。もう描くつもりはないが、どうしてもそれが気になった。ストーリーが原因なのか、キャラクターの魅力不足か、コマ割りが単調だったのか、画力が周りに比べて劣っていたのか。原因となり得るものはいくつもある。もちろん俺に限った話ではないだろうが、こうした構成要素のどこかに穴があるから審査に通らないのだ。問題はそれを自分自身が把握し、改善出来るかどうかにある。俺は今まで何度も落ち、その度に自己分析を繰り返してきた。そこで何か欠点が見つかれば次作で改めた。なのに、一度も受賞したことがない。改善に改善を重ねたつもりだったが、それでも駄目だった。こうなると根本的に漫画を描くことが向いていないのかもしれない。最近では描いているのが苦しいようにも感じるし、その可能性が高い。そんな考えに、バイトに行く前のあの時、たどり着いた。

 いや、ずっと前からそんな気は薄々していた。しかし、俺は描き続けた。まるで気付かない振りでもするかのように投稿し続けた。本当に描きたかったのか、それとも迫ってくる現実から目を逸らすために描いていたのか、そんなことは考えたくもなかった。


 結局、何が原因なのか分からないまま休憩が回ってきた。

「どんな作品なら受けるんだよ、ちくしょう……」

 無意識のうちにそんな言葉が漏れ出る。深呼吸をし、もう俺は描かないんだから気にしなくていい、と言い聞かせた。口が渇き、貧乏揺すりが止まらない。苛立ちが抑えられなかった。だけど、俺は何に苛立っているんだ。これからどうすればいいのか分からないことに、だろうか。それとも自分の不甲斐なさについてだろうか。

 時計の針がいやに大きな音を立てて前に進んだ。三時四〇分、もうじき朝がやって来る。そうしたら、俺はまた少し年を取る。どうやって生きていけばいいのかも分からないままに。


 休憩から戻ると、山田は捨てられたレシートの裏に何かを書き込んでいた。さらさらと動くボールペンはまるで意思を持っているように止まることはない。いつになく真剣な顔をしていた。

「何を書いてるんだ?」

 俺が気になって山田に聞くと「今度提出する大学のレポートのメモ書きですよ。ちょっと考えがまとまったんで。あと暇ですし」、彼は顔をこちらに向けて楽しそうに答えた。何となく、羨ましい。

「と言うことは建築関係の」

「そうですね。まあ、それが専攻なんで」

 メモの続きを書き切ったのか、山田は制服のポケットにレシートをしまい、そして伸びをした。

「あ、菊池さんっていつから漫画描いてるんですか?」

 思い出したかのように山田が聞いてきた。俺は無意識のうちに下唇を噛み、答えるのをためらっていた。胸の中にどろどろとした感情が渦巻く。答えたら、無駄にしてきた時間が一気に押し寄せてくるような気がした。初めて描いたのは高校二年生、つまり一七歳の時分からだ。そして今の俺は三一歳。一四年もの間、漫画を描いてきたことになる。人生のおおよそ半分だ。それ程の時間を、俺は無駄にしてきた。なりそこなえばそうなるのは必然で、評価されなくてはただのクソだ。俺は一体何をしてきたんだ、今まで。

「菊池さん?」

 山田の声で思考が一時中断された。答えたくはなかったが、そんな俺の現状なんて彼には関係ないから素直に答えることにする。

「ああ、計算してた。高校二年からだから、だいたい一四年かな」

俺の精一杯取り繕った言葉を聞き、山田は驚いた表情を浮かべた。

「へぇ、ずっと描いてるんですね。やっぱり菊池さんは凄いですよ」

「いや、そんなことは……」

「だって十四年ですよ、人生の半分じゃないですか。普通の人には出来ないと思いますけどね、何かにそれほど打ち込むことは」

 お世辞なのか本当に感心しているのか、内心では見下しているのか真剣に尊敬しているのか、そんなことは分からない。だが、どちらにしても彼の言葉は不甲斐ない俺に突き刺さった。十四年という途方もない時間の成果がこれかよ、とでも言われているような錯覚に陥る。けれど話し終えた山田の眼差しに、そんな残酷さはなかった。むしろ優しげな少年のそれに近かい。やめろ、そんな目で見るな。どうせなら罵ってくれ。俺は凄くねえよ、ふざけんな。


 五時を回り、会社員や学生がちらほらとやって来るようになった。まだ外は暗いが、段々と車通りも増している。俺は接客の合間を縫って、雑誌や漫画が並べられている本棚の整理を始めた。ふと視界の端にアダルト雑誌が映る。もっとまともに生きていたら、俺にも彼女がいたのだろうか。そう思うと一層人生を棒に振っているような感じがした。しかしガラスに反射した自分の顔を見て、どっちにしても出来ていないか、と、どうしようもなくなった。

 本棚には諫山(いさやま)創(はじめ)の『進撃の巨人』と、映画化に伴ってか大場つぐみ・小畑健の『バクマン。』が堂々と陳列されている。それらを手に取って眺めていると、涙がこぼれそうになった。俺も、俺もこうなりたい。俺も売れたい。受賞したい。平積みされたい。誰かに読んで欲しい。評価されたい。無視されたくない。これ以上は負けたくない。胸を張って生きたい。漫画家に、なりたい。

 学生時代に読んだ『スラムダンク』を不意に思い出した。登場キャラの一人である安西先生の「諦めたらそこで試合終了だよ」という言葉に励まされ、作者である井上雄彦に憧れ続け、昨日まで漫画を描いてきたのだ。だけど、それが正しかったのか俺には分からない。分からないどころか、間違っていたと思い始めている。ただただ無駄な足掻きをしていただけのように感じている。落選を繰り返して、これ以上やっても意味はない、そう気が付いた。自分の愚かしさを痛感した。

 それなのにどうして、ずっと漫画のことばかり考えているのだろうか。今になってまで漫画家になりたいと想い続けているのだろうか。もう描かないと心に決めたのにも関わらず、仕事中のほとんどは漫画のために頭を使っていた。辞めたんだから落選の原因を探る意味なんてない。どんな作品が面白いか、なんてことも同じだ。未練たらしく縋りついて情けない。それなのに、どうして。

 どうして? 答えなんて一つしか思い浮かばなかった。いや、思い浮かべるまでもなかった。自分が考えていたこと、想っていたこと、それ以上の回答はない。

 ……だったら、どうしてもクソもないじゃねえか。


 結局のところ、俺には漫画しかないんだ。


 何もかも振り払って走り出したくなった。今すぐ家に帰って俺のやるべきことをしたくなった。何だかいてもたってもいられなくなって、俺は従業員兼用トイレに駆け込んだ。深呼吸してから鏡の中の自分を見つめる。

 人生をやり直そうとしてみたところで、取り返せるかも分からないところまで来ている。だから、たぶん普通の生活を送ることは難しいだろう。でもそれがどうしたっていうんだ。ここまで来たら進むしかない。馬鹿野郎だ、どうしようもなく。だけどもう俺には漫画しかないし、捨てようと思っても捨てられないから仕方ないじゃないか。諦めて後悔して、それでも漫画のことが頭から離れない。つまり――俺は漫画が死ぬほど好きなんだ。そうだ、山田の言う通りだ。人生の半分を賭けるくらい漫画を愛してる。一四年を無駄にした、一四年の間に俺は何をしていたんだ、そうさっきは思った。だがその考えは間違っている。俺は一四年もの時間を漫画に費やした。何をしていた? 漫画を描いてたんだ。それ以上でもそれ以下でもない。だからこそ俺はこんなところで諦めるべきじゃないんだ。

 トイレから出てレジに入ると、山田が心配そうな顔をしていた。俺は何でもない振りをして、それから客の対応に戻る。

 早く帰りたい。早く帰って漫画が描きたい。悩んでいたのがおかしくなってくる。ただのポーズだったように思えて笑えた。

 そんなことを考えながら接客していると、早朝シフトの栗山さんが来た。そろそろ俺たちは上がりの時間だ。

「菊池さん、頑張ってください。俺も頑張るんで。好きなことやってると楽しいですよね」中華まん蒸し器に肉まんを入れながら山田はそう言った。「だから諦められないんですよね、やっぱ」 

 俺はその言葉を聞いてはっとした。楽しい。俺は受賞したいと考えるあまり、最近楽しんで漫画を描けていなかった気がする。だから原稿を描くのが苦しく感じることがあったのだろう。たぶんそうに違いない。楽しい、そうだ俺は漫画を描くのが楽しかったんだ。

 高校二年生の夏、俺は初めて原稿用紙に漫画を描いた。慣れない道具を使って、漫画とは呼べないような代物を描いたのだ。酷い出来だったが、そんな事実が吹き飛ぶほど楽しかった。今の俺はどうだろう。焦ってばかりで、そんなふうに漫画を描けているか?

「山田も頑張れよ。でも、無理はするな」

 ここのところの俺は楽しんで描けていない。だから、楽しんでまた描きたいし、今の俺にしか描けない作品を、心の底からそう思う作品を形にしたい。目指すべきものが分かり、俄然漫画を描きたくなった。


 山田に後片付けは任せて、自分だけ早く退勤した。最悪なやつだと我ながら思う。だけど逸る気持ちが抑えられなかった。

 六時五分、東の空が紫色を帯びてきた。久しぶりに走っているからか、膝が不吉な音を立てている。それでも俺は走るのを止めない。いや、走らずにはいられない。川の流れよりも早く、昇りかけた陽に向かって走り続ける。だがそれはドラマ的な演出ではなくて、単に俺のアパートがそっちの方向にあるからだ。そんな下らないことさえ今は愛おしく感じた。

 玄関の鍵を開けて、脱ぎ捨てたままの部屋着に着替えた。それからいつ使ったのかも分からないガラスのコップに水道水を汲み、一息でそれを飲み干す。カルキ臭い水だが、それでも美味く感じた。

 雑誌や資料で散らかった机を適当に片して、B4コピー用紙を広げる。真っ白な世界が目の前に生まれた。俺はここに世界を創るんだ、そう思うと何とも言えない昂揚感が湧いてきた。この感覚を俺はずっと忘れていたんだ。機械的に、受賞するにはどうしたら良いか、そればかり考えて今まで描いていた。そんなつまらない作品が受賞なんて出来るはずもない。もちろん描きたいように描けば受賞出来るというわけでもないが、見失ってはいけないものがあったのだ。初めて漫画を描いた時のあの気持ちを、一度は失ったあの気持ちを、俺は取り返したい。

 削りたての鉛筆でコマを割り、感じるままに物語を描く。平凡な男子高校生の主人公が世界を救わない。吸血鬼ハンターが復讐を遂げない。謎の組織に追われない。インターハイを目指さない。俺の漫画は、もっとしょうもない話だ。今まで描いてきたような少年漫画らしい作品とは違う。道を踏み外した救いようのない馬鹿野郎が、それでもなんとか生きていく、そんな物語。ハッピーエンドに憧れて足掻き続ける――そんな物語だ。

 ヒーローになるような話は後でも描ける。だけどこの話は、今の俺じゃないと描けない気がした。そう思うと自然と筆が進んだ。

 漫画家を目指し始めた日から続いている「コマ」、それが積み重なり今の俺がいる。最初の俺のせいでこんな情けない俺がいる。だけど過去の俺は、明日の自分に期待して毎日を生きてきた。明日の俺なら上手くやってくれる、その想いを繰り返して今に至るんだ。俺は、今までの自分を裏切りたくない。惰性でも義務でもなく、今までの努力をなかったことにしたくなかった。どれだけ馬鹿にされようと、自分で馬鹿だと思おうと、それでも努力に関しては胸を張りたい。高校生の時からの希望のリレーを、今日の俺で止めたくない。笑わば笑え、それでも俺は。

「漫画家になりたいんだ!」

 ネームを描きながら、気付けばそう叫んでいた。涙なのか鼻水なのか分からないが、顔中がぐしゃぐしゃだ。俺の声が耳障りだっただろう、隣室の住人が壁を殴ってきた。それにも構わず俺はもう一度「漫画家になりたいんだ!」と控えめに咆哮した。

 カーテンの隙間から黄金色の朝陽が差し込んでいる。何でもないそんな光が、祝福にさえ思えた。真っ白だった紙はみるみるうちに黒くなり、世界が形を成していく。これは俺以外の誰にも創れない作品だ。今までの俺がいて、それを見つめ直したからこそ創れる作品だ。最初の自分に感謝しながら描き進める。没原稿も、空白だらけの履歴書も、本当にこれで良いのかという疑念も何もかも、全部破り捨てて傑作を描き切ってみせる。

 昨日の俺を殴りつけてやりたい。

 なに諦めようとしてんだよ、と。

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