桐島、寿司になるってよ

土砂降り

桐島、寿司になるってよ

 桐島、急に呼び出したりして悪かったな。……はは、先生と回転寿司に一緒にいるのは変な気分か。まあそうだろうな。俺も生徒とこんな場所で話すことになるとは思わなかったよ。一皿百円だが、好きなもの取ってくれ。俺はこのメニュー表にあるラーメンにしようかな。桐島お前は、お、唐揚げか。最近は色々なメニューがあって面白いな。

 さて、お前を呼んだ理由だが、この前提出した進路希望書、お前あれに寿司になりたいって書いていたな。本気なのか?

 ……そうか、お前の目を見ればその言葉に偽りがないというのがよくわかる。だがな、お前の進もうとしている道は生半可なものじゃないぞ。レーンを流れている寿司。どれもうまそうだな。だがあの寿司を良く見てみろ。あれは長いこと誰の手にも取られないでずっと流れ続けている寿司だ。もうすっかりシャリが乾燥してネタの新鮮さも損なわれている。……桐島、寿司になるってことはな、お前もああなる可能性があるってことだ。せっかく寿司になれても誰の手にも取られずレーンの上でかぴかぴになったあげく廃棄処分。そんな人生を辿るなんて悲しいだろう。どうだ、それでもまだ決意は揺るがないか?

 ……そう簡単に揺らぐ決意じゃないか。

 実を言うとな、先生も若い頃は寿司になりたかったんだ。昔から寿司が大好きで、金の皿に載る大トロに憧れていたんだ。だけど結局挫折してしまったよ。俺は寿司になれなかった。だから、同じ道を辿るかもしれない生徒のことを放っておけなかったんだ。でも、お前の顔を見てると、お前ならもしかしたらって、ちょっとそう思えてきたよ。

 と、話に集中し過ぎたな。さあ、せっかくだからどんどん食ってくれ。ん、俺がさっき食ってたラーメン頼んでもいいかって? おう、構わんぞ。

 まあ、お前の決意が固いというのはよくわかった。それなら、先生はお前のことを全力で応援するぞ。それにしても……桐島ぁ、このチョコレートケーキうめえなぁ。

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