真・寿司転生

橘あきら

もったいないおばけ現る

 ある晩、アイコ・コバヤシがなにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が寿司下駄の上で一個の巨大な握り寿司に転生しているのを発見した。


 彼女はほんのり黄色味を帯びた酢飯の上に赤身を載せ皿の上に寝そべっていた。シャリは固まらないようにほのかに空気が入り柔らかく握られている。筋目と交差するように切られた真紅のネタは激しい自己主張とそれでいて凛とした自尊心がある。またそれらの間にあるわさびがネタのそうした洒脱な部分を揮発性の辛味と香りでほどほどに抑え込んでいた。


「なんて美味しそうな寿司なんだろう」とアイコが思う。


「君も寿司になっちゃったんだな……」

 隣を見るとカッパ巻きがこちらに話しかている。彼の顔色は青く、見るからに陰鬱な黒い海苔巻きは微妙に湿っていた。

「食べられたもんじゃないわね」とアイコはかっぱ巻きのことを少し気の毒に思った。


「そんなこと言わないで。注文されたから私達はここにいるんだし、最低でも必要とされてるはずでしょ? もっと胸張っていこ!」

 無い胸を精一杯張ったアイコにかっぱ巻きが言う。


「君は単純でいいよなあ。僕達がなんでここにいるか知らないんだから」

「え……?」


 と、次の瞬間、寿司下駄が空中に浮かんだ。なにか大きな複数の棒状のものにグイッとはたかれる。空中をころころと二回転半し、そしてぐちゃっとした感触が背中を襲った。見渡すと、そこらは寿司の死体で埋まっている。

 サーモン、海老、玉子、ツナの軍艦巻き、稲荷すし…… どれも完全に乾き切っており、異臭を放っているものが大半だった。


 「見たとおり、ここは練習に使われた奴らの墓場さ」キュウリが落ちて、ただの海苔巻きになったかっぱ巻きが言った。

 

 ホールに板さんの声が響く。

「阿呆か! ネタ全部を解凍した上、売れ残ったものを常温で放置しとくとかどういった料簡だよ! 罰としてせめてこれ全部練習してから帰れ!! はー」

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真・寿司転生 橘あきら @akiiiiiiira

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