第2調合目俺と彼女と錬金術と②
朝からそんな騒ぎがありながらも、俺は今日から大学があるためフィーナの朝食を作ってあげだ後、そのまま家を出た。
「行ってらっしゃい、シンイチ」
「ああ、行ってくる」
家を出る際にごく自然と俺とフィーナはそんなやり取りをしていた。行ってきますなんて言ったのはいつ以来だろうか。
(まさかこんな形で言うことになるなんてな)
俺の通っている大学は自宅から電車で三十分の場所。その道中、満員電車に揺られながら昨日から今日にかけて起きた事を改めて振り返ってみた。
(大体の物は作れる力、錬金術か……)
あまりに非現実的な話でまだ頭が追いついていないが、昨日の吹き飛んだ家の扉ももしかしたらそれと関係しているのかもしれない。
(でもあの吹き飛び方って、どう見ても)
爆発の衝撃で起きた事だよな……。
(ったく、何でよりによって俺なんだよ……)
代価として錬金術を教えてはくれるらしいけど、それで休日が潰れてしまうというのも、何とも言えない気分になる。本人は一応反省はしているみたいだが、俺からしてみれば言いたいことが山々ある。
(とりあえず今日から大学再開だし、切り替えていかないとな)
しばらく揺られた後満員電車から降りた俺は、大学に向けて歩き出す。その道中で見覚えのある黒髪の女の子が視界に入った。
「また本を読みながら歩いてるのか。新年になっても相変わらずだなお前は」
「あ」
その元に駆け寄った俺は、手に持っていた本を挨拶がわりに取ってやる。それに気がついた彼女は、俺の方にムクリとした顔を向けた。
「真一こそいつも意地悪」
「これは意地悪じゃない。好きだからやっているんだよ」
「もっとタチ悪い」
本を奪った彼女、雪村杏子は怒りながら歩き出してしまう。俺は少し距離を取りながら彼女の後を追う。
「あけましておめでとう、雪村」
「よくこのタイミングで言えるわね。おめでとう」
「今年も毒舌キャラで行くんだな」
「別にそうじゃないわよ」
雪村杏子。とある理由から大学入学してすぐに知り合った同じ同士の少女。本が好きで基本あまり喋らない方なのだけれど、いざ口を開くと毒ばかり吐いてくる。俺はすっかり慣れてしまったけど、この毒舌に耐性がつくのには時間がかかった。
「そんな調子だと大学卒業するまで、友達できないぞ」
「そういう真一も私ばかりに関わってる」
「べ、別に俺は杏子以外にも友達いるから、お前とは違うよ」
「なら関わらないで」
「そう言って三年も離れなかったくせに」
「っ!?」
急に黙る杏子。そしてそのまま急ぎ足で俺から離れていった。
(ったく、相変わらずだなあいつも)
もう知り合って三年が経とうとするが、相変わらず何を考えているのは掴めていない。本人は変えるつもりは滅相もないらしいけど、俺は別にそれでもいいんじゃないかと思っている。
(慣れだな、完全に)
やれやれと思いながら、俺は杏子の背中を追いかけていった。
■□■□■□
大学で講義を受けている間、俺はすっかり昨晩からの出来事を忘れていた。だが昼時になって改めて思い出した俺は、大きなため息を吐いていた。
「おっす真一、新年早々ため息だなんて何かあったのか?」
「大輔か。まあ、色々あってな」
食堂で昼飯を食べていると目の前の席に一人の男が座ってきた。
佐川大輔。
こいつも大学入学当初からの腐れ縁で、昼を一緒に食べたりする事も頻繁にある。
「まさか家賃でも滞納して、追い出されたりしたのか?」
「そこまで重い話じゃねえよ。まあ、それに近いと言えば近いけど、別にホームレスとかにはなってない」
「それに近いのにホームレスじゃないって、俺にはさっぱり理解できないぞ」
「大丈夫だ、俺も正直理解できてない」
昼食を食べながら他愛のない会話をする俺と大輔。その中で俺は気になる言葉を耳にした。
「そういえばお前がずっと絡んでいる、えっと、あの、無口な子。名前なんだっけ」
「雪村の事か?」
「ああ、そう、そいつ。その雪村さんって今日普通に大学に来ていたのか?」
「普通に登校していたけど、それがどうかしたのか?」
「いや、実はこれは噂なんだけど、最近その雪村さんの住んでいる家で怪現象が頻繁に起きているらしいんだって」
「怪現象って、お化けとかその類か?」
「それがどうもそうじゃないらしいんだ。あくまで噂らしいんだけど、当人が家にいない間に部屋から何か爆発する音が聞こえたりしているんだって。あと、ガラス窓が割れたと思ったら、数時間後には元通りになっていたとか」
「何だよそれ」
まるで怪現象というか、どこかで見覚えのある現象というか……。
(そういえばフィーナも似たようなことを言ってたな)
扉を吹き飛ばした時にまたやっちゃったとか言っていたし、それを何度も直していた形跡もある。
(それに爆発の音も……)
「そんなまさか、な」
「何だよいきなり」
「いや、それって怖いよなって思って」
「あくまで噂ではあるけど、雪村さんはよくそんな事が起きているのに平然と学校に来れるよな」
「確かにな」
一応後で話は聞いた方がいいかもしれないな。
錬金術師の弟子〜現代で始めるアトリエ生活〜 @kagura
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