第1調合目俺と彼女と錬金術と①

 どうも桜田真一です。

 去年成人済みです。

 間も無く就活を始めなければなりません。


「ねえこんなにいい話なのにどうして断るの?」


 だけどその前に大きな問題が発生してしまいました。


「お前まだ自分が何をしたのか理解していないんだな」


「理解って何が?」


「お前が俺の大事な家を勝手にアトリエ? に変えたことだよ!」


 それは新年早々自分の住む場所がなくなった事です。しかもその犯人は、この目の前にいる赤髪の少女。錬金術とか意味が分からない事まで言いだしました。


「それは本当に申し訳ないと思ってるよ。でもこれも全部、この世界で勉強する為に必要だった事なんだから、許して」


「何が必要だった事だよ。終いには俺を弟子にしようとしたよな」


「それは悪い事ではないでしょう! 何でも作れる力なのよ、興味ないの?」


「いや、無くはないけどさ」


 錬金術といえば漫画とかゲームの世界で一応は触れたことはある。だから興味がないといえば嘘になるけど、それ以前の問題だと思っている。


「ほら、興味があるなら勉強してみましょうよ。私がいくらでも教えるからさ」


「その前に俺の家を返してくれ」


「それは……いつかは返す! だから今は我慢して欲しいんだけど」


「いつかっていつ?」


「私が元の世界に戻る時かな」


「それまで居候するつもりなのか?」


「居候も何も、ここは私のアトリエだし」


「今すぐ帰ってください」


「ごめんなさい! 私が悪かったから、ここでアトリエを開かしてください! その代わりに錬金術を教えるから」


 もはや懇願に近い声で頼んでくる少女。


(ものすごく面倒臭いけど、これ以上話を長引かせたら寝る時間も減るしなぁ)


 嫌々ではあるけど、何かしらの解決策が見つかるまでは彼女をここで居候させた方が良策かもしれない。


 それに少しだけその錬金術にも興味はあるし、一応利害は一致している。


「本当は気は進まないけど、少しだけだからな。家は絶対に元に戻してもらうし、ちゃんと錬金術ってやつも教えてくれるんだよな」


「勿論! 家を壊しちゃったし、私に出来ることがあれば何でもするわよ」


「ん?」


 今何でもするって言わなかったか?


「ちょ、ちょっと待って。なんか急に目つきが変わったけど、私何か変なこと言った?」


「ああ。何でもしてくれるなら折角だし」


「ま、待って、私が出来る範囲にしなさいよ。ほ、ほらできれば錬金術が役立てそうな」


 この日から俺は、錬金術師(仮)のフィーナという少女としばらくの間このアトリエで暮らす事になるんだけど、まさかこの出会いが俺の人生を大きく変えるキッカケになろうとは思いもしなかった。


「そうだなまずは、そこの服を着てもらって」


「そ、その服は何? 私には錬金術師として立派な服装があるんだから、そんな露出が多いものを」


「じゃあこれと全く同じものを錬金術で作って、それを着れば」


「却下!」


 そう、本当にこの時は思ってもいなかったのだ。


 ■□■□■□

 一夜明けて。


「夢じゃなかったんだな……」


 結局アトリエ内に用意されていたソファみたいなもので一晩寝た俺は、真っ先に視界に入った釜とそれを朝からかき回しているフィーナの姿を見て、昨日のあれが全て現実だったと痛感させられた。


「おはよう、えーっと名前なんだっけ」


「真一だよ真一。別に呼び方は好きにしろ」


「あ、そうだシンちゃんだ」


「やっぱり普通に真一って呼んでくれ」


 その呼び方だと某有名な幼稚園児の名前に引っかかるから。


「それでお前は朝から何やっているんだ?」


 ソファから体を起こして背伸びをしながらフィーナに俺は尋ねる。


「何をって勿論調合だよ? それに昨日から私寝てないし」


「あれから寝てないのか? まさかずっと釜をかき回していたのか?」


「錬金術師は一度調合を始めると、終わるまで手が離せないの。時々休憩入れるけど、大体一日ずっとこんな感じ」


 平然と言ってのけるフィーナに俺は呆然としてしまう。


「錬金術を教えてもらったら、俺もこれをやるんだよな?」


「シンイチは慣れるまでは私がサポートするけど、それでも何日かはアトリエに引き籠らないと駄目かな」


「一応俺学生なんだけど」


「この世界には二日間は休みがあるんでしょ? それを使った日をまたいで調合すれば問題なし!」


「それはつまり休日を返上しろと」


「私の学生時代は休みなんてなかったけど?」


「それ倒れなかったのか?」


「倒れないために体力も付けていたから」


 俺錬金術になるの今すぐに辞めたいです。

 というか、それより気になることがもう一つ。


「フィーナってもう俺の世界で言う大学とか卒業しているのか?」


「そんなの当たり前に決まっているでしょ。そうしなきゃこの世界に来てないもん」


「じゃあもしかして、お前って俺より年上?」


「多分そうなのかな。学校の概念が真一と私の世界じゃ違うだろうし、一概にどちらかとは言えないけど」


「俺はてっきり小学生くらいの子がここに迷い込んで来たのかと」


「今から爆弾の調合に変えようかな。そうすればシンイチごとこの家も吹き飛ばせそう」


「目がガチで怖いからやめてくれ! 俺が悪かった」


 てか、作れるのか? 爆弾。

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