錬金術師の弟子〜現代で始めるアトリエ生活〜

@kagura

プロローグ〜吹き飛ぶ扉と少女〜

 ここは地球ではないどこか遠い異世界。そこである一人の少女は、不思議な力を学んでいた。


「れんきんじゅつ?」


「そう。錬金術はね沢山の人を幸せにできる不思議な力なの」


「へぇ。じゃあお母さんも沢山の人を幸せにしてきたの?」


「そうよ。だからねあなたもいつか大きくなったら」


「うん。私も沢山の人を幸せにしてあげたい!」


「よしよし。偉い子ねフィーナは」


 フィーナという少女は母親から沢山の錬金術のことを学び、そして錬金術の学校に通って立派な錬金術師として育っていった。そして学校を卒業し一人前の錬金術師となった彼女は今、


「そういう事で私の弟子にならない?」


「いや、どういう事だよ!」


 星を股にかけてある男子学生を弟子として取ろうとしていた。


 ■□■□■□

 俺桜田真一は、新年を迎え三ヶ日が終わり、明日から再開する大学生活を迎えるために帰省先から帰ってきたところだった。


「うう、寒いな」


 実家から東京駅まだ三時間ほどの長い新幹線の旅を終え、東京駅に降り立つと冬の夜風が体に染み渡り思わず体が震える。


(明日から大学なのに、今から家に帰って寝る時間あるかな……)


 時計に目をやると時間はすでに夜十時を回っている。自宅はここからさほど距離はないので、そこまで切羽詰まってはいないが、明日の準備やその他諸々していたらきっと日付が変わってしまうに違いない。


(とりあえず家に帰るか)


 東京駅を出て、しばらく歩くととあるアパートの一室が視界に入ってくる。大学生になって一人暮らしを始めて、早三年。すっかり住み慣れた我が家だ。


 我が家なのだが……。


(電気が付いてる。まさか空き巣か?)


 帰省する際に戸締りや電気はしっかり確認していたはずなのに、何故か我が家の明かりは付いていた。こんな時間に空き巣だなんて考えたくもないが、それ以外にこの状況下で考えられない。


(あれ? 鍵は閉まってる)


 慌てて家の入口まで来た俺は、家の鍵は閉まっている事に気がつく。俺の部屋はアパートの二階にあるので、他の窓から入った可能性も考えにくい。


 では一体、俺の部屋で何が起きているのだろうか。


 その疑問はすぐに解決された。


 突然我が家の家の扉が吹き飛んだのだ。


 何の前触れもなく突然に。


「あー、またやっちゃった」


 暫くして家の中から、帽子を被った赤い髪の女の子が出てくる。片手には何かの棒。そしてもう片方の手にはフラスコらしきものが握られていた。


「三日も連続でドアを吹き飛ばしてたら、ご近所さんにも怪しまれちゃうし、これ以上爆発なんて起こしてたらこの部屋も……。って、あれ?」


 独り言をブツブツと喋っていた少女が、少しして俺の存在に気がつく。


「もしかして……見ちゃった?」


 ■□■□■□

 お互い黙る事数分、先に口を開いたのは少女の方だった。


「あ、あの今のは見なかった事にしてくれないかな」


「いや、できないだろ! どう見てもおかしいし、それにここ俺の家なんだけど」


「え? ここが、あなたの?」


「そうだよ、悪いかよ」


「だって、誰もいないからてっきり空き部屋だと思って」


「とりあえず警察を呼ぶからな」


 明らかに不審な少女なので、警察に連絡する事にする。


「ま、待って! まずは話を聞いて欲しいの」


「人の家に勝手に侵入した挙句、部屋のドアを吹き飛ばすような不審者の話なんて聞きたくない!」


「お願いだから待ってってば!」


 半泣きになりながら訴えかけてくる少女。少し心が痛むが、少女の未来の為にも警察に保護をしてもらった方が……。


「私そもそもこの世界の人間じゃないから、そのけいさつというのを呼んでも意味がないの!」


「……え?」


 少女の一言に携帯を持った手が一度止まる。


( この世界の人間じゃない?)


 それは一体どういう意味なのだろうか。


「私は錬金術の勉強をする為に、この世界に旅しに来たの! そしたらたまたまこの部屋に辿り着いてそれで……」


「勝手に人の部屋で暮らしていたんだな。留守をいい事に」


「最後まで話を聞いてよ! それでこの部屋が私のアトリエを開くのに丁度いいスペースだったから、部屋のものを全て捨ててアトリエを作っちゃったから、あなたの家はもうどこにも」


「ちょ、ちょっと待てそれはつまり」


 俺は急いで家に入る。だがその中に残されていたのは、三年間俺が過ごして来た部屋ではなく、部屋のど真ん中に大きな釜が置かれている何とも不気味な部屋だった。


「こ、これは一体どういう」


「だから言ったでしょ? もうここは私のアトリエにしちゃったから、気の毒だけどあなたの部屋は無くなっちゃったって」


 その絶望的な光景に言葉が出てこない俺。だけどここがかつての俺の部屋であったことは、まぎれもない事実。それが今や、アトリエとかいう訳も分からないものに変わってしまっていた。


「わ、悪気はなかったんだけど、三日も帰ってこなかったしいいかなって思っちゃって。ほ、本当にごめんね」


「いや、ごめんじゃ済まないだろこれは!」


「だ、だからそのお詫びなんだけど、よかったらあなた、私の弟子になってみない?」


「……はい?」


 少女から出た予想だにしない言葉に思わず思考が停止する。家を乗っ取ったお詫びに弟子に? ちょっと訳が分からないんだが……。


「あの、一体何を言いたいのかサッパリ」


「だから私があなたに錬金術を教えてあげるの。大体のものを作ることが出来る錬金術を」

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