おまけ「宝探し」

一之瀬隆文の「水面集」を読もうと思い本棚を調べた。しかし、どこにもない、買ってボロボロになるまで読んでいるのでこの家の中のどこかにあるのは確かだ。ではどこに?私は床に積まれたプラスチックボックスを見た。

そこには1つにつき文庫本28冊入るが入るプラスチックケースが何段も積み重なっている。本棚に入りきらなかった本が入っているケースだ。私は辺りを見渡す。そこにはブックカバーがつきっぱなしの本が床に積まれている。

そうだ。

この部屋は本で埋もれている。

まだ床が抜けると言うほどではないが、探し物がすぐに見つかるというような場所ではないのは確かだ。

私は意を決してこの本の森に足を踏み入れた。

最初の探索はプラスチックケースから。

こちらはまだブックカバーがついていない本もある。ブックカバーの付いている奴だけ探せばいい。

 ない。

 ない。

 無い。

六つ目の箱を見終えてもどこにもない。私は少し疲れたが自業自得なので弱音は吐かない。

次は床に積まれた本の山だ。端っこからゆっくりと攻めてみる。

こちらはすべての本にブックカバーがついている。大体は薄茶色。だから茶色の塔が部屋にいくつも建っている。

カバーを外さずにページを開いて題名を確認。

違う。

違う。

違う。

最初は単純作業に嫌気がさしていたが、私は面白いことに気がついた。

「あ」これ。と題名を見た本のカバーを外す。

河野大智の「音瑚街」だ。

こんなところにあったのか。

「お」

ここには「東京迷宮」。

「黒い豹だ」こんなところにあったのか。

結局、水面集を見つけた後も私は本の塔を崩す作業を辞められなかった。

本の森を散策するのは宝探しに似ている。

自分も忘れていたような本たちとの再会は中々に愉快なものだった。

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月迷町奇談 白Ⅱ @shironi

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