レッドフード

@mitsu_kick

第1話童話 赤ずきん


語り継がれる話は時と共に変わって行く。

それが私に深い意味を与える言葉の綴りであったとしても、ひた隠しにされていたんだ。



少女は町の離れに住む、お婆さんの元へ

お使いを頼まれました。

どうやら病で床に臥せってしまったらしく

鞄にぶどう酒といっぱいの食べ物を詰めて、

お婆さんの元へと向かいました。

少女は遠出する際にはいつも真っ赤な頭巾を

被っていて、赤ずきんちゃんと、呼ばれていました。


お婆さんの家へ辿り着くには森を進まなければなりません。

赤ずきんは慣れない道に苦労しつつも

足を止める事無く、お婆さんの喜ぶ顔を思い浮かべながら進み続けました。

すると、赤ずきんの前に一匹の狼が現れました。

「やあ、こんにちは。

こんな森を歩いてどこへ行くんだい?」

「お婆さんが病気でお見舞いに行くんです」

「それは大変だね。

ところで君の鞄から良い匂いがするね。

僕はもう何日も食べていないんだ。

よければ、食べ物を少し分けてはもらえないかな?」

話の通り、狼はやせ細っていました。

ですが鞄に詰めた食べ物を分け与えてしまえばお婆さんに届けられる物はごくわずかになってしまいます。

「ごめんなさい。

お婆さんにあげられる分しか持っていないんです」

「そうなんだ、無理を言ってごめんね。

気を付けて先をお進み」

狼は残念そうにしていましたが、赤ずきんを

笑顔で見送りました。

少し胸がチクリと痛みましたが、そうだ、

いつかあの狼にも食べ物を届けてあげよう。

赤ずきんはそう思いました。


あと、もう少しでお婆さんの待つ家です。

しかし、二手に別れる道のどちらかを進まなければなりません。

一つは近道ですが針の険しい道。

もう一つは遠回りになりますが安全なピンの道。

赤ずきんは悩みましたが安全なピンの道を歩く事にしました。

赤ずきんがピンの道へと消える姿を飢えた狼は見ていました。

狼は針の道を走り、赤ずきんより早く、お婆さんの家へと着くと、お婆さんを食べ

お婆さんの皮を被り、赤ずきんの到着を今か

今かと待ち続けました。

「お婆さん、お見舞いに来たよ」

ノックの音と共に赤ずきんの呼びかけが聞こえます。

「鍵は開いているよ、お入り」

お婆さんに化けた狼は赤ずきんを招き入れます。

「お婆さん、体は大丈夫?」

「大丈夫だよ、優しい子だね。

遠い所までよく来てくれたね。

喉が渇いただろう、そこのワインをお飲み」

コップに注がれてある赤いワインを赤ずきんは飲みます。

そのワインはお婆さんの血でした。

「お腹も減っているだろう?

そこのお肉もお食べ」

赤ずきんはテーブルに置かれた地の滴る肉を

食べました。

赤ずきんが口にしたのはお婆さんの肉でした。

「ありがとう、お婆さん」

「良いんだよ、お前が来てくれて嬉しいんだ

近くにおいで」

「お婆さん、お婆さんの目は大きいね

どうして?」

「大きくないと、お前を見失ってしまうだろう?」

「お婆さんの耳は大きいね、どうして?」

「大きくないと、お前の声が聞こえないだろう?」

「お婆さんの手は大きいね、どうして?」

「大きくないと、お前を掴めないだろう?」

「お婆さんの口は大きいね、どうして?」

お婆さんはゆっくりと起き上がると口の端を

吊り上げ、牙が覗きました。

「大きくないとお前の肉を裂き食べられないだろう?」

狼はお婆さんの皮を引き裂き脱ぎ去ると、赤

ずきんに襲いかかりました。

赤ずきんは飛び掛る狼を避けると、背後に回りこみ、狼の首に銀の剣をあてがいました。

「私に血を飲ませたんでしょう?

それは大きな間違えですのよ」

赤ずきんは狼の首を刎ねました。

赤ずきんの目は赤黒く光り、その目を隠すようにずきんをいつも以上に深く被りました。


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