第6話 地獄の番人

ヘルヘブンを出てから1時間くらいが立ったが特にこれといったことは起きず、アウトヘルの人もいない。

「なぁ灯、俺達みたいなタイプの人ってどのくらいいるんだ?」

「今のところは私達5人だけだよ〜。」

「少ないんだな。」

「そらそうやで、俺らみたいなタイプはほんまに珍しいみたいやからな。」

「そのせいで街中でも変な目で見られたりするんですよ。」

「ま、それももう慣れたからいいけどね。」

地獄でも差別みたいなのってあるんだな。

「そういえば一真!」

「なに?」

「お前閻魔様に名前つけてもろたってほんまなんか?自分の名前忘れたとか。」

「あぁ、本当だよ。みんなは違うのか?」

「自分の名前なんか忘れるもんかいな!忘れたくても忘れられへんやろ普通。」

「確かにそうなんだけどさ…。」

「まぁ、ここで暮らしてるうちに思い出すこと祈るしかないな!」

「俺もそう願ってるよ。」

「みんな…止まって。」

灯が急に手を横にしみんなを止めた。

「どうしたんだ?」

「あそこを見て。」

そう言った灯が指を指した方に目を向けると

「何だよあれ…」

犬の形をした骨だけの物が20匹くらいうろうろと集団でしていた。

「あれは地獄犬と言ってヘルヘブンでもペットとして飼われたりしているんだよ。でも心無い飼い主が捨てたりして、野生化した地獄犬が急増してて、最近じゃ地獄犬に襲われたって事故も増えてるの。」

「酷い話だな。」

「ほんまやで!生き物はもっと大切にしなあかん!」

「私の家も地獄犬飼ってるんですけど…。捨てたりする人は許せないです!」

「みんな落ち着きなさい。あんまり騒ぐと見つかるわよ。」

「ありがとう成海。みんな、なるべく静かに渡りましょう。あの子達を刺激しないように。」

「了解」

俺以外の3人は声を合わせて言った。

漫画でしか見たことがなかった光景だ…。



「あれやな、ボスがおらんくて助かったわ。」

「ボス?」

地獄犬に見つからないようしゃがみながら歩いている時に貫太は言った、

「せや、地獄犬の中にボスがおんねん。その名前をケルベロス。地獄の番人や。」

ケルベロス…。聞いたことがある。たしか、首が3つある犬だ。

「ほんとうにいるんだな。」

「そらな、あの大量の犬をまとめて統率したるやつやからな。油断はできへん。」

そうこう話しているうちに森が抜けた。

「ここら辺でひとまず休憩にするからね。」

「ふぅ〜。」

実は相当歩き疲れていた。それもそうだ生きてる時にも帰宅部だったんだから運動なんてあまりしたことがない。こんなに歩いたのも久々だ。

「一真さん、お茶いりますか?」

「ありがとう楓。」

「いいですよ。お代わり欲しかったら言ってくださいね。」

「わかったよ。」

なんていい子なんだろう。生きてるときにあんなに可愛くていい子と出会ったことがない。

「おい一真!ちょっと、そこまで付き合ってくれへんか?」

「別にいいけど。何するんだ?」

「ええからええから!」

強引に背中を押され森の中へと入っていった。

「どこ行くんだよ。」

「ションベンや!」

「わざわざ俺がついていく必要性があるか?」

「ええやないか、男同士の付き合いっちゅうもんや。したことあるやろ?つれション。」

「それはあるけど。…まぁ、ちょうど俺もしたかったしな。」

「やろ?前まで俺だけやったから1人で行くのきつかったんや。」

いくら美女が3人いるからといってそこに男1人なのは確かにきついかもな。




「あー、我慢してたから勢いすごいわ!」

「そんなこと報告されたくないよ。」

「ははっ!確かにな!」

貫太は愉快だ。多少疲れたりもするがたぶんこいつがいなきゃムードメーカーはいないんだろうな。

「……あれ?」

「どないしたんや?」

「なんか、鳴き声聞こえなかったか?」

「何も聞こえへんけど」

おかしい、確かに今ちかくで何かの鳴き声がした。

「どないしたんや一真。向こうの方向いて。」

「なぁ、貫太。ケルベロスって首が3つある犬だよな?」

「?せやけど。それがどないしたんや?」

「それってさ、もしかして結構大きいのか?」

「そらでっかいで!体長10mくらいあるんちゃうか?」

「じゃぁ、はやく逃げないとな…」

「……まさか!」

「そのまさかだよ。」

俺達の目線の先には体長20mはあろうケルベロスがよだれを垂らしながらこちらを見ていた。

「逃げるで一真…。」

「その腰の刀で何とかできないのか?」

「さすがに俺1人じゃあのでかいケルベロスは無理や。灯たちの力が必要や。」

ジリジリと後ずさりをしながらゆっくりと確実に距離をあけていったが。

『パキッ』

俺が木の枝を踏んでしまった。

「ガルゥゥゥアァァァ!!!」

その瞬間にケルベロスはこちらに向かって走ってきた。

「アホか!一真!何してんねん!」

「ごめん!」

2人ともダッシュして灯たちの待つ場所まで行った。




「あ、2人とも〜、もう出発するよ〜?」

「灯!出発の前にお客さん来てるで!」

「お客さん?」

俺達が森から抜け出すと同時にケルベロスも森を抜けてきた。

「!!ケルベロス!?何でここに!」

「事情はあとや!とりあえず戦闘や!灯!楓!サポートたのむで!俺と成海でやる!」

「貫太。あんたってなんでいつもそう急なの?」

「こうゆぬうときもあんねや。行くで成海!」

「はいはい。」

そう言い、2人はスッと刀を抜いた。

「一真!私と楓の後ろにいて!」

「あ、わ、わかった!」

なんて情けないんだ俺は。みんなが戦ってるのに1人だけ…しかも女に守られて…。

「俺の剣術受けてみろや!【獄殺流剣技ごくさつりゅうけんぎ 貫刺しぬきざし】!」

貫太は刀を平行に持ちケルベロスの足に向かって刺した。

「おらぁぁぁぁ!!」

それで終わりではなく突き刺した刀を離し、つかの部分をおもいきり殴って刀を貫通させた。

「ぐおぉぉぉぉぉ!!」

ケルベロスは貫かれた足が膝をつきバランスが崩れた。

「相変わらず力任せな技ね。」

「なんやと!これがええんやろ!」

「灯!楓!他の頭二つお願いね。」

「オッケー!」

「わかりました!」

「行くわよ!」

成海は掛け声と共にケルベロスの頭まで飛び上がった。

それと同時に左右のケルベロスの頭が襲いかる!

『ヒュッ!』

俺の隣で風の切る音がなった。

「命中だね。」

灯がそう言い前を見ると右側の頭の両目に矢が刺さっていた。ここから軽く20mは離れている。しかも止まっている標的ではなく動いていた。

「すげー…。」

「…行きます!」

息つく暇もなく今度は楓が動いた。

目の錯覚だろうか。楓が一瞬で左側の頭の目の前にいた。

「【獄殺竈風流 ごくさつかみかぜりゅう 乱風らんぷう】…。」

瞬時にケルベロスの頭がバラバラに切られ崩れ落ちた。

「ありがとう。楓、灯。」

「あとは、頼みますね!」

「まかせて。さ、おいで可愛いワンちゃん。」

最後の真ん中の頭が成海に襲いかかった。

「【獄殺海燕流ごくさつかいえんりゅう 居合いいあ】」

「何しているんだ成海!刀納めてどうするんだよ!」

「あれでいいんだよ。」

「え?」

「あれが成海さんの基本の形なんですよ。」

そんなこと言ったってあの至近距離で刀納めたら抜けないだろ!

もう成海と頭の差は2mをきった。

「食われちまう!」

その刹那ケルベロスの体が真っ二つに裂けた。

「【海裂】かいれつ…。」

成海の刀は鞘に収まったままだった。

いつにいたのかもわからなかったし何より成海はさっきまで頭の方にいたのに今は尻尾の部分にいる。

「みんな規格外だな…まるで漫画だよ。」

「一真も練習すればなにかしらできるよ。」

「そうですよ、一真さん。」

俺にみんなのような人間離れしたことができるのかどうか…。

「みんな〜、ケルベロスも倒したしアウトヘル探し続行するよ!」

みんなもう気持ち切り替えているのか?

さっきまであんな化け物と戦ってたのに?

………ついていけない…。



こうして、無事ケルベロスを倒し俺達はまた探索にむかった。

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HELL HEAVEN びび金 @hibiking

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