私の好きなお寿司の話

s286

お稲荷さんと仲良したぬき

「あんた江戸っ子だってね、食いねぇ、寿司を食いねぇ」とは清水次郎長が一の乾分、森の石松の名台詞だが、生憎と我が家は町田市民なので住所は東京でも都民に入れてもらえないのだ(ベーッ)。

 子供の頃からお鮨は大して好きじゃなかった。大人たちを見ていて、山葵が食べられるようになったらきっと美味しく食べられるんだろうと思っていたけれどやっぱりご馳走とは思うけれど……ねぇ? 多分、ガキ舌なんだと思う。

 そんな私が別格に好きなのは、お稲荷さん。チラシでもなく押し鮨でもない甘辛く煮た油揚げに酢飯をつめたアレ。ここまで説明してやっぱりガキ舌だって自覚したわ(ベーッ)。お稲荷さんは特別な食べ物でなくって日常のお寿司なのだ。そこが私の好きな理由。

 電車移動で昼を迎える仕事中、ゆっくりランチを摂る余裕も無い時なんて私は平気で立ち喰い蕎麦屋で食べられる。食券で最初に指名するのがお稲荷さん。その次はたぬき蕎麦。 何でたぬき蕎麦か? 具の無いかけ蕎麦は何か物悲しいけれど天ぷらは胃に重い。揚げ玉なら蕎麦にアクセントを加えてくれるし私の中の主役、お稲荷さんとも相性抜群!  

 お稲荷さんを一口かじって、たぬき蕎麦に目を移せば湖面に積もる雪のようなシットリした揚げ玉とお汁。よく噛んでから丼のお汁を静かに啜ると甘辛いお揚げと酢飯、カツオ出汁の濃い目の蕎麦汁との言い表せないマリアージュが待っている! 空腹も手伝って一気呵成に啜り手繰って時計を見たらもうタイムアウト。店員さんにお礼を言ってヒールを鳴らしながら店を出るときの達成感が大好きなのですよ。

 今日、上野のほうへご挨拶に行く途中、お稲荷さんを奉っている小さな社を見かけました。立ち止まらずに目礼したから……ランチはきつね蕎麦といなり寿司かな(ペロッ)。 

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