届かない星

YGIN

第1話

 地球理論との明確な不合理不一致が我々における最大の壁。結晶体を何度も砕き続けてそれでもなお我々は地球に適応できなかった。

 このたび679104体目の女性型アンドロイドを地球へと放つ。

 被検体はほぼ百発百中で地球に到達することが可能。

 可視。それまでは可視。

 大気圏突入さえ我々においては何ら問題はない。

 以降がすべての障壁障碍差障。

 現時刻をもってなお地球の地面を踏むことが出来た物質は被検体の10%にも満たない。着地後1時間以上にわたって存命した物質は0.5%に満たない。

 それでも我々は地球の言語を全て知り文化を知り歴史を知っている。

 宇宙史における地球史を守り抜いてきたのは我々に他ならない。

 我々はかの星を慈しんでいる。かの星を愛している。

 されど、もう、かの星には一縷の猶予もない。かの星と手を取り合って新たなる未来を築きたい。共に互いを知り。共に歩みたい。


 それだけなのに……。


「アンサンブルNo4451。準備は良いか?」

「――プロテクトリチャージに伴うK原核が不足しています。地球着陸後の継続破損への修復が間に合わない可能性は99%以上です」

「そうか……では離陸の準備に入る」

「――受諾。被検体アンサンブルNo4451は自己の機体寿命を予見し機体個別AIにおける最期の意思を述べます」

「許可する」

「マスター、彼方に会えて私は幸せでした。地球でお会いできることを願っています」

「……。そうか。健闘を祈っている」

「――」

 被検体アンサンブルNo4451は普段のアンサンブルシリーズとは異なり好品型のロッカシュエルに加えてガイリアという星から得た特殊な結晶体を砕き合わせて基礎概念をつくったいわば粉骨砕身の代物。

 今までアンサンブルシリーズが感情的な心情を吐露したことは一度もない。奇跡とさえいえる。

 しかし我々は地球を望んでいる。いかなる犠牲も……憂いている余裕はない。

「離陸準備完了。発射5秒前。4、3、2、1、」

「――地球で」


 アンサンブルNo4451の信号は地球不時着後間もなくして途絶した。





 














 

 

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