第2話 玄関で話していると時間を忘れるよね?
ただいま…
「おかえり〜」
部屋の中から春香の元気そうな声が聞こえてくる。風邪、治ったのか…じゃあ、スポーツドリンク買ってこなくても良かったか。
「仕事、どうだった?」
どうだったも何も、いつも通りだよ。
「あ、僕は明日お昼の生放送があるから、弁当いらないよ。」
午後はいつもの撮影?
「うん、月刊誌の。」
まぁ、ご飯代ぐらい稼いできてくれよ。
「そんなこと言っても、僕は衣装代とか普段の服代とか、君よりも高くつくんだから仕方ないだろう?」
そんなこと言って、関係ないことに使ってんじゃないのか?今度からお前の財布の紐を握ってやろうか?
「ごめんなさい、それだけは許してください…何でもしますから。」
ん、今何でもするって?
「(言って)ないです。」
はぁ…それよりも、服。片付けたか?
「うん。大丈夫だよ。」
そうか、それなら良かった。でも、晩飯は金無いからモヤシのサラダな。
「えぇ?病み上がりの僕にまともなご飯は?」
だって春香の衣装代とかシャレになんないし。それに、そんなこと言うなら俺だって病み上がりだよ。
「ぁあ…また、モヤシ生活か…」
それだけ聞くとジュースの名前みたいだな。
「野O生活みたいな?」
そうそう。
「明日って休み?」
ん?いや、名古屋で仕事、明後日帰ってくる。
「新幹線何時?」
8時16分発だな、どうした?
「ふふん!」
何やら自慢げに出してきたのは新幹線のチケット、しかも席はグリーン車…うわぁ、これが一般人と芸能人の違いか。
「君の新幹線と同じ時間発なのだよ!」
はえ〜すごいっすね。
「なんだいなんだい?その反応は〜⁈僕と同じ電車なんだよ⁈何でテンション低いのさ!」
お前と行くと、俺がホモ扱いされるんだよ…
女装モデルのスターである春香は、一般的に男だと知れている。
しかも、何かの暴露番組でホモだとも放送されている。必然的に同棲している俺はその相手だと思われるわけで…何度か文の春に載せられたこともある。そのせいで俺は社内でも一歩引かれているのだ。別にどうとは思わないし、それで相手してたら一般人の俺はもたない。でも、俺は今の貧乏同棲生活も、意外と楽しんでいたりする。
「もう、明日は一緒に行ってやんないんだからーっ!」
そう言って泣き真似をしながら春香はリビングに走っていった。
はぁ…不幸だ。
さて、慰めに行きますか。
ほら、春香。明日一緒に駅まで行こうぜ。
「やだ、君のことなんか大っ嫌いだ。僕のことはからかうし、それなのに女装するような僕に優しくしてくれるし、何なんだい君は!」
はぁ…。
コタツの天板に頭を擦り付ける春香の後ろに回り、後ろから前に向かって手を回す。
「ほら、そうやって抱きついてきたりしてさ、僕のことどう思ってんだい?」
ん〜…親友?
「…馬鹿。」
はいはいバカですみませんね〜
同棲してる男の娘が幼馴染でヒロインなんだ。 @aobasan
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