カステラ窃盗事件 小話
※この作品には第一話カステラ窃盗事件のネタバレが含まれています。先にそちらを読み終えてからこちらを読むことをおすすめします。
次のネタを考える間に暇つぶしに一話目を描くにあたっての小話を書いていきます。
この作品を書こうと思ったきっかけは、もともと推理小説を自分で書いてみることに興味があり、自分だったらどんな風につくろうか、とか、読者をあっと驚かせるトリックを考えてみたいぞ! という思いでネタを考える日々を過ごしていました。
しかしそんな簡単にネタなんて出てくるものではなく、何も形にできぬまま無駄に時間を消費していました。このままではいけないと思い、とりあえず勢いに任せて書いてみようと思いました。
最初、てきとうに決めた謎は「足跡を残さないで移動する方法」でした。当初の予定では現場は雨でぬかるんだ地面に足跡がついていないのに、犯行を行うことができたのはなぜなんだ? という不可能犯罪を考えたんです。そのトリックが、今作でも使われた窓から窓へ飛び込んでしまうという大胆かつ拍子抜けなトリックでした。
ただ、一話目からそんなことのできる特殊な条件の館に偶然招かれた主人公が、偶然謎を解くみたいな小難しい展開は考えるの億劫になったので、ロのような形の学校――飛び越えて向こう側にたどり着ける近さの特殊な構造――を舞台にしました。
十角館の殺人や、八角形の罠のように、一定の角の数の名前を付けようと思いました。西棟の増設により、渡り廊下が取り付けられて四角形のような形になったにもかかわらず八角校という名前にしたのはなぜかというと、四角形なのに八角と言う関係のなさで笑いを取りたかったので八角校という名前になりました。(みごとにすべってる)
さて、舞台と飛び越えトリックは思いつきました。あとはこの設定を肉付けし、徐々に削っていく作業が始まります。
まずは主要キャラを決める必要がありました。どんな探偵にするか決めてなかったので、てきとうに物知りなやつにしてみました。
成績は悪いけど、知らなくていいような知識は豊富であるという変人天才は探偵ではおなじみの設定でもあると思うので(そんなことないかもだけど)主人公の設定はさくっときまりました。ただ、一話目ではそれを活かしきれなかったので二話目からはもっと活かせるような舞台にしたいと思っています。
ちなみに主人公の名前は中裕司をもじって、中裕美にするよていだったんですけど、仲間たちの名字が二文字だったのでそれに合わせるため、中田司になりました。(もう一つの理由は、そのまま読むと下ネタになるというしょーもない遊びです)
で、主人公がそんなんだから他の仲間たちももっと奇怪な設定を持っているやつにしよう! ということで超能力者を導入しました。
まず初めにESP能力に長けた上坂、ただ、しょっちゅう超能力が使えたらえらいこっちゃなので、満月の夜にのみ、満月から地球に届く微細な電波を、ESPセンスのある上坂が受けることで人智を超えた超能力を発揮することができるという設定にしました。モデルはメタルギアソリッドのサイコ・マンティスです。(いまMGSTPP遊んでいるので)
次にギャグ要員、お遊びで全身負傷キャラの下谷を用意しました。モデルはするめいかの池野楓ちゃんです。下谷の原型のようなキャラは昔作っていて(今思い出したんだけど)体のどこかしらをいつも負傷しているというおもしろ設定を付けました。彼女も一種の超能力持ちで、超高速で代謝を行い、並の人間の数倍もある免疫力、自然治癒力によりあらゆる傷も超スピードで回復できます。しかし骨折や筋肉が裂けたりなど、動きようのないものは動けませんがたいていの傷はなんのそのです。第一話ではその体質を利用したトリックを使ってもらうことになりました。
次は文武両道の右山。一見普通ですけど全部ネットで得た知識で習得したので、半人前でもあり一人前クラスの腕を持つ謎設定です。初期設定ではござる口調でもっと堅苦しいしゃべりかただったんですけど、同学年に堅苦しくするのはおかしいということでわりと普通なしゃべり方にさせました。下谷ほどの運動能力は無いにしても、優れた武道の技術、精神を兼ね備えているのでそこで差別化を図っています。モデルはとくにありませんが喋り方はガールズ&パンツァーの西絹代ちゃんのことを思いながらしゃべらせました。
最後に左川、初期設定ではあらゆる物質を原材料さえ把握していれば自分で調合できるという科学キャラでした、たとえばジュースの成分表を見てそのジュースをほんものそっくりに再現するといった具合です。ただこれには欠点があり、五人の中で一番地味だし、そのうえ中田でもできそうな才能だったので没。けどどうしてもネタが浮かばなかったので、五感から得た情報すべてを記憶できるという、こいつの方が主人公向きじゃないのみたいな能力をつけました。モデルは特にありませんが、ジョジョの奇妙な冒険ノベライズ作品であるThe Bookの蓮見琢馬のことを思い出しながら書きました。
あとどうでもいいんですけど、書きながら全員の名前をよく間違えました。中田を中谷って書いたりとか。
あと右山以外のほぼ全員、上山下山左山って間違えたことあります、まぎらわしい。
キャラが練りおわったと同時に、一話目の犯人も決まりました。窓から窓へ飛び込む無茶な役回りは下谷にしか任せられないので、確定です。
脳内のイメージでは、高いところから飛び出して、落下しつつ窓から室内に転がり込むのを想定していたので、高さ三階の西棟から高さ二階の東棟へ飛び込むことにしました。ちなみに一階の高さは約三メートルです。たっぷり助走をつけて走り幅跳びをして約三メートル落下したときの衝撃ってどんなもんなんでしょうかね、勉強不足なので完全に想像で書くしかありませんでしたが、とりあえずけがを負うと思うので絶対真似しないでください。
で、当初の目的の足跡を残さないトリックに窓から窓への移動ということですが、練っているうちに「あれ? 足跡どうでもよくない?」という感じになってきたので、誰にも見られず瞬間移動したトリックは一体何か? というテーマに変えました。
こんなばかばかしいトリック、大批判食らうかもしれないなとびくびくしながら書いていたのですが、ばかばかしいなりに真面目に書きました。まず瞬間移動のできる上坂を犯人にするという単純なオチには絶対にしません。超能力は満月の夜にしか使えない上に、自分の肉体しか移動できないという制約によって上坂は能力を使った犯行はできない、つまりこれは物理トリックによるものだよというのを読者にわからせます。そのうえで、物理トリックなんだけども、それを実行するには下谷の能力が無ければまず不可能であるという、能力を使った物理トリックというややこしい仕組みにしました。
大けがするかもしれないリスキーなトリックは出てこないだろう、犯人は無傷で犯行を済ませることができるだろうという先入観を利用して、ぼろぼろに負傷しっぱなしの下谷を犯人に仕立て上げました。
彼女は犯人なので、適当なアリバイを考えるのがとても難しかったです、そこで思いついたのが、片足にギプスを巻いているのでおおがかりなトリックは不可能だ、ということを読者に誤認させることにしました。
紹介文にもつねに負傷していると書いてあるので、けがしてて当然なんだなという思い込み、先入観でうまくだませたと思っています。
個人的にうまくやってやったぞと思ったのは、作中で左川が言ったように「地の文では骨折しているとは言っていない」というところです。読者への挑戦で「地の文で書いてあることは全て本当です」と明記しました。ここでもう一度本作の下谷の偽装工作を振り返ってみようと思います。
第三章にてギプスを巻いた右足を引きずりつつ下谷が登場すると書いてあります、この地の文に嘘はまったくありません。そして読者への挑戦の約束にこうも書いています。「犯人だけが嘘をついている」と。事情聴取の際、下谷は「片足を怪我している」と言っています。これは当然嘘です。下谷が怪しいとにらんでもこっちの嘘に気づけなかったら謎を解くのは困難だったと思います。
「下谷が片足を怪我していないなんて情報はどこにも出てないから、十分な証拠は出そろってない!」と思う方もいるかもしれませんが、これは十分セーフの範囲だと私は思っています。地の文では怪我をしていると書いていないのに、下谷は怪我をしていると証言しているため、嘘であると気づける可能性は十分あると思います。(そろそろ怒られそう)
ただ、ミスリードを盛り込みすぎた感は否めません、五章で推理が始まりますが、中田の心の中のセリフで(アリバイが無いのは下谷の方だけど右足を負傷している)と書いたのは、ちょっと厳しかったかなと自分で思います。
最初これは地の文だったのですが、これじゃ地の文で嘘ついてることになるのであわてて()をつけて心の中のセリフにしました。下谷の足は本当に……? と言う感じで気づきかける場面を入れればもっと推理しやすかっただろうなと思いますが、それだとトリック当てはともかく、犯人当てに面白さが出てこないと思ったので、あえて入れませんでした。
大けがを負うリスクを背負わなければ実行不可能なトリック、しかし、読者への挑戦でできる限りフェアプレイに近づけたので、これはひどいの一言で片づけにくい作品にできたと私は思っています。(いや、それでもこれはひどいよ、と思った方いましたらごめんなさいね)
以上で、大体の話は書きつくしたと思います。
バカミスなりに、決して嘘はついていないという変なところに真面目にこだわったので、個人的には満足のいく作品となりました。初投稿にしてはそこそこいいんじゃないかなと思っています。
余談なんですけど、「どんどん橋、落ちた」という作品に影響を受けた節があるので、ちょっとひねた作品になってしましました。(どんどん橋を批判しているわけではありません)ぜひそちらの作品も購入して読んでいただきたいです。
あの本は全然解けなかった、解けないのに、嘘はついてない。見事に騙されました。
私は最初、カステラ窃盗事件のあまりのトリックのひどさに、自虐的な意味で「バカミス」のタグをつけました。ですが、これを書いている最中にだんだんと、あの騙されたという感情を自分の手で生み出し、他の人に与えたいと思いはじめました。そして書き上げた後の「これはいけるぞ」という謎の手ごたえのようなものを感じた時には、自分でつけた「バカミス」のタグはけっして自虐的な意味合いを持つものではなくなりました。「バカバカしいトリックだけど、バカにはできないミステリー」という新たな解釈をすることができたのです。(自分で書いておいてめっちゃ恥ずかしい)
なるほど、こういうことかあ。と満足しながら完成した作品を見て、ちょっとした達成感のようなものの余韻に浸っている所です。
さて、うぬぼれ気味の小話が続いて黒歴史の予感がものすごいしてきたところで終わりにしたいと思います。稚拙な文章でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回作ではもうちょっとマシなトリックにしたいと思っています。それではみんな、ばいのし。
中田司少女の暇つぶし かきくけこ @kaki36
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