完璧な寿司

青段

寿司の訪問

扉を開けると、スーツの男が岡持ちを片手に立っていた。


男は寿司の訪問販売員だという。意味不明だ。


「最初は皆さん同じような反応をされますよ」

「最後には納得してカネを払うってことか?」

「とにかく、まずは私達が売るものについて聞いてほしいんです」


どうせ暇だったので、俺は男の話を聞いてやることにした。


「立ち話もなんだし、上がって」

「ありがとうございます!」


茶を出してやると、早速男は話し始めた。


「私達の寿司は、即席ではない、つまり普段皆様が食べる寿司とは一線を画するクオリティの寿司です」

「即席?」

「板前は、客から注文を受けて初めて寿司を握るでしょう?それってかなりインスタントですよね?」

「まあ、そうかもな」

「我々が作る寿司はそんなものではありません。優秀な技術者が一年かけて作り上げた完璧な寿司です」

「ほう、どう作るんだ?」

「まずはシャリですが、マイクロピンセットで毎日一粒ずつ丁寧に米を組み上げます。この工程だけで半年はかかります」


俺は早速後悔した。


「馬鹿らしい。帰ってくれ」

「待ってください!まだあるんです!」

「なんだ」

「シャリは酢飯でできているでしょう?それもですね――」

「まさか一粒ずつ酢を塗ったのか?」

「そうなんです!よくお分かりで」

「帰ってくれ」

「待ってください!」

「なんなんだ!」

「寿司にはネタがあるでしょう?」

「それで?」

「銚子産なんです」

「駄目だ。帰れ」

「普通にアピールしたのに!」

「二つ続いたら次も変なアピールが来ると思うだろう!」

「これを売らないと私クビなんです!せめて試食だけでも!」


男は岡持ちから皿を一つ取り出した。何の変哲もないマグロだった。


「わかった。ただし金は払わんからな」


そこまで言われると、このまま帰すのも引っかかる。遠慮なく口に運んだ。


「どうです?」

「死ぬほどまずい。というか、パサパサじゃないか」

「そりゃ一年もかけましたからね」


俺は男を追い出した。

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完璧な寿司 青段 @aoiro3per

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