優しさの伝え方

ゆっさゆっさ。


「起きてくださいぃ~」


ゆっさゆっさ。


「起きてぇ~」


ゆっさゆっさ。


「ねぇ、起きてください!」



「……うるさい」



「起きましたか」

「なんか残念そうだな」

「いいえ全然」

ほわんとした声が脳内に響いた。……そうか。俺、変な世界で変な人達に囲まれて変なライブを経験したんだ。それが夢だったのか、現実だったのかは定かで無いままの現状である。

はぁ。静かに寝せてくれたっていいだろ?そんな急ぐような日常でも無いし。

「てか、今何時だ?」

「えーっと……お昼の11時です」

「そんなに寝てたんか、俺」

「ダーさんぐっすりでしたよ~。昨日は久しぶりに暴れましたからねぇ。あっ、せんぱ達は買い出しに行きましたよぉ」

「……ダーさんって俺のこと?」

「ふぇ?はい。なんかおかしいですか~?」

普通あだ名というものは、名前の最初を取ることが多い。俺だったらハナが言っているように、「ウッチー」とか。それが……!この娘はウチダの「ダ」を取ったのか!なんと変な……個性的な娘なのだろう。

「いや、何でもない。……そういや、「せんぱ」ってなんだ?ずっと気になって居たんだが」

「あ~。そこを聞いちゃいますかぁ~」

「なんだよ。言えないのか」

「言いますって~」

ナカハラは、俯いて少しだけ躊躇っているように見えた。そんなに隠すような事実なのかは俺にはわからない。でも、ナカハラの暗い影の顔を見たことが無かったから。……無かったと言っても、昨日出会ったばかりだ。でも、その割にはたくさんの表情を見せてくれた。最初から心を許してくれた「仲間」だ。話したくないなら話さなくてもいいと思う。

「嫌なら言わなくても……」

「誰にも言わないで下さいねぇ」

唐突に、俺の言葉を遮るように。俺は、出かけていた言葉を飲み込む。そして、ナカハラは続ける。

「ダーさんもにゃんちゃんも来る前のお話です。私とせんぱ……サクラは同い年なんですよぉ。ただ、サクラの方が先にこの世界に居たから、先輩と呼ぶべきだと思って暫くそう呼んでたんです~。でも、いつしかメンバーはトウヤマとスギタ……あっ、まだ紹介していないメンバーです。その2人を含めた4人になってしまって……。いちばんサクラと仲が良かったのが、私でした~。私にだけ話してくれたのは、学園長としての重圧に耐えられなくなりそうだってこと。学園長なんて名ばかりだったけど、今まで仲が良かった他のバンドの人達までも、敬語で話すようになっていったんですぅ。サクラには、それが耐えられなかったみたいで……。先輩っていう呼び方も堅苦しいからやめてくれって言われちゃったんです~。だから、「せんぱい」だと堅苦しいなら、「せんぱ」ぐらいかなって思ったんですよぉ~。偉い存在だけど、遠い存在では無いので。いつもみんなが居ます。いつも隣にみんなが居ます。決して孤独なんかじゃありません。それを分かって欲しかったんです~。違いますぅ?」

不思議な娘だな。何も考えて無さそうで、でもそれが逆に優しさになって……。これがナカハラなりの思いの伝え方なんだな。

「いや、何も違くない」

「ふふっ。どーもです~。私のこと、ナカちゃんって呼んでください~。みんなそう呼んでいるので」

なんか……どっかの解体のアイドルみたいだな。まぁ、いいか。

「そうか。……ナカちゃん」

嫌味っぽく笑ってみる。

「……!はっ、恥ずかしいですねぇ。改まって言われると~」

「面白いな、お前は」

「むぅ~」

部屋の外で何やら話し声が聞こえる。買い出し組が帰ってきたようだ。

「今の話は、みんなには内緒ですよぉ?」

「ああ、分かってる」

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未定!後で考えるよ! ckocko @ckocko

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