かっぱまき
綿貫むじな
かっぱまき
またあの人は酔っぱらって帰ってきた。
手には折詰の寿司の箱を携えて。
「帰って来たぞかっぱまき~~~~~!!」
べろんべろんの千鳥足でフラフラと歩きながら、玄関の上がり框に上半身をもたれてしまうともう一人では立ち上がれない。
「またこんなに酔っぱらっちゃってもう、しょうがないんだから」
私は腕を肩に掛けて立ち上がろうとすると、彼は嬉しそうに私の頭頂部を指で撫でまわしながら笑う。
「おおわが愛しのかっぱまき。随分と毛が生えたものだな」
「もう、何年前の話だと思ってるの」
私もつられて笑う。
小学生の頃の私は、ストレス性の円形脱毛症に掛かっていた。両親がちょうど離婚するしないので家庭が荒んでいたためだ。
後頭部とかに禿げが出来るならまだ髪の毛で隠せたものを、よりにもよって頭頂部のつむじの所に禿げが出来てしまったから、小学生男子は恰好のからかい相手としてかっぱかっぱと呼んでくれたものだった。
私も勿論黙っていたわけではなかったが、髪はやっぱり女の命。それが一部分とはいえ無くなってしまうのはショックだった。
「まきの髪の毛、またきっと生えてくるよ、大丈夫だよ!」
周囲の男子がからかう中、一人だけ私を励ましてくれた子。
私はその子とはケンカ友達だったけど、その時ばかりは精神的にも荒れていたから随分と救いになったように思う。
今でも彼は私にとって救いのヒーローだ。
「むにゃむにゃ……」
彼を布団に寝せて、茶の間のテーブルに置かれたお土産の寿司詰めを開ける。
助六寿司。
いなり寿司と、太巻きと、かんぴょう巻とかっぱ巻き。
いつも酔っぱらうと買ってくる、安くておいしくて腹持ちの良いお寿司。
でも彼はかっぱ巻きだけは食べない。
きゅうりの淡泊さと寿司飯はどうにも合わないからと。
だから私がかっぱ巻きを処理する。
「きゅうりと酢飯とノリ、シンプルで良いと思うんだけどなぁ」
かっぱまき 綿貫むじな @DRtanuki
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