紅白マリアージュ

アリクイ

紅白マリアージュ

「なぁカレン。君はマリアージュという言葉を知っているかい?」


ちょうど目の前に流れてきたマグロを取りながら、彼が私に質問を投げ掛ける。


「それくらい当然でしょう。私をバカにしてるのかしら?」


「ごめんよ。そんなつもりじゃなかったんだ。」


申し訳なさそうな表情で頭をかきながら、彼はこう続ける。


「ただこのお寿司もマリアージュと呼べるのかなぁ、なんて思ってね。」


「マリアージュ?この寿司が?」


「うん。味の相性も良いし、なにより赤いマグロの刺身と真っ白なシャリの組み合わせは視覚的にも美しいと思うんだ。」


あぁ、そういえば赤と白の組み合わせはこの国じゃおめでたいものとして扱われていたわね。そう考えれば彼がマリアージュと表現したのもそんなにおかしなことじゃないのかも。


「ふぅん。言いたいことはわかったわ。でも急にどうしたの?私の記憶が正しければ、貴方はそういうポエミーなのが苦手なタイプだったと思うのだけれど。」


「い、いやぁ……それは、その……」


私の問いを受け、彼の態度が急変する。まるで私になにか大きな隠し事をしているように。


「ねぇカズヤ、もし私に言うべきことがあるならちゃんと言って頂戴。私はハッキリしない人が嫌いって何時も言っているでしょう?」


「わ、わかったよ……」


両手を小さく上げて降参のポーズを取った後、カズヤはシートに置かれた鞄から小さな箱を取り出し、私の目の前で開いて見せる。


「マリアージュはフランス語で結婚……だよね?僕たちもきっとこのお寿司みたいなマリアージュになれると思うから……だから……だから、どうかこれを受け取って……あれ、なんで泣いてるの?もしかして嫌だった?それなら――」


取り乱す彼に私は伝える。溢れる涙を抑えながらゆっくり、そしてはっきりと。




「バカね、嫌な訳ないじゃない。ただワサビが目にきただけよ。」


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紅白マリアージュ アリクイ @black_arikui

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