ある廃虚の前日譚 其の二
復活───魔法を生業とする連中は"蘇生"と、そう呼ぶ。
蘇生魔法というものは確かに存在する。……が、死んだ人間を誰でも蘇らせられるのかといえば、そう上手くもいかない。どうやら使い手の力量、才能、技術に左右されるらしいが、おおよそは──重い病気で死ねば、蘇ったところですぐに苦しんで同じように死ぬ。内臓と骨とを粉微塵にされては、元のカタチに戻るかも怪しい。胴体を両断されれば、そもそも蘇生が不可能。ましてや頭が潰されたなら、言うまでもなく。──これが、俺の知る限りでの"蘇生"というものの常識。
だというのに、俺は何度頭を潰された?何度身体を砕かれた?そもそも、一体誰が、どこから俺に蘇生魔法を?
疑問に思うこと、納得できないこと、理解しきれないこと。それらは一度落ち着いて考えるべきなのだろうが、今にも飛び掛ってきそうなオークの群衆を見て、そんな余裕は与えてくれないだろうと悟った。
次に死んでも、蘇生されるとは限らない。だが、ならばどうする、と考え、すぐに剣を握り締めた。
「戦うしかない──」
今できることはそれ一つ限り。俺はそれ以上の思考を止めた。
不恰好な構えを取り、奔り出す。
「だあああぁぁぁッ!!」
疾走──跳躍。
「***!」
対峙──応戦。
「ぜぇえッ!」
接近、斬撃──
「**」
──防御、反撃。
「ぐ………ッだあっ!」
回避。後退。横転。
「***!」
「**──!!」
「******!」
「****」
群衆──包囲。
「一匹……一匹だけでいい、周りは見るな……!」
再起、照準、突撃。
「****」
「**!!」
「***」
「***──」
追走、攻撃───
「お前は道連れだあぁぁああッ!」
突進、斬撃──否、刺突。
「***!」
反撃。
同時───
「──ざまあな」
命中。致命。
「いぁ゛っ」
群衆、迫撃。
粉砕。粉砕。粉砕。
粉砕。粉砕。粉砕。
粉砕。粉砕。粉砕。
深淵──
──死。
───ぼこぼこぼこっ。
「……は」
また、蘇生した。
背後からの一撃でほぼ頭は死に、あとはただなんとなく身体が弾けていくような感覚だけだったが、確かに死んだのはわかった。
下にはオークの死体があり、胸に剣が真っ直ぐ突き刺さっている。おそらくは、最後の一撃が致命傷となったのだろう。
まだ動く手を開き、ぼそりと呟く。
「まだ、やれと言うのか?」
誰に言っているのかもわからない。しかし問わずにはいられなかった。なぜこうまでして、俺を生かす?
「***……!」
「*******」
問いの返事はなく、代わりにオークが敵意を流し出した。蘇生した瞬間の先制攻撃を喰らわないためか、ある程度の距離はある……が、奴らの膂力からすればさしたる距離にもなってはいない。
なら、さっきとやる事は同じだ。
「……何匹でも」
無意識に言葉が零れていた。そしてそのまま脳で繰り返し、髄に刻み付けた。
──俺が死ぬまで、何匹でも。
死体から剣を引き抜き、唯、一匹だけを目指して突撃した。
そうして再び死に───蘇生し。
一匹を殺し、死に───蘇生し。
深手を遺し、死に───蘇生し。
止めを刺し、死に───蘇生し。
終わらぬ泥仕合が、ひたすらに続いた。
果たして何度死んだだろうか。途中から数えてすらおらず、正確にはわからない。
「**……****」
果てのない特攻が無限に続くかと思われたが、足元の死体が十匹を越えた頃、一匹のオークが扉から出て行くのを見た。
「**?***!」
「*…………***!」
するともう一匹、釣られるように後を追い。
「*****──!」
また一匹、さらに一匹───と、オークが引き上げていったあたりで、ようやく気が付いた。
「……撤退」
仲間を何匹も殺され、死なない人間を相手にし、とうとう士気の尽きたオークは逃げ出したのだ。
「生きてる……のか」
最後の一匹が逃げる背中を見て、血に塗れた全身と剣を見て、死が横たわる部屋を見て、勝利したのだと理解した。だが、頭を占めていたのは"勝った"という充足感ではなく、"生きている"という実感の沸かない現実だった。
「………あ?」
急に緊張が解けたせいか、足ががくりと崩れて床へ倒れこんだ。
「……………」
床は血生臭く、あまり快くは感じない。が、それ以上に気がかりな事の方が大きかった。
「──あの、有り得ない蘇生は……」
戦闘中、どれだけ身体を壊されても、やはり蘇生は起こった。それに、蘇生された回数も異常だ。果たして一度の蘇生魔法でどれだけの魔力を使うのかは俺の知る所ではないが、少なくともこんなに何度も使えるような魔法ではないはずなのだ。
そして戦いの中で、ふと考えたことがあった。
あの薬だ。
俺が毒薬だと勘違いして飲み込んだ、どす黒いなにか。あれがこんな現象を引き起こしているんじゃないのか?
寧ろ、それ以外に要因が見当たらない。しかしそうなると、もう一つ疑問がある。
「不死の薬……なんて、あるわけがない」
飲めば何度死んでも蘇るなんて……そんなものを、作れるはずがない。そもそも、なぜそれがこんな所にある?
「………あぁ」
思考を走らせたが、俺にはわからないし、考えたところで答えなんて出てこない。そう結論付けて、静かに目を閉じた。単純に疲れていた。
心臓の音が聞こえる。激しく波打っているそれは、未だ緊張している様子だ。
……本来なら、すぐにでもここを出て、報告に行くべきなのだろう。だけどこの時は、もう少しだけ生きていることを感じていたかった。
そのまま意識が途切れるまでにそう時間はかからなかったように思う。
こつ、こつ、こつ。通路を歩く音で、目が覚めた。
《Brave〉The Immortal〉 落下 @Rakka
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