孤独

YGIN

第1話




暖かくして寝なさいと母からは良く言われた。

それに即してか即していないか私は炬燵の中で寝ていた。

半身を漬かっていたのではなく、全身すっぽりと顔まで炬燵の中で丸まっていた。


目覚めると喉がからからだった。

へばりつくような乾燥感がいやで、炬燵の中から抜け出すと、すぐさま冷蔵庫の元へ棒のような足を動かした。


冷蔵庫には望んだような砂糖っ気のない飲料は入っていなかった。

ようするに炭酸飲料とジュースとこの前発売されたばかりの甘ったるいスポーツドリンクだけだった。


しかし喉元をともかく液体が流れないことには喉のいがみが気になって仕方が無かったので

仕方なく新製品のスポーツドリンクで我慢することにした。


私は二リッターのペットボトルを無遠慮にラッパ飲みした。

そうすると喉は瞬く間に潤いを取り戻し、気分がいくらか楽になった。


甘ったるい感じは、ペットボトルを冷蔵庫に仕舞い入れるぐらいになるとやってきたが、

もう味覚の心象は私の脳内で過ぎたことだった。


私は重い頭を抱えながら、のそりとした足取りで玄関口へ向かった。


財布などの貴重品も持っていく気は更々無く、

私は手ぶらで玄関の戸に手をかけた。


外は雪が降っていた。真冬なのだから無理も無かった。


だというのに、私はアウターなどひっかけず、

セーター姿のままで雪道をごりごりと歩行した。


ほどなくして、やっぱり貴重品ぐらいは持っていくべきだろうかという気持ちが生じたが、

雪道を引き返すというのも億劫に感じ、やめた。


途中、通行人が私をのぞいてきた。

マフラーも手袋もコートも纏わない、露出した肌部分が赤みを帯びている私がたいそう

寒そうに見えたに違いない。


あるいは「馬鹿なのかこいつは風邪をひくぞ」とでも思われたのかもしれない。


しかしながら仮にあの通行人がそう感じたのだとすれば、あの通行人こそまさに馬鹿なのだった。


なぜなら私は既に風邪を引いていたし、すでにまともでない調子だったのだ。


それを一視で判断できない通行人はとてもおろかだと私はぼーっとした頭で勝手に腹を立てた。



いや。


あるいは助けて欲しかったのかもしれなかった。


何か私を見て、その異様な様相を読み取り、気にかけて欲しいのかもしれなかった。

「どこか調子が悪いのですか?」とか

「何か悪いことでもあったのですか?」と心配して欲しいのかもしれなかった。


しかし私は知っていた。

他人は他人のことなど気にもしないということを。

喉の渇きも心の乾きも、結局は自分ひとりで何とかやりくりせねばならぬということを。


そうして私は雪を踏む足音をグシュリグシュリと強めると、

されど気持ちは大変弱弱しい調子になって、歩みを進めた。

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孤独 YGIN @YGIN

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