第2話 編集中。。。
あの綿は彼の情報ではないかと思うんです。
私が小出しにしていった情報。彼は茶髪であるとか。忘れっぽいだとか。そういう、妄想の恋人を形作っていた、いろいろな。私が創っていったものが。
カラフルな綿となって、彼の体をきっと内側から支えていたんです。それが飛んでいってしまった。
飛んでいって、街に染み込んでいった。
私、追いかけたんです。綿を。あれがなくちゃ、彼が生き返らないと思って。私、彼を取り戻す気でいたんです。飛んでった綿を集めて彼の体に戻せば。きっと元通りになるだろうって。妄想で創った彼氏でしたけど。親に見せるためだけに用意した彼氏でしたけど――それでも私あの人と同棲していたんです。一緒に暮らしていたんです。
あの人の首を切ったのは私だけど。でも。
……とにかく。
それで私追いかけたんです。そしたら。
声をかけられて。
近所に住むおばあさんでした。もうお歳なのに元気な人で。毎朝散歩をしているらしくて。その時も散歩中だったみたいです。挨拶されて。ああこんなことしてる場合じゃないと思いながら私も挨拶を返して。それで。
あっと思ったんです。
綿が。
紫色の綿がひとつ、おばあさんの上着に近付いたかと思えば、するんと入り込んでしまったんです。上着に。池に落ちたボールが沈んでいくみたいに。
それでですね。その上着から毛が生えてきたんですよ。髪の毛。茶色の。その毛はどんどん伸びて、地面につくくらいになって。私、ふっと思ったんです、あれは彼の髪の毛だって。いえ別に、彼の髪は長かった訳でもなかったんですよ。でも、伸びていく長い髪の毛を見て、確かにあれは彼のものだって。そう思ったんです。
だって色が。
彼の色だったから。
だから考えてみると、綿の色と情報って多分関係はないんでしょうね。ランダムに決まるのかもしれません。
え、だから。あれはおそらく、彼の「茶髪」という情報が形になったものだったんですよ。あの、紫の綿は。
それで…言ったんですよ。あの人言ったんです。
「あらやだ、こんなに毛が、恥ずかしいわ」
彼の髪を触りながら、ですよ。
私の妄想した彼の体から出た綿が上着に染み込んで、だから、彼も綿も上着から生える髪の毛も、全部が私の妄想なんですよ?
そりゃあ彼の姿を親に見せるようには頑張りましたよ? でも相手は近所の人ですし、おばあさんの見ているのは、ただの髪なんですから。原型もとどめていないような――というより原型の一部って言った方がいいんですかね。とにかくあれはもう彼の姿ですらなかったんです。私の妄想でしかなかった。なのに見えていたんです。
しかもあの人はそれを受け入れた。こんなに毛が、なんて、まるでセーターの毛玉を見つけたように。自然に。当たり前みたいに。
随時編集中(タイトル) 月山 @momosui
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。随時編集中(タイトル)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます