第17話いらっしゃい魔王城

「『やあ、久しぶり。俺は元気にやっているよ。まだ半人前だけど、就職も出来たし、遣り甲斐のある仕事で気力も充実してる。

 何となく、旅に出始めた頃を思い出すよ。と出会う前、王様から命じられて一人で出た頃だ。ワクワクして、これから先何が起きるか解らないあのドキドキ………。

 とにかく、心配しないでくれ。夏休みには一旦帰ろうかと思ってるから。勇者サ………』って何これ!?」

「何って………勇者様からの手紙のようだが、それがどうしたんだクラリス?」

「元気そうに………見える」

「見えはしないだろうリーザリーザ。だがまあ、文面からするに元気なことは間違いないようだな。文体も文字の癖も、最後の署名も間違いなく勇者様のものだ」

「そんなことは問題じゃあないのよアンナマリー! この手紙を良く見て、具体的には、こっちの封筒の方を!」

「封筒?」

「あぁもう、どこまで抜けてるの貴女たち! 勇者の仲間失格よ! ほらここ、差出人の住所アドレスを見て!」

「「………えぇぇぇぇぇっ!?」」


 ………


 ………………


 ………………………


「いやあ、しかし驚いたよ魔王」

「ん、どうしたのだ見習いよ。………というか何と言うか、今回は本当に久しぶりな気がするな」

「ちょっと数回死にかけてたからね………安全テストって、される側にとっては全く安全じゃ無いんだな。毒で1以上減らないようにする実験とか、体力1の状態でどの程度動けるかとか」

「そうか、お疲れ」

「軽っ!?」

「いや、詳しくは言わないが、それくらいで済んで良かったなと」

「重い………」

「まあとにかく。きちんと業務外報酬は出したろう。ちょっと危険なアルバイトと思って良しとしておけ。

 それで? 何が驚いたのだ?」

「うん、ほら、郵便だよ郵便」

「郵便? 人間界にはそういうのは無かったのか?」

「いやあったけど」

「ポストに入れる、回収されて配達される。仕組みは変わらんぞ、何故驚くのだ?」

「そこだよ」

「どこだ」

「その『回収されて』ってとこだよ。ここ魔王城だぞ、魔王討伐の旅ツアー最終目的地だ。適正レベル70以上だぞ! どんな郵便配達人だよ、魔女か、魔女なのか?」

「え、いや、普通の人間だけど………」

「嘘、だろ? ………あ。ははーん、解ったぞ。魔物や魔族に、襲わないように言ってあるんだろ?」

「いや、別に言ってない」

「何で?」

「魔族の大半は、戦闘欲の塊だぞ? 魔王が直々に『襲うな』と言ったらどうなると思う。襲うに決まってるだろう」

「え、じゃあ、彼らはどうやって………」

「頑張ってる」

「え」

「超頑張ってる。罠とか越えたりな」

「そこは止めておいてやれよ」

「いや、我輩も一応聞いたのだが………。配達人たちが『やれます』と」

「謎の気合いだな………」

「『寧ろ最近、どれだけ早く突破できるかで盛り上がってます』と」

「えぇ………?」

「そのせいで、闇巫女の奴が燃えてしまってな………」


 ………………………


 ………………


 ………


「えぇ、そうです。地雷を増やしてください。足の踏み場もないくらい。え? えぇ大丈夫、魔王様はそのくらいでは死にませんから。

 あとは、落とし穴に釣天井。………例の没になった剣の床があるでしょう、あれを配置しなさい。………えぇもちろん。魔王様は大丈夫です。

 あ、溶岩から火の玉飛び出すように出来ませんか? ………あぁ、怒られるのなら仕方がありませんね………。

 じゃあ、代わりに何か飛び出させましょう。何が出てきたら驚きますかね………。うーん………、魔王城で一番出てこなそうなもの………。

 はっ。閃きましたよ、魔王様が飛び出してきたら驚くのでは?」


 ………………………


 ………………


 ………


「あぁすまんちょっと待ってくれ見習い。

 ギルティサンダー!!

 ふう、これで良しと」

「なんか遠くから悲鳴が聞こえたけど………?」

「気にするな。それより、郵便の話だったな。

 誰かに手紙を出すのなら気を付けろよ。元勇者が魔王城に居るなんて知られたら困るだろう?」

「………あ」

「何せお前の知り合いだ、仲間の三人娘か? あいつらなら住所見るだけで解るだろうしな。そもそも暗黒大陸の名前も出さないようにしろよ………どうした?」

「あー、その、えっと」

「………まさか、いや、まさかだよな。まさかだろ?」

「………はは」

貴様ぁぁぁギルティサンダー!」


 ………


 ………………


 ………………………


「………どうするの、アンナマリー」

「決まってる。私たちだけでは力不足だが………勇者様を放ってはおけん!」

「きっと………脅されて書かされたのでしょう………住所は、勇者様決死のダイイングメッセージ」

「いや、それじゃあ死んでるじゃないリーザリーザ」

「行くぞ。勇者様をお助けするのだ!」


 ………………………


 ………………


 ………


「不味い………このままでは、あいつらが来る。そうなったら、秘密どころじゃあないぞ!!」

「うぅ………お、俺が言って帰すとか」

「それではお前がここにいることの説明にならんだろう!

 何とかせねば………」

「(ドタドタドタ)魔王様! やりましたよ魔王様!」

「なんだ闇巫女よ、今忙しいのだ。あとでサンダーしてやるから報告は待っていろ」

「何で罰から考えるんですか!」

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ」

「え………セクハラですか?」

「そういうところだバーカ!」

「それより聞いてくださいよ! 罠が大成功です!!」

「だからあとにしろと………ん?」

「………あれ? 罠?」

「そうですよ、郵便対策に強化したあれです!! いやあ、強化して良かった。やっぱり溶岩から飛び出る魔王様人形が効果的でしたね!」

「馬鹿馬鹿しい強化理由だな………」

「お陰で侵入者が引っ掛かりました! 人間とエルフ、妖精族ですよ?」

「………それ、まさか………」

「皆………」

「………それでどうした?」

「あ、はい。珍しい侵入者ですし、実験体を探してた博士のところに送りました!」

「皆ぁぁぁぁっ!?」

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