第16話開発部にようこそ!

「久しぶりだな見習よ」

「久しぶりってほどでもないだろ。それから見習って呼ぶな魔王」

「暗黒騎士になったわけでもないからな。勉強は順調なのか、元勇者よ」

「なら名前で呼べば良いだろ………」

「名前………何だったか?」

「いい加減覚えろ! いいか、俺は、」

「魔王様、それに見習も。ちょうど良かった、今良いですか?」

「おぉ、闇巫女よ。どうした?」

「………」


………………………


………………


………


「連れてきましたよ、博士」

「うむ。助かったヨ闇巫女。そして魔王様と、期待の新人ヨ」

「何か用か、博士よ」

「博士? ………白衣を着た、女の子………? それにこの部屋は………」

「あぁ、お前は初めて会うか。魔王軍の様々な薬品や、或いは罠なんかを開発している。ほら、城の前の、動く毒の沼なんか傑作だったぞ?」

「あれはあんたかぁぁぁっ!! 逃げても逃げても追い掛けてきて、魔物も巻き添えになってたぞ!!」

「フハハ、その通りだヨ! 獲物を追って追って追いまくって、弱らせまくるのだヨ。虐殺しまくるヨ!」

「虐殺って………あいにく毒で死にはしないけどな?」

「体力残り1のまま彷徨う地獄の旅だったんだぞあれは………」

「ふむ………ところで新人ヨ。何故私の傑作を知っているのかネ? あれは、人間どもの本拠地近くの、かなり深い部分に設置した筈だけれどネ?」

「っ!?」

「ギクッ!!」

「ギクッて口で言いましたか見習?」

「それに、さっき。何か体験したような感じのコメントを残して無かったかナ?」

「ギクギクッ!!」

「魔王様? 今何か言いましたか魔王様?」

「………(どどどどうするんだ魔王! これでバレたらまずいんじゃ)」

「………(おおお落ち着け見習よ。ここは、何とか誤魔化すのだ)」

「………(誤魔化すのか? いや、俺はそういうの苦手なんだけど)」

「………(ふ、我輩を何だと思っている? 闇の魔王だぞ。外交手腕、権謀術数なんでもござれだ。まぁ、見ておけ)」

「魔王様? どうかしたのデスカ? その新人は」

「………(ゴクリ)」

「い、いやー何の事かなー我輩ちっともわからないなー今日はいい天気だよねー?」

「「ヘタクソーっ!!」」


………………………


………………


………


「成る程、勇者が恩返しにネ………」

「………うむ」

「………はい」

「本当にバレバレでしたね………魔王様、嘘吐くのヘタクソですね」

「嘘な………吐いたりしないからな我輩」

「魔界最高権力者だからネ、誤魔化したりする必要は無いからナ?」

「期待した俺が馬鹿だったよ」

「くそ………」

「しかしそれより。博士よ解っていると思うが、この事は内密にしておいてくれ。この事が魔王軍に広まってしまったら………」

「そうですよ、そんなことになったら、勇者は魔王軍全体からボコボコにされてしまうでしょう。あとついでに魔王様も」

「何で我輩まで?!」

「魔王様が許可したわけですから仕方がないでしょう。ふふ」

「笑いが漏れてるぞ貴様」

「いえいえ。久しぶりに特攻装備が輝くなと思っただけですよ」

「うーん、まぁ、私はどちらでも影響無いからネ、構わないヨ」

「そうか、良かった」

「………(ちょいちょい)」

「ん、何だネ闇巫女………ふむふむ………はっ、成る程………。

あー、魔王様? 相談があるのだがネ?」

「闇巫女………お前、今何か博士に耳打ちを………」

「何の事ですか? それより博士、ほらほら」

「うむ。勇者の事を秘密にしておく代わりに、少し、少ーしだけ、お願いがあル」

「いやあ仕方がないですねこうなってしまったら話を聞くしかないなぁいやあ」

「お前………」

「まあ、俺はそういうの、頼まれたら嫌とは言えないし構わないけど………」

「先ずは中身を聞け見習よ。そうやってホイホイ付いていくから騙されて、拐われた子供を助けるだとか言ってオークの巣に放り込まれるのだ」

「何で知ってるんだ!?」

「あ、あれは私の部下、闇巫女17号に演技をさせたのでした。拐われた子供は、子役です」

「なん、だと………」

「オークたちとの仲も良好で、ほら、これが打ち上げの様子です」

「肩車までされてる?! あんな、『オレサマオマエマルカブリ』とか片言で脅してたのに………」

「あ、片言なのは演出だぞ。あいつらは普通に話せる」

「子役に向けてたナイフは私の作品ダ。ほらこれ。押すと刃が引っ込むようになってるし、刃も潰してあるヨ」

「ウソだぁぁぁっ!!」


………………………


………………


………


「まあ元気を出せ見習よ」

「もう何も信じられない………」

「そうですよ、これからは貴方も騙す側です。あ、あとで子役に紹介しましょうか」

「止めてくれ! それより、博士。お願いっていうのは何なんだ?」

「あぁ、そうだったヨ。ちょっと、毒を飲んで欲しいんだヨ」

「嫌だよ」

「博士、言葉が足りませんよ」

「うむ、そうかもしれないネ。あー、死なない程度に調整した毒を飲んで経過を見させて欲しいんだヨ」

「嫌だよ!」

「魔王様も御一緒にどうかナ?」

「嫌だ」

「魔王様、秘密を守ってもらうためですよ」

「く………」

「まあ、毒の濃度は大切ですからね。そういう意味では勇者が居て良かったですね」

「まあ、確かにな」

「というと?」

「あー、詰まりだ。当然障害として毒は配置するが、それで死なれても困る。原液をそのままだと、高位の魔族でさえ魂から腐るからな。薄めねばならん」

「魔王様も溶けたりしますか?」

「ワクワクするな馬鹿者。我輩は元とは言え神だぞ? 精々腹を下す程度だ」

「ちぇっ………あ痛たたたたっ、うそ、嘘です魔王様万歳!」

「………で、だ。

その濃度が問題だ、強すぎても駄目だし弱すぎても駄目。となると、やはり実際に飲ませるのが手っ取り早いからな。

しかし、魔物と人間とでは抵抗力が違う」

「そこで、人間に飲んでもらうのが一番だけどネ。しかし最近の研究成果でネ、勇者の抵抗力は他の人間より高いという結果が出た。他のに合わせた毒では、勇者、詰り君には通じないのだヨ」

「成る程………、え、ちょっと待って。ということは俺今、ぶっつけ本番で毒を飲まされそうになってる?」

「大丈夫。死んでも魔王様が甦らせてくれますよ」

「死ぬ前提じゃないか嫌だ絶対! 大体、僕は今、神の加護が薄れてるんだぞ?! そんな状態で毒なんて飲んだら」

「まあまあ落ち着け新人ヨ。ほら、深呼吸深呼吸」

「すー、はー」

「大きく息を吸って」

「すーーーー」

「吐いてー」

「はーーーー」

「はいこれ飲んでー」

「(ゴクリ)………あ」

「コイツ本当に騙されやすいな………」

「あぁぁぁぁっ! っげふ」

「あ死んだ」

「仕方がないな全く………」

「あぁ待ってください魔王様。博士、実験室で拘束してから甦らせてもらいましょう」

「おぉ、そうだナ闇巫女。フフフ、夜はまだまだこれからだヨ」

「………………………すまんな見習よ。あとでほら、給料は出してやるからな」


………………………


………………


………


「そういえば博士よ。何故そんな、子供になっているのだ?」

「新開発の若返りの秘薬を飲んでみたのだヨ。どうかネ?」

「………お前スケルトンだったよね?」

「若返ったネ?」

「というか………生き返ったと言うかなんと言うか………」

「わ か が え っ た ネ ?」

「………はい」

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