うどん同好会
由布 蓮
第1話
「浩平、何やっているのよ」
「ちょっと待ってくれよ、スマホで調べているんだから」
「何を」
「何をって、決まっているじゃないか。店のサイトを調べているんだ」
「もう直ぐそこよ。…私、入るからね」
「待ってくれよ、一緒に入るから」
この日もうどん好きで大学2年になる子門麻祐子は、同じ大学で1年先輩の木見田浩平に言った。
今週も2人で4日連続だった。
この店に入ったのも初めてだった。同じ香川県出身で先輩と後輩の関係。友達以上恋人未満の関係。共通なのは、小さい頃から親に連れられて馴染の店で朝ご飯のうどんを食べていた。しかも大学でも部員が30人近くいる『うどん同好会』に所属していた。浩平は同好会の副部長。毎週月曜日の午後から同好会のメンバーに報告する為に、この日も2人は昼食を兼ねて研究と取材と言う名目で訪れていた。それは5月中旬のお昼だった。
ところが店に来てみると大勢の客が並んでいた。2人は最後尾に並んで数えると既に30人近くのサラリーマン風の男女が所狭しと座っていた。ところが15分も待たない内に2人は入ることができた。店内に入ると既に昼時とあって満席で賑わっていた。この店自慢のお急ぎコーナーでも客が立ったまま勢い良く食べているのが見えた。
そんな店の勝手を知らなかった2人は、空いていたカウンター席に座るとメニュー表を眺めていた。
「私、オーソドックスだけど『かけうどん』とトッピングに『海老天』を頼むけど…浩平は」
「マユがそれなら俺は『ぶっかけ』を頼もう」
浩平が言うと麻祐子は手元のベルを押すと厨房内から女性店員が出てきて2人の前に立つと注文を聞いた。
「私が『かけうどん』とトッピングに『海老天』と、それに『ぶっかけ』をお願いします」
代表して麻祐子が言うと、女性店員はそれを注文伝表に書き終えると復唱し更に聞いた。
「うどんの量はどれくらいにしますか」
「私はトリプルにするけど、浩平は」
「マユ、そんなに食べるのか」
その量の多さに驚いた浩平は聞いた。
「昔からトリプルだけど、これくらい食べないと食べた気がしないの」
麻祐子はメニュー表を見ながら言った。
「この間もさ、大きなハンバーグを頼んで置きながら最後になって太ると言って殆ど残したけど…勿体なくて、その処理をしたのは誰だと思っているんだ」
浩平は言った。
「今回は、大丈夫だから。高校時代はうどんだけは毎日食べていたんだから…」
「それより浩平、店の人が待っているから早く決めなさいよ」
麻祐子は催促した。
「俺、そんなに食べられないからダブルでお願いします」
浩平が女性店員に注文すると困った表情をした。
「お客様、ここはうどんでもお蕎麦でも大人はトリプルで子供はシングルだけなんです」
女性店員は説明すると麻祐子も浩平を見て言った。
「浩平、知らなかったの。この店はどれもトリプルなのよ」
「えっ、そうだったのか…俺、知らなかったよ」
「来たことがなかったの」
麻祐子が聞くと浩平は肯くだけだった。
「店に入る前に見なかったの…看板にトリプル専用と大きく書かれていたのよ」
麻祐子は困った表情した浩平に言った。
「俺、携帯を見ながら入って来たから知らなかったよ」
浩平は言うと麻祐子も浩平に言った。
「分かったけど、トリプルで良いでしょう」
「それに頼むよ」
それを聞いた女性店員は伝票に書いて厨房前のカウンターから大きな声を出して注文した。
すると浩平は改めて聞いた。
「マユ、そんなに食べて大丈夫なのか…」
「私、大丈夫だけど浩平こそ大丈夫なの…」
麻祐子が言うと浩平は言った。
「最近、急に食べられなくなったんだ」
浩平は麻祐子に理由を話した。
「それなら残ったら私が食べるから」
そう言うと浩平はスマホをいじり麻祐子は店内を眺めていた。
すると数秒も経たない内に麻祐子は言った。
「ねぇ、浩平。あそこの女子高生もトリプルよ」
浩平は麻祐子が言う方向を見ると、3人の女子校生が大きな丼でうどんを食べていた。
どの娘も痩せていて苦も無く食べていた。
「今の女子高生凄いね」
浩平は言った。
「浩平、あそこのカップルもトリプルよ…」
「私より痩せているのに口を大きく開けて食べているよ」
麻祐子は別な方向に目を向けると浩平も一緒に同じ方向を見た。
「浩平、隣も見てよ」
麻祐子が言う方向を見ると誰もがトリプルだった。
それに釣られて浩平は店内を眺めていると誰もがトリプルのうどんを食べていた。
こうして2人は店を出ると麻祐子は呟いた。
「やっぱりうどんを食べるならやっぱりトリプルよね…」
「普通の人ならお腹が出るのに、まだ食べるのか」
「だってその為の『うどん同好会』なんだから」
麻祐子が言うと、浩平も黙ったまま2人は歩いて商店街の中に有る別なうどん店に向かった。【了】
うどん同好会 由布 蓮 @genkimono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます