14:覚醒


(こ、これは……なんだぁ?!)

 ナーシャは、透視クレアボヤンスの力で、光の体内を観察していた。

 そして、驚愕する。

 光の、潜在力の強さに、だ。

 超能力サイキックの力の源は、人間の頭頂部――第七チャクラと呼ばれる部位から発せられる、強烈な白い光。

 全ての人間の、霊魂スピリットの根本に、潜在的には備わっている「神」――いわば、創造主クリエイターの力の欠片だ。

 ヒカリの頭頂部、王冠クラウンチャクラから、その光が爆発的に放出されている。

 いつしか、それは肉眼でも見える物理的な光に化けていた。ヒカリという少女を、太陽のように白く輝かせて。

 訓練も受けず、市井で安寧と暮らしていた一少女のそれとしては、ありえないほど強烈。

(……とんだ掘り出し物を、引き当てたようだなぁ。私にも、運が回ってきたか……!)

 ナーシャは、ほくそ笑んだ。

「傑作だ……実に、傑作だよ。真崎光! くくっ……く、く、ふふ……あははははぁっ!」

 ナーシャが大笑いしても、光は無反応だった。

 自分自身の放つ、光の奔流に耐えられず――光は、気絶していたのだ。

 とうぜん、彼女の念動力サイコキネシスも、不発に終わってしまう。

 滅亡のスイッチが入った。

 核爆弾が破裂する。

 爆音と、衝撃力と、放射線が、周囲の空間に放出され、死の世界へと変えていった。

 

 光は姉で、灯は妹だった。

 とはいえ、二人とも年齢は同じ。人生のはじまる瞬間が、少々ずれただけのことだ。

 それなのに、人生が終わる瞬間は、もうとんでもなくズレて、どのくらいでおさまるのか未だに分からない。

 光は、そう思っていた。

 ――だけど、そんなアンバランスなのも、もう終わる。

 私は、もう死んだんだから――

 光は、ふわふわと、雲の上のような所に立っている。

 きっと、核爆弾に吹っ飛ばされて、雲の上に落っこちたのかもしれない、と察した。

 まぶしくて、彼女は目を閉じる。

 核爆発の閃光なのか……トラックのフロントライトなのか、分からない。

 灯を轢いたトラックが、今頃、光のところにやってきたのかもしれない。

 そうだとしても、とうぜんの報いだ――と、光は思った。

 まばゆい光に、ヒカリは、もっときつく、ぎゅっと、まぶたの裏に妙な模様が浮かび上がるくらい、強く目を閉じた。

 

 ――けれど、何の因果か、光は死んでいなかった。

 目を開ければ、どこかのビルの屋上、誰もいない寂しい所に寝かされていたのだ。

 体を起こすと、実は、光は一人だけではないことを知った。

「目が覚めたようだなぁ」

「……ナーシャ」

 不敵な笑顔のゴスロリ金髪幼女が、隣にチョコンと腰掛けている。

 背が低いから、ちょうど死角になっていたらしい。

「寝起きでスマンが……単刀直入に言おう。やはりお前は、私達と共に戦え」

「……!」 

 光は、腕をぴくっとさせた。

「宇宙人どもが、お前にケツを蹴っとばされたいそうだよ。良かったなぁ、王子様? ふふふっ……」

 ナーシャは、立ち上がった。

 お尻を深く包む、子供向けショーツをチラチラさせて、それでもくちびるを吊り上げ、大人顔負けの黒い笑みを浮かべてみせる。

「言っておくが、答えはイエスだけだ。ノーなら……分かるな?」

「……分かったよ。イエス、イエスだ!」

 光は、言ってしまった。

 やっぱり、けん銃をつきつけられていては、逆らうのはムリだった。

「いい子だ」

 ただ、せめてもの逆襲を、光は試みる。 

「たださ、ナーシャ。その代わり……僕の、友達になってくれない、かな。僕、ほら、ちっちゃい子が好きなんだよね」

 光は、ニッコリと、いつもの悩殺フェイスで笑った。

「茜も死んじゃったし……それに、僕はもう、どうせ学校には戻れないんだろう?」 

「察しのいいガキは嫌いではないぞ。しかし、下っ端の分際で条件をつけるとは、剛毅なやつだ」

 ナーシャは、乙女座りで腰掛けた。

 光のおでこに触れて、ニヤニヤ顔をちかづけてくる。

「友達だと? ……ふん、後で泣き叫んで、離れたいといっても知らんぞ?」

「!?」 

 一体、何をさせるつもりなのか――と、光は一瞬ぞっとするが。

 体がくたくたで動かず、けん銃を突きつけられていれば、何も抵抗出来ない。

 もうどこにも、逃げ道はなさそうで、9割くらいは悲しいし、やりきれないのだが、それでも、1割くらいは胸がムズムズするのを、光は感じていた。


 ナーシャは、説明してくれる。

 光が念動力サイコキネシスに失敗したせいで、核爆弾は起爆した。

 だが、爆発する直前、ナーシャはそれを瞬間移動テレポートさせ、宇宙の彼方に吹っ飛ばしたのだという。けっきょく、何の被害も無しで済んだのだ。

「ガキのケツ拭きくらいは任せろ。つまらん遠慮はするな」

 ――なんて、ナーシャは偉そうに言っていたが。

 核爆発の閃光でないとするなら、あの妙な光は何だったのか。

 本当に、トラックのフロントライトだったのかと、光は悩んだ。

 それが、超能力サイキックの力、神の無限の力の源だったことを、彼女はまだ知らない。

 やがてナーシャは、宇宙人に対抗し戦っているという秘密結社の基地へと、光を連れて行った。

 その基地は、地球の衛星軌道上にある。

 ここに来た以上、元の街、元の家族のところに戻ることは、けっして許されないという。

「――そんなことだろうと、思ったよ」

「最初からテンションを下げるな、バカ者。……さぁ、ようこそ。ここが、秘密銀河計画SGPの基地だ。歓迎するぞ、新米超能力者サイキッカー

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test 相田サンサカ @Sansaka_Aida

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