13:ゼロ距離核兵器
「ええええ!? 核を、投下……だって!」
「お前のような足手まといがいるから、こうなったのだ! 本来なら、機体ごと即座に塵に変えてやっていたものを……」
ナーシャは、口をとがらせブツブツ言う。
「仕方ない、行くぞ。さて……あそこだな」
ナーシャは、光の手をとって、再び
すると、二人の目の前に、人間数人分の球状の物体が現れる。
その金属球と、一緒に地面へ落下していく形だ。向かい風が強すぎる。
光は大声で叫んだ。
「なにこれ!?」
「言っただろう! 核爆弾だ!」
光は、ギクリと震えた。
都市そのものを、まるごと灰燼に帰すほどの破壊力を秘めた爆弾――
そんな、想像を超えた破壊をもたらす兵器が、すぐ目の前にある。光は、心臓がキュッと縮むような気がした。
「ナーシャ! キミなら……どうにかできるんだろう!?」
祈るような思いで、光は怒鳴る。
「できるとも! だが、それではつまらん!」
核爆弾がすぐ目の前にあるというのに、ナーシャは弾んだ声だった。
「これが最後の職場体験だ! 光、お前が、このオモチャにカタをつけろ!」
「っ?! な、何言ってるんだ……!?」
ナーシャは答えない。
その時、光の脳裏に、とある「イメージ」が浮かんだ。
丸い大きな球体――核爆弾だろう。
しかし、その外見が普通に見えたのではない。
核爆弾の内部構造が、手に取るように見えたのだ。
それも、ただ透けて見えたわけではない。
不思議なことに、爆弾の中心部も、表面も、あらゆる部分が同時に見えていた。爆弾の全てのパーツを解体して、一枚の紙の上に並べでもしたかのよう。
あるいは、一つ上の次元から、三次元の世界を見下ろしたかのように……見えない部分というものが、存在していなかった。
光は、「第六感」のような勘が働くことがある。
しかし、ここまで鮮明に、あらゆる部分が視えるという経験ははじめてだった。
『驚いたかぁ? 私が
と、ナーシャの声が
はぁはぁ言っているところを見ると、どうやら、大声を出すのに疲れてしまったらしい。
「こ、こんなに鮮明に……!?」
ナーシャは、面倒くさそうにこくんとうなずいた。
『……さぁ、やれ! お前の
、
ナーシャは、器用なことに、落ちながら光の脚を蹴飛ばした。せっついているつもりらしい。
光は、確かに、念力みたいなものを使ってしまうことがある。
けれど、それは、意識しないうちに勝手に発動するものだ。
フェンシングの試合でも、特にズルをする気なんてない。なのに、いつの間にかフルーレが、相手選手の体を追いかけていた。
(意識的に、なんて……そんなことできるのか……?!)
「チッ……!」
ナーシャが、光の耳元で舌打ちするのが聞こえた。
どうやら、光の頭の中を読んでいるらしく、
『そんなことをほざいている場合かぁ! これが、爆発したらどうなる!? 私とて、無事ではすまん! お前など消し炭だろうなぁ! フン……何が、学園の王子様だ。親友を宇宙人に殺されたクセに、お前はそうやって、のうのうと腑抜けているだけかぁ!? お前のどこが、王子様なんだぁ! ……ここで爆発すればなぁ、地上もただでは済まんぞ! お前の街も、お前の学校も、お前の家族も、塵に変えられてしまうのだぞ!』
「……ッ!」
光は、くちびるを舐めた。
『それに……ほう? お前、ずいぶんとくだらん過去を持っているようだなぁ?! 妹を、見殺しにしたとはなっ!』
光は、はっとした。
頭の中を、まるはだかにされ、覗かれている――そう気づいて、汗が垂れる。
「僕は……僕はっ」
違う――
とは言えない。
言いたくても、言えなかった。
ナーシャは、容赦しない。光の頬を思い切りつねった。幼女の力とは言え、爪が食い込んで、それなりの痛みが走る。
「うぅっ!?」
『幼女に罵られて、悔しいか、ガキ?! ならば、今すぐ、その根性を叩きなおせ! 下らん恐怖は、今すぐ捨てろ!』
核爆弾が、ほんの目の前に迫る。
いつ爆発してもおかしくない――
その緊迫感に、ナーシャの怒鳴り声が光を追い詰める。
「僕、は……っ!」
『やれ、光! お前の本気で、
「……くそっ、くそぉっ! 僕は、僕は……!」
光は、手を爆弾に突き出した。
ほとんど、手が触れそうな距離。
強烈な向かい風の中で、髪が、制服が、引き千切れそうなくらいなびいても。
(灯ちゃん……僕は、もう逃げない!)
光は、乾いていく眼球を閉じずに、開き続けた。
「……僕はやる。やらなきゃ、だめなんだあっ!」
ナーシャが、顔をしかめて耳をふさぐ――それほど、光は大声を発した。
無我夢中で。
彼女の強い意思の力が、無意識の中に眠る、
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