12:無敵幼女

「て、テレパシー……?」

 遠く離れた相手に、声などを伝えるという超能力の一種――という程度の知識は、光にもあった。

「そんなことまでできるのか、キミは……」

『疑う気も失せただろう?』

 ナーシャは、くすくすっと笑った。

「でも、テレパシーを送っただけで、なんでああなるんだ?」

 光は、倒れている兵士たちを指差した。

『なに、簡単だ。遠隔交信テレパシーを通じて、とてつもない騒音を送り込んでやったのだ』

「……な、なるほど」

 妙に賢いやり方に、光は舌を巻く。

『耳元で爆弾が爆発したようなものだろうからな。しばらくは起き上がれまい……いや、刺激が神経の許容量を超え、死んでしまったかもなぁ』

 悪びれもせず、ナーシャは言い、

「くくっ、くすふふっ……!」

 と、今度は、遠隔交信テレパシーではなく肉声で笑った。 

(な、なんて幼女だ……!?)

 幼女のすることなら、大抵は許せる。そんな光でさえ、

「ひひっ、あっはははは~!」

 高笑いするナーシャに、肝が冷えるのを感じる。  

「何だ、妙な顔をして。よく分からなかったのか? 次はわかりやすいのを見せてやろう。来い」

 ナーシャは、光の手を握った。

 年齢差からすれば、光がエスコートするのがとうぜんかもしれない。だが、こんな特殊な幼女相手に、光が出る幕はなかった。

 ある程度走ると、また隔壁がある。

 しかし……

「ふぁっ!」

 体を一回転させての回し蹴りで、ナーシャは隔壁に大穴を空けた。

 その穴に手を突っ込み、

「ふぎぎぎっ……!」

 残った隔壁を引きちぎっては、床に放り投げる。ついに、隔壁はなくなってしまった。

 小さな体躯のどこにそんな力があるのか、光には理解できない。

 何をしたのかと問おうとすると、

「やつらが来たぞ! さぁ、今度は良く見ておけっ!」

 ナーシャが叫ぶ。

 先ほどと同様、数名の兵士がやってくる。小銃を構え、発砲した。

 光は、目をそらしそうになってしまう。けれど、また怒られては困ると、必死に目を向ける。

 ナーシャの体に、真正面から、目にも留まらぬスピードで弾丸がぶつかっている。

「ナーシャ!」

 光は叫んだ。

 だが……、

「ふん、この程度の弾丸、私に効くものかぁっ」

 ナーシャは、不敵な声で言ってのけると、手首をサッと振った。

 すると、手の中から、銃弾がこぼれ出す。ばらばらと床に流れ落ち、小さな山を作っていた。

「なっ……?!」

 光は、何度も目をこすった。

 それでも、異様な景色は変わらない。

 小銃弾の雨を、未熟な肢体で受け止め、平気な顔をしている幼女・ナーシャの後姿が、そこにはあった。

「ふんっ!」

 ナーシャは、手の中に残った銃弾を、一息で投げつけた。

 幼女の腕力など、たかがしれている。 そのはずなのに。

 しかしナーシャは、どういうわけか普通の腕力ではないらしい。

 銃で射撃するよりも、はるかに速い速度、衝撃波を発生させながら弾丸が宙を突進する。

 それらは、正確に兵士の額を撃ち抜いた。

 鮮血が迸り、そして一瞬送れて、彼らは全員仰向けに倒れる。断末魔の叫びを上げる暇さえない、急速な最期だった。

「す、すごい……!」

 光は、そんな小学生の読書感想文のような、単純な感想しか出てこなかった。

「フッ、そうだろう。私にかかれば、この程度……ムっ」

 ナーシャは、頬を膨らませた。

 光の手を、もう一度握る。

 手指のぷにぷに感に、光は昇天しかける。

 が、すぐに、別の意味でも「昇天」しかけることになった。

「……ふぅむ。やつら、核爆弾を投下したようだな」

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