衝撃に目を開く感覚。

 思い切り手を引かれたせいで肩が痛い。

 そして痛みを感じる事に狼狽えて、しかし自分を見詰めるエンマの必死さに、女は思わず笑ってしまった。


「ふっ……

 なんだその情けなさ爆発の顔は」


 しょうがないといった表情で笑う女の腕を、横たわっていたところから更に無理矢理引き寄せてその存在を拘束する。


「なんだじゃないよこの情緒なし女。

 一人で勝手に満足して消えてんじゃないよ馬鹿……」


 スッと閉じられた瞼を見てぞっとした。

 もうその瞳に自分が映ることがないのだと、その事実を突きつけられたような気がした。

 最期のその瞬間まで執拗に見つめ続けた瞳が、まだほんの僅かの時間を残しているのに閉じられた時。


「もう、開かないかと思った……

 心臓に悪いよ。やめてよほんと」


 自分が首を絞めていたことを棚に上げて、エンマは女を抱きつぶす勢いで抱きすくめながら肩口に顔を埋める。


「心臓?そんなものあったか?」


 ずっと鼻をすする音。


「ものの例えだよこの脳みそ筋肉だるまっ」


 ズッ


 鼻をすする音に合わせて揺れる背中を、女は仕方なしに軽くたたいてやる。


 ポンポン


「俺子供じゃないんだげど……」


「鼻水たらしてなっさけない顔でよく言うなこのハナタレ迷惑ジジイ」


「ただのジジイじゃないよ、何せちゃんと神に昇格させたんだからねッ」


「ああはいはい」


 どんどん強くなる抱擁に、女はだんだんと苦しくなってきた。


 バシバシ


「……俺のルールがなきゃ消滅してたよ」


「ああ、そりゃよかった」


 バシッバシッ


「役割があるから何とか拾い上げられたんだ」


「まあ全部自分で蒔いた種だろちゃんと水やりくらいしろこの無責任ニートが」


「酷くない?!」


 バシバシバシッ


「勝手に人殺すわ、重労働させるわ、終いには神にまでしてくれてこのヘラヘラニート」


「いやニートじゃな、ってあのいた……」


「じゃあ耄碌勘違い老人か質の悪い。絞殺ならさっきしたでしょ糞ジジイ」


 バンバンバンバンッ


「ご飯食べたの忘れる老人みたいな気軽さでそれ言っちゃう!?

 っていうか背骨!背骨きてるからもうそれ!!折れちゃうからッッ!」


 どんどんと強くなっていく背中の掌に、エンマは顔色を変えてギブアップで床を必死に叩く。


「お前はとにかくこっちの意志を確認しろ。」


 げっそりとしたエンマを引っぺがして胸倉を掴んだ女は、チンピラのごとくガクガクとエンマを揺さぶりながらメンチを切る。


「生前の約束を、髪の毛一本の乱れも許さん七三君のような真面目さで貫いたブラック大王猊下を見習って、こちらも報告連絡相談ほう・れん・そうの鉄則を果たすとしよう」


 ガクガクと揺さぶっていた手を止めて、女は胸倉を引っ掴んだまましっかりとエンマと目を合わせる。


「今も昔も、願いは変わらん」




 ―――『「ずっと、一緒に居たい。」』


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偏執的執着 びたみん @vitamin_

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