実験2.煮込む
スープすらも上手に作れないままだというのに、何の因果か僕は恋を調理しなければならない状況に陥ってしまった。手元にある材料は、恋心とラブレター。どちらも人からいただいてしまったもので、僕が持ち合わせているものといえば、一体どんな味に変化するのか判らない未知のスパイスしかない。
ラブレターというのは、どういった特性なのだろうか。先日、恋は砂糖とよく似ていることが解ったが、果たしてラブレターと甘い汁の相性や如何にというのもまた、未知である。
またしても試作したぱっとしない恋のスープを前に、僕はラブレターを手にして途方に暮れる。そもそもがこのラブレターというもの、大きすぎて丸煮では食べられそうにない。小間切れにしてみる。包丁をひとさし入れたそばからドロリと赤黒いものが流れ出して僕は正直ぞっとしたけれど、なにしろ初めての食材であるからそんなものかと思いながら続けた。まな板の上はまるで猟奇殺人現場である。
さながら臓物のように散らかってしまったラブレターを、僕は少しずつスープへ投入していった。何にも融和し得ないのではとさえ思えたどろどろの欠片は、沈んだ瞬間跡形もなく溶け去った。体液にも似た赤黒いものは一体どこへ行ってしまったのだろう。混ぜども覗けども、見た目には美味そうな澄み切ったスープが湯気を立てるばかりである。僕はますますよく分からなくなって、しかし短絡的なところがあるものだから、小皿に少量を掬いとった。曲がりなりにも料理である以上、口にしてみないことには手の施しようがない。恐る恐る、飲んだ。結果として、吐いた。味として不味かったかどうかはともかく、むしろ僕には無味に感じられたのだが、腐りかけの米を食べたときのように、そもそも口が受け付けなかったのである。弱火にかけたままであるから、ついにグツグツと煮立ってきた飲みきれないラブレターのスープを前に、僕はやはり途方に暮れるしかない。
フィロソフィ・イン・ザ・キッチン 言端 @koppamyginco
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