X-SIDE99「終着点」

    **** SIDE 俺とナナ ****


「でっかいどー!」


 ナナが叫ぶ。ぴょんと跳ねる。

 どこでもナナはこれをやる。

 たしかに北海道は……。デカかった。

 どこもかしこも、スケールが違った。


 畑もやたらと広くって……。

 俺たち二人が食ってゆくには、隅っこのほうが、すこしあれば、充分なんじゃないだろうか。


「うん? 二人じゃないよ? もうすぐ三人だよ?」


 ナナはおなかを押さえると、俺に笑った。

 俺はそうだな、と笑い返した。



    **** SIDE 僕とミツキちゃん ****


「じゃ。ミツキちゃん。……元気でね」


 ミツキちゃんのお婆さんの家の前で、僕はミツキちゃんにそう言った。

 お婆さんは、こっちの世界にもやってきていて……。畑をやっていて……。

 そこにミツキちゃんを送り届けたので、僕の役割はおしまい。


 ミツキちゃんには、ここに残って、畑の手伝いをしてくれないかと言われたんだけど……。

 一週間も考え抜いて、僕は答えを出した。


 やっぱり、旅を続けたい。まだ九州に来ただけだ。

 テッシーたちが向かった北海道っていうのも、行ってみたいし……。

 だから僕は、ミツキちゃんと別れて、一人で旅を続けることを決めたのだ。


「カズキさん……、お達者で……」


 ミツキちゃんは疲れたみたいな悲しい顔。


 僕は、バイクにまたがった。


 青い空のもと。

 道はどこまでだって続いている。

 どこまでも。どこまでも。どこまでも。


 そして僕は、アクセルを開いた。



    **** SIDE わたし ****


 わたしは、カズキさんを見送った。

 カズキさんは、行っちゃった……。


 頼んだ。とめた。引きとめた。

 でもカズキさんは考えて考えて、よく考えて、違う答えを決めた。

 だからわたしには、なにも言えなかった。


 ついていっていいですか? ――ということは、一度も言い出さなかった。

 お婆ちゃんを残してついてゆくことはできなかったから。


「ミツキ」


 お婆ちゃんが声をかけてきた。

 わたしは、何秒か振り返らずにいた。


「なに? お婆ちゃん」


 目元を拭ってから、笑顔で振り返ると――。

 そこには――。


「ほれ! 行ってこんか! これで!」

「えっ?」


 そこにあったのは――。

 スーパーカブとかいう、お婆ちゃんのバイク。

 納屋にしまってあったけど。お婆ちゃんがボタンを押すと、きゅるるるる、と音がして、エンジンがかかった。


「これで追いかけて、とっとと捕まえにいきな!」


 お婆ちゃんは、言う。


「えっ? でも……、お婆ちゃんが……」

「心配せんでも! まだ十年、二十年、生きとるわい! そのあいだに、いっぺん戻って顔を見せてくれればいいわさ! ――ひ孫を連れてな!」


 お婆ちゃん……。もうっ。

 あうううう。


「ほれ!」

「うん!」


 我が家の家訓は、即断即決。

 やるのはいつ? いまでしょ! ――ってカンジです。


 なんにも、準備なんていらない。

 ワンピースと麦わら帽子で、わたしはバイクにまたがった。


 青い空のもと。道はどこまでも続いている。

 どこまでも。どこまでも。どこまでも。

 あの人のところまでも。


 わたしは、バイクを走らせた。

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文明崩壊後の世界を女の子をバイクの後ろに乗せて旅している 新木伸 @araki_shin

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