〈EX〉この女神と

 −−とある日。


「なあ、アクア。俺よく考えたら誰かと付き合ったことないんだよな、お前ってそういう経験ってあるのか?」

 特に何かを思ったわけでは無いが、ひょんなことからふとそんなことを口走ってしまったのがきっかけだ。


「やーね、カズマさんたら。どうしちゃったのよ?恋愛マスターと呼ばれるこの私にそんなこと聞くなんて愚問よ」

 当然のことながら初耳である。


「自称なんたら様に聞きたいんだが、この世界ってどういうとこで出会うもんなんだ?」


 ダンジョンなんかで困ってる人を助けて、俺つえーをやろうにも冒険者の俺には無理な話だ。

 むしろ助けてもらう立場かもしれない。


「…やけに真剣な顔してるわね。と思ったのに、そんなこと考えてたの? この世界ならいくらでもあると思うんですけど?」

「まあ、そうなんだけどさ・・・ 実はな恋人繋ぎとかやってみたいんだよなあ」


おれが悩んでいた事を告げると。


「……何だかロマンチストで気持ち悪いわね。カズマさんの口からあまり聞きたくない言葉だわ。寒気がするわよ」

「おい!俺も一応は普通の男だ!考えるのは当然だろうが」

アクアが俺から自分の体を抱きしめるように引きつった顔で後ずさってしまった。

軽く咳払いをした後に。


「ふーん。それなら、手を繋ぎたいって誰かにお願いすればいいんじゃないかしら」

「それが言えたら苦労しないんだけどなあ」

「私にはよくわからないんだけど手を繋げれば誰でもいいの?」

「ああ、そうだな」


 そう言うとアクアは、わかったわ!待っててちょうだい!と自信満々に言うと二階へと上がっていった。

しばらくすると二階から声が聞こえてくる。


「ちょっと何ですか、行きます!行きますので押さないでください! –-もうっ呼んでくれればちゃんと来ますのに」

「はい、連れてきたわよ!」

「おい。なにが、『はい、連れてきたわよ!」 だ。何してくれちゃってんのお前は」


 あろうことか、見るとこの女神はエリスを部屋から引っ張り出してきたのだ。手には本とブランケットを持っており、何も言わずに無理やり連れてきた感じが見てとれる。


「カズマさん今日はどうされたんですか。また先輩に何かしたんですか? ほどほどにしてあげてくださいね」

「いや、今回は全く関係ないんだ」

「そうよ、エリス! カズマさんったら悩んでることがあるのよ。聞いて挙げてちょうだい」

「悩み事ですか? 解決できるかは別としてお聞きするだけなら構いませんよ? 何かをしていたというわけでもないので」


事情を知らないからだろう、既にソファーへと腰をかけ、持っていた本の読みかけのところに栞を挟みブランケットと一緒に膝の上へと置き、話を聞くスタイルへと切り替わっている。


その隣には、紅茶を淹れてきたのか、3人分のカップを器用に運んできたアクアがやってきた。

はたから見れば、これ以上ないぐらいの贅沢な組み合わせだ。日本と異世界の女神である。

響きはいいんだけどなぁ〜

俺も向かい合うような形で腰を下ろし、テーブルを挟み対面するような形へとなる。

「出来れば怒ったり、ドン引きしないでいただきたいのですが、、、おい、アクア、お湯だぞ」

「はい、大丈夫ですよ? あ、ホントだお湯ですね・・・」


アクアが細かいこと気にしてたら禿げるわよ!とか言ってきているが、紅茶と言ってお湯持ってこられたら誰でもこうなる気がするが。

まぁ、いい。エリス様は。と言うと、俺が、しどろもどろしながら言い放った言葉にも笑顔で応えてくれる。

隣ではアクアが、来るわ、来るわよ、カズマさんの口撃が。とか言いながらワクワクしてる。

攻撃じゃなくて口撃ってか。

まぁたしかに、受け取り方によってはそうなるかもな。

俺は意を決して言う。

「実はですね、女の人と手を繋いでみたいんです」

「まぁ! もしかして、好きな人が出来たのですか!? どなたですか!? カズマさんを射止めたのは私も知ってる人ですか!? 私、実は、こういうお話好きなんですよ!」

「ちょ、エリス様、近い!近いです!!」


テーブルから身を投げ出さんばかりに、身を乗り出しこちらにずいっと近づいてきた。

なにこれ、すごく良い匂いがした。


「いや、その相手といいますか、願望というか、なんて言えばいいんですかね、うふふキャハハな展開じゃなくていいんですがそれに近い体験をしてみたいんですよ」

「そうなんですか、ちなみに願望というのはそれだけですか?」

「・・・したい」

「はい?」

「・・・繋いだり・・たい」

「ごめんなさい、もう一度お願いします」

「もうっ、カズマさんったら焦れったいわね。声が小さくて聞こえやしないわ! エリス!要はねカズマさん手を繋ぎたいらしいのよ。 なんかリアルで気持ち悪いわよね」

「っぐ・・・」

悔しいが事実だ。

だが夢を抱いてなにが悪い。


「聞いてれば好き放題言いやがって!おらっ! アクア覚悟しろ」


そういうと無理やり手を掴み恋人繋ぎをしてみせた。時間にしてほんの一瞬だ。

一瞬で振り払われたのである。

「わぁぁぁぁ!! ばっちぃ手で触らないでちょうだいよ!! 私の清く見目麗しい手がカズマさんに汚されたじゃない! 高くつくわよ! えぇ、そうね今なら一週間シュワシュワで勘弁してあげるわ」


安いじゃねぇかよ。

思わず言ってしまいそうになってしまった。

そんなんでお前はいいのかよ・・・


「ま、まぁアクア先輩は、こうは言いますがきっとカズマさんの事を好意的に思ってくださる方もいますよ。しかも案外近くにあるかもしれませんよ?」


「そうですかねぇ・・・」


俺はそう言いながら、手をそっとエリスの方へと伸ばしていく。あと一息で触れると言うことで、俺の手に気づいたのか、ビクッと体を震わせるとさっと手を引いてしまったのだ。

これには思わず俺も困惑した。

まさかここまでの拒絶とは・・・


「あの、エリス様・・・?」

「すみません、その・・・しいです」

「はい?」

「恥ずかしいですっ!!何言わせるんですがホントにもうっ」


予想外な嬉しい反応が返ってきてしまい。

気恥ずかしくなってしまった。

エリスもそうなのだろう。

身の回りにあった物を抱え始め早々にこの場を去ろうとしている。


このイベントを続けるべく俺はあることをボソッと呟いた。

「神器探しとか頑張って手伝ったのになぁ・・・」


すると、立ち去ろうとしてこちらに背を向けてたエリス様がピクッとなる。

これは、効果覿面こうかてきめんか。


「あーあ、俺って運だけは良いと思ってたのに、いつもダメなんだよなぁ〜 助けてあげたと思ったら借金。幹部を倒したのに借金。 またまた助けてあげたら今度はお預け。そひてついには賞金首ですわ。 もう一度いいますが、高額つけられた賞金首ですわ。 被害の原因が主に誰かさんのせいだけど、1つぐらい見返り欲しいな〜」


好機とみるや否や、すかさずエリス様に向けてジャブを放ち続ける。


「その・・・そこまで卑下なさらないでください。 皆さん感謝はしてますよ? してるのですが、風評被害と言いますか、カズマさんの悪評が好評を上回ってしまっていまして・・・パンツ泥棒とかロリニートですとが強すぎて・・・」


「その人の名前を教えてくれませんか? 悪いことはしません。 ちょっと注意しにいくだけですので」

「ダメです! 絶対に何かしますよね!? これ以上悪い噂が広がったら益々女性に邪険にされてしまいますよ!」

「なら、どうすれば・・・」

「手を繋ぐとかは流石にできませんが、その・・・カズマさんの隣に座ってお話しする。とかなら出来ますが・・・」

「お願いします。むしろそれをお願いします! 他は何も望みません。毎日それをお願いします!」

「え・・・あの。えーと、は、はい。 その程度でよろしければ毎日はさすがに難しいですが、構いませんよ。 お話を聞くことも立派な女神としてのお仕事の1つですから」


これはダメかと思いきや。まさかのデイリーイベントをゲット。これは大きい。

つまり、毎日、確定の好感度アップするかもイベントが催されるのだ。

しかも、メインヒロインとのイベントときた。これは興奮せずにいられない。


「では、さっそくなのですが・・・」

俺が話を進めようとしたところ、バンっと扉が開けられる音がした。

そちらを見てみると紅い瞳をした少女が2人。

なにやら興奮しきった様子でこちらを見ている。


「ただいま、戻りました!」

「お、お邪魔しま・・・す。 ね、ねぇめぐみんインターホン押したらダメかな? 少しだけ、少しだけだから。 じゃないと、今日はお土産持ってきてないし、こうやって入ることに違和感があるのだけれど・・・ 」

「少しもなにもあったもんじゃないですよ!? 押すことに変わりはないのでやめてください! あー!なんで押すんですか! 馬鹿なんですか!? やっぱ馬鹿なんですよね!?」


くそ。邪魔がきやがった。

インターホンが鳴ると同時に、帰ってきたであろう、魔法使いの声が響き渡る。


「我が名はゆんゆん!紅魔族随一の……痛いっ叩かないでよ! まだ途中なんだから!」

「玄関で何を名乗ってるんですか! 私が恥ずかしくなるのでやめて下さい! 今更あなたの自己紹介するような相手はこの家にはいませんから!!」


俺の心が休まる場所、安息の地は無いのか....


「騒がしくなってきちゃいましたね」

「…そうですね」


どこか楽しそうに、声がする方を見るエリス様がそこにはいた。


「俺の悩み相談もここまでですかね」


そう言うと聞こえてくるのはいつもの日課の声だ。


「カズマー! カズマはどこですかー?」


「エリス様、とりあえず俺は潜伏を使ってやり過ごすのであとは任せましたよ」


そう言い、潜伏を発動する。


「あ、クリスじゃなくて今は、エリスでしたね! すみません、カズマを見ませんでしたか?」


あとは手筈通り、エリスが知らない顔をすれば俺の平穏が守られるはずだ。


すると、

「私も知りませんが、ヒントはあげてもいいですよね? とだけなら言えますよ?」


などと、意味深な事を言い出すが今はとにかくじっとしていなければ。


「ふむ、そうですか。 それがわかれば十分です。 つまりは、この声が聞こえる範囲にはいるということですね。 ありがとうございます! 感謝します! ほら、ゆんゆんいきますよ! 私の親友、あなたの出番です!」


「任せてめぐみん! 親友の頼みなら本気を出すわ!」


ちょろいんことゆんゆんが全力を出すのは非常にまずい。


「(エリス様・・・! 話と違うじゃないですか!)」


「すみません、ちょっと楽しくなってしまって」

俺がこっそりと言うと、すぐそこから声が聞こえてくる。


「めぐみん! 見つけたわ! どう!? 今回は私のおかげよ!」

ゆんゆんがここぞとばかりに、めぐみんに宣言をするが。


「えぇ、感謝します! 今度戦いに付き合ってあげます! なので、ここで今日はお留守番しててください! ちょうどそこに話し相手がいますでしょ!」


隣を見たら空間からゆんゆんが現れた。

紅魔族が嫌いになりそうだ。

なんなんだこいつらは。さっきまで玄関にいたのにいつここに透明なまま来たんだ。


「ほら、カズマ行きますよ! 今日はカズマが私の爆裂散歩の当番なのですから!」

「だぁぁぁぁー! 誰がそんな当番組んだんだ! 」


初耳である。

しかも、そんな罰ゲームみたいな当番を。

「アクアですね。 ちなみに明日も明後日もカズマの予定です。」

「ふっざけんじゃねぇよ!! 当番とか聞こえはいいが大半は俺じゃねえか! 何でおんぶ担当になってんだ!」


「いいじゃないですか! 私のような美少女をタダでおんぶできるんですよ? 場合によってはお金を払ってまでお願いする人がいるかもしれませんよ?」

「誰が金払うか! ロリッ子に払う金はねぇからな!」

「なにおぅっ! まだそれを言いますか!? いいから行きますよ嫌だと言っても無理やり連れて行きますからね!」


くそっ。なんでこんなにチカラつえぇんだよ。これがレベルの差なのか。 抵抗しようにも引きずられる形になってしまう。


「アクアーッ! アクアーッ! 助けてくれー!ロリっ子に連れてかれるぅぅぅ!!」


それを、聞いたアクアが何を思ったのか、親指を立てて、グッとやってくる!


「カズマさんやるわね! 願いを早くも叶えるとはさすがだわ! というわけで後は頼んだわよ! 留守番は任せてちょうだい!」

「カズマさん良かったですね! では、私は部屋にまた戻りますね」


違う、俺が望んだ形はこんなんじゃない。


「帰ったら覚えてろよぉぉ!! あぁぁ痛い。めぐみん痛いって、腕が変な方向むき出してるから! わかった! もう抵抗はしない! 付いていくから!」


俺が根負けしたところで帰ってきたであろつダクネスがすれ違いざまに。


「あぁ、カズマか。 今日も頼んだぞ。 そうだ、すまない。めぐみんを背負いながらは大変だろうが、帰りに買い物を頼む。金は後で払う。」


「お前ら。お前ら覚えとけよな!! 絶対酷い目に合わせてやる! 泣いて謝っても許さないからな!」



めぐみんに手を引かれつつ、奇しくも望んでいたが望んでいない形で願いが叶うことに。


あぁ、俺にどなたか出会いを。

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