番外編
〈EX〉ぼっちの日常
「ふっ、今日も勝ちっっ!!!」
「酷いわめぐみん! 友達の数勝負なんて」
この自称ライバルに今日も勝ったことで、私は手に持っていた手帳に◯《まる》をつける。
これで10連勝、負けなしだ。
「というか、あなたの口から人外のものしか出て来ないのはどういうことですか!? あなたは普段何をしてるのですか、私以外に話す人はいるのですか!?」
友達勝負をしたと言うのに、このぼっちと来たらサボテンやら草花とかいうわけのわからないことを言い出した始末だ。
普段何をどう過ごしてるのやら。
「他の人と変わらないと思うんだけど、ギルドに行って座って待ってるよ? 誰かが来ても会話に困らないように、トランプとオセロをいつも持って行ってるの」
「まさか1人で遊んでたりしませんよね?」
「・・・最近は1人オセロ覚えたわ、トランプタワーも作れるようになってきたの!」
あんな皆んながワイワイとしているギルドの中で、隅っこで1人オセロや、トランプタワーをやっていたのだ。
ぼっち過ぎたせいか、色々と
「それが原因ですよ! 何を考えてるのですか本当に! 頭のおかしい子だとか、可哀想な子だとかで誰も近寄ってきませんよ」
「そんなことないわよ! この前なんか鎧着たおじさんがお金あげるからおじさんとクエストにどう?って誘われたんだから!!」
「・・・それは断ったのでしょうね? 」
「その、、お金は受け取れません。って言ったら帰ってしまったの。私気に触るようなこと言っちゃったのかな」
「なっ、本当にこの子は・・・。 間一髪じゃないですか、知らない人にほいほいと付いて行ってはいけないって教わりませんでしたか!?」
「ぷっちん先生からは、カッコいい口上しか・・・」
それもそうだった。
私達は同じ学校でした、確かにあの先生は常識よりもカッコ良さを追求する方でした。
「あぁ...そうでしたね。聞いたのが間違いでした。 とにかく!このままじゃ、マズイです!ちょっと私の家まで来てください!」
「え!いいの? その、事前にお約束してないのに迷惑じゃないかしら」
「バカですか!?バカなのですか!? そんなんで自称ライバルを名乗られると、私が悲しくなるのですが! いいから来てください!」
「だって・・・あのちょっと待ってて、すぐに戻るから」
本当にまともに遊んだことがないのか、この子は。
アクセルに来て随分と経つはずなのに、今まで本当に1人だったのか。
一言私に言うと、近くのテーブルへと座り何かを書き出した。何をしているのだろうか。
「お待たせめぐみん、はいこれ!」
そう言うと、今書いていた紙を渡して来た。
律儀に便箋のようなものに入っており、可愛らしいシールで封をしてある。
「なんですかこれは。 今読むってことでいいんですよね、封までしてくれてめんどくさいですね全く。
えーと、なんですか ––––」
『めぐみんへ
今日お家にお邪魔しに行こうと思います。
ゆんゆん』
私は無言で破って家へと向かった。
「わぁぁぁあああ!! せっかく書いたのに!初めて書いたのに! 酷いよめぐみん!」
手紙を破られたことがショックなのか、泣きながら掴みかかってくる。
「もう、なんなのですか!私の家なら、早朝だとか深夜でもない限り好きな時に来ていいですから!」
「え、ホントに!? 私そういうのに憧れてたの! 今の状況もなんだか放課後に友達の家にそのまま行く感覚で、すごく楽しみなの!」
今日一番の笑顔を見せ、声高らかに、大きい声で言うものだから、自然と注目を集めてしまう。
「外なんですからそんなこと大きな声で言わないでください! あぁ・・・わかりました、謝りますから落ち込まないでください! 周りの方からの視線が痛いです!」
やたらとテンションが高いゆんゆんを連れ私は自宅へと向かう。
◆
「帰りましたよー! カズマー? アクアー? ダクネスー? いますかー?
何してるのですか早く入って––––ちょっと何してるのですか! 何インターホンを押してるのですか! 私がいるのですから入ればいいじゃないです!」
玄関から動かないと思ったら、当たり前かのようにインターホンを押した。当たり前だ、確かに当たり前のことなのだが。
今は私が一緒にいる。
本当にどうすればいいのだろうか。
「え、だって・・・着いたらピンポン押しなさいって。」
「そうですが!そうなんですがっ! 時と場合により使い分けるべきですよ!」
「はいはーい、どちら様ですかー。 あら、えーと、めぐみんの友達じゃない」
インターホンを押したせいか、来客と勘違いをしたアクアが階段から、トトトっと小走り気味にやってきてしまった。
「アクア。今帰りました。」
「インターホンなんか押してどうしたのよ。鍵をなくしたというわけでもなさそうね。」
「すみません。ゆんゆんが押してしまいまして。」
私が謝ると、
アクアが、そうだっ!と、ポンっと叩いて笑顔になる。
「そう!そうよ! ゆんゆんよ!!」
どうやら名前を忘れてしまっていたらしい。
すると、ソファに転がっていたのか、カズマが体を起こしてこちらに目を向ける。
「久しぶりだなゆんゆん、と言うかゆんゆん連れて、めぐみんどうしたんだ? ちなみにダクネスなら買い物に出てるぞ。」
俺が挨拶をすると、ゆんゆんがこちらに向かって、ペコっと頭を下げて挨拶をしてくる。
「いえ、ちょっと事情がありましてアクアにお願い事が。」
「・・・ん?私に?なにかしら。」
台所にお菓子を取りに行ってたのか、アクアが顔だけ出して言ってくる。
「おい、アクア。 お前ポテチ食うつもりか? それは俺のだぞ。欲しかったら作れよ。」
「ケチケチしないでいいじゃないよ! これからお願い事聞かなくちゃいけないから、おつまみが欲しいの」
まあいいか。
今回は面倒ごとに巻き込まれそうにないし寝るか。
「めぐみんと、ゆんゆんも食べてちょうだい。 それでどうしたのよ?」
「実はですね。アクアにゆんゆんと友達になって欲しいのですが。」
「ええええええええ!!」
「うるさいですよゆんゆん! アクアじゃ不満なのですか!?」
「そんな、私なんかがアクアさんとお友達なんで、そんな・・・」
この子は、友達が欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ。隣でアクアが不思議そうな顔してるじゃないですか。
「よくわからないけど、ゆんゆんとお話をすればいいのかしら?」
「まあそんな感じですね。お願いできますか?」
「いいわよ別に、今日はもうやることも無いし暇だったのよ」
「ありがとうございます。と言うわけでゆんゆん、きょはアクアと一緒にいるといいですよ。私はカズマと爆裂散歩に行きますので」
「え、やだよ、今日は家から出ない日って決めたんだから、散歩なら買い物してるダクネスでも捕まえてこいよ」
「・・・ホントにこの男は。放っておけば放っておくほどダメになっていますね。 じゃあ、私はダクネス探して来ますので、あとはよろしくお願いします。」
そう言い残し、めぐみんは出て行った。
俺はというと、アクアとゆんゆんが無言で向き合ってる様子が気まずく思えたので自室へと戻るところだ。
違和感しか残らない組み合わせだ。
「ねぇ、ゆんゆん。って言ったかしら、私あなたのことめぐみんの友達の強い子ってぐらいの認識しかないから、まずは自己紹介してほしいんですけど」
「え、自己紹介ですか・・・わ、わかりました。では」
そう言うと、コホンと咳払いをしたのちソファーからずっと立ちマントをバサっと翻す。
「我が名はゆんゆん。アークウィザードにして上級魔法を操る者。やがて紅魔族の長となる者……!」
自己紹介を終えると恥ずかしかったのか、体を縮こませそっとソファーに座る。
それを見たアクアがすっと立ち上がる。
「我が名はアクア。アークプリーストを仮の姿とした水の女神。やがてはこの国の国教となる者……! こんな感じでいいのかしら。」
アクアが見よう見真似でゆんゆんと同じ名乗りをすると、嬉しかったのか拍手をするゆんゆん。
そして、拍手をされ満更でもないアクア。
「私の自己紹介を聞いても平気なんですね。」
「うちのめぐみんも同じことを言うから平気よ。それより私は何をすればいいのかしら」
「えーと、あ!トランプしましょ!ババ抜きやって見たかったんです!」
「2人だとつまんないわよ?」
「あ、そうなんですか、いつも1人なのでよくわからないんですが」
「ちょっと待っててくれるかしら、カズマさん呼んでくるわ
そう言うとゆんゆんをその場に残し、階段を登っていくアクア。
「カズマさーん、入るわよー」
「なんだよ、ゆんゆんはどうした」
「カズマさんと遊びたいって言ってるわよ」
「今日はベッドから動かない日だからごめんって伝えといてくれ」
「えー、2人じゃつまんないんですけど。」
「お前の信者でも呼べばいいだろ、とにかく俺は寝る」
「あ、なるほど、それは名案ね! じゃあそうするわね! ここに呼んでもいいかしら?」
「あぁ、好きにしてくれ」
そう言うと、アクアは扉も閉めずにゆんゆんの元へと帰って行った。
あいつ・・・閉めろよ。
アクアの信者と言うと、嫌な気しかしないがゆんゆんが居るなら平気だろう。
常識人であるゆんゆんなら止めれるはずだきっと。
俺は扉を閉め、再び眠りに入る。
◆
「アクア様!来ましたよ!」
「突然悪いわね」
「アクア様のお願いとあればどんな時でも来ますよ! あら、そちらの可愛い子は誰かしら」
「この子はゆんゆんって子よ、見てわかる通り紅魔の出身よ」
「ねぇ、私セシリーって言うの、よろしくね」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
「今日はね、この子と仲良くなろうって日なのよ。協力してちょうだい」
「そうなんですか、わかりましたわ。 ゆんゆんちゃんって呼べばいいかしら?」
「はい!何でも大丈夫です! 呼び捨てにしていただいても構いません!」
「ねぇ、アクア様、この子はひょっとしてエリス教徒かしら」
「ん? そういえば知らないわ」
「あ、私は何にも属してません。たぶんですが、紅魔の人間は、自身で道を切り開く種族ですので大半はそうかと思います」
「ねぇ、セシリー!いいこと聞いたわね!」
「はい、アクア様!
ゆんゆんちゃんお近づきの印にこれどうぞっ」
「あ、ありがとうございます。 えと、セシリーさん」
「セシリーお姉ちゃんって呼んでもいいのよ?」
「いいんですか? 私一人っ子なのでお姉ちゃんとか欲しかったんです!」
「アクア様、アクア様!! アクシズ教に入信しなかったらこの子もらって行っていいかしら」
「いいんじゃないかしら? 判断に困ったらアクシズ教の教えを思い出しなさい」
「・・・っ!?
アクシズ教の第7項ですね! 汝、我慢する事なかれ。飲みたい気分の時に飲み、食べたい気分の時に食べるがよい。明日もそれが食べられるとは限らないのだから……」
「それもそうだけど、違うわ! ゆんゆんは食べ物じゃないわ」
「そうですか、美味しそうなのですが・・・
では、『犯罪でなければ何をやったって良い』でしょうか?」
「その通りよ! 貴方が望むのなら・・・そこに愛さえあれば例え大きい壁があろうと越えられるわ!」
「ア、アクア様・・・!!」
すっかりと置いてけぼりにされたゆんゆんが困り顔でおろおろし始めてしまった。
「あ、あの私はどうすれば・・・?」
「ごめんなさいね、とりあえずここに名前を書いて欲しいのだけれど、書くものは持ってるかしら?」
「ごめんなさい。今は持ち合わせてなくて」
「これは困ったわね、私もないのよ、アクア様持ってたりしますか?」
「ちょっと待っててちょうだい、取ってくるわ。
–––– カズマさん入るわよー!」
「おい、またか! と言うかノックぐらいしろよ! 見られない姿してたらどうするんだよ!」
「知らないわよそんなの! ねぇ、そんなことよりペン持ってないかしら」
「あ?ペンならそこだ、ほらやるから。次からはノックしろよな」
「くれるの? 別にいらないんだけど、まあいいわ、ありがとね」
––––あの野郎、次来たら痛い目に合わせてやる。
俺だって伊達に自宅警備をしてたわけじゃない。
侵入を阻む罠ぐらい作れる。
よし、これとこれとこれをセットして・・・。
そう言うと、
扉の上に定番の黒板消し、
そしてこんにゃく、
トドメにとりもちだ。
完璧だ。ピタゴラス並みに完璧だ。
むしろ早く来て欲しい。
「セシリー!持って来たわよー!」
「ありがとうございます! それじゃあ、ゆんゆんちゃんここに名前と住所とか書けるかしら。 わからなかったら書かなくてもいいからね」
「はい、書けました!」
「アクア様・・・ 私初めてです。」
「私も久しぶりに見たわ」
「アクア様今日はお祝いです! 私今から教団に周知して来ますわ!!」
「ええ、そうね! 今日はパーティよ! ねぇ、ゆんゆん悪いけどこれカズマさんに返して来てくれるかしら! ついでに今日はゆんゆんのパーティするからって伝えてちょうだい」
「え、そのどういうことですか? 私お祝いされるようなことは」
「さっきのは入信書よ!」
「え、そんなはずは・・・」
「無理もないわ! あれはカズマさんが作ったカーボン紙とかいう優れものよ! どういう原理か知らないけど下の紙にも文字が映るのよ!」
「え、嫌です! 入りたくありません!」
「ええ、無理よ!もう無理ね! もう、セシリーが手続き済ませに行ってしまったもの!」
「そ、そんな・・・」
「とにかく、今日はパーティね! また、後で連絡するわ!」
「え、あの・・・。はぁ、ペン返しに行こう。
––––あのカズマさん?入りますよ?」
「え、ゆんゆん!? ちょ、待っ・・・」
予想外なことにやってきたのは、ゆんゆんだ。
慌てて制止を呼びかけるが遅い。
扉が開いてしまった。
「きゃあっ!
ゲホッ、煙が・・・ やだ、何かぶつかって来た、冷たっ・・・え、動かけない、何ですかこれ、きゃあーっ」
ゆんゆんゲットだぜ.....
見事なトラップだ。
倒れた拍子にとりもちに行くまで完璧だとは。
「その、ゆんゆん、ごめん。 アクアが来るとばかり思ってて・・・」
「わあああああああぁぁん!!」
「ちょっとゆんゆんどうしたのよ! うわっカズマさん何してるのよ! ベタベタするじゃない!」
「おい、アクア手伝ってくれ! ゆんゆんがやられた!!」
「なによやられたって、カズマさんがやったんでしょうが! 粘っこくてすごく嫌だわ、どうやったらこれ取れるのよ」
「わからん。そこまで考えてなかった」
アクアと俺が試行錯誤するも、とりもちが取れない、強力すぎる。
「アクア様ーっ!! 帰りましたよ!! 呼びかけをしたら皆さん飛んで来ましたよ! ほら見てください!」
「おい、なんか嫌な事が聞こえたんだが気のせいか?」
「たぶんうちの子達がたくさん来たのね」
「待て、うちの子って言ったか? あの頭のおかしい連中がここに来たってのか!? おま、やっていいことと悪いことがあるだろうが!」
「カズマさんが言いって言ったんじゃない! そもそもね!うちの子達は良い子ばかりなのよ! ねぇ知ってる?あの子達が上手くいかないのは世間のせいなの。それをわかってちょうだい」
「事の発端は、いつもあいつらの気がするんだが気のせいか?」
「えぇ気のせいよ!
「やっぱりお前の目は節穴だな」
「なっ・・・!」
「アクア様ー、来ましたよー! 連れて来ましたよー!」
「あー!!!もうダメだ! この家は終わりだ!潰される!早くあいつはを追い出さないと」
「ちょっと、私の前でそれは許されない行為よ!」
「私帰りたい・・・」
◆◆◆
「カズマー?帰りましたよー! そこでダクネスに会ったのでダクネスも一緒ですよー、ゆんゆんはどうなりましたか? ってこのプリースト達はなんですか。」
「あ!エリス教徒だ!!」
「「「え、セシリーエリス教徒どれよ! 倒さないと」」」
「おい、なんだ、よせ、やめろ!痛いっ、 物をぶつけるな! それはわたしの好みじゃ・・・いや、いいかもしれないが、ちょ、投げるな、今日の晩御飯に買って来たものがダメになるだろうが、あ、あぁ・・・!!!」
◆◆◆
「おい、言いたいことはあるか」
「私はごめんなさいしたわ。もう言うことがないわ。それにちゃんと帰ってもらったじゃない」
「じゃあ、その横でだんまりしてるゆんゆんにはなんて言う。ゆんゆんに残ったのはアクシズ教徒になったという不名誉な称号だけだぞ、それに今日の夜ご飯はどうする気だ! これもう食えないぞ!! 」
「それについては、感謝してほしいところだけど、全面的に謝るわ。最上級のごめんなさいをするわ。
ええ、見ててちょうだい。
・・・『ごめんなさい!!』
どうかしら。誠意が伝わったかしら」
「どう?じゃねぇよ! 普段と変わらねぇじゃねぇか。このポンコツが」
「それよりも今日のご飯どうするか決めないとまずいですよ。ふりかけだけは餓死します」
「使えそうなものはないな。私が買ってきたこれもあいにくのセール中だったもので、おそらく今から行ってもない気がする」
「だよなー、あぁ、どうすっかなー」
「あ、あの・・・ 私ので良ければお持ちします。 お食事に招いていただくのですから、よければお持ちしますよ?」
「ゆんゆん、毎日遊びに来てもいいんだぞ? 」
「いえ、それはご迷惑になります! なによりライバルとそんなに一緒にいるわけに・・は・・・? ねぇ、めぐみん、ライバルって普段どうしたらいいの?」
「そんなもの、私に聞かれても困りますよ!と言うか、私はライバル扱いしてないので好きにしたらいいじゃないですか」
「というわけだゆんゆん」
「すごく嬉しいですし、私の念願の夢、お泊まりが叶いそうなのですが、ごめんなさい。 あの怖い人たちがまたくるのかと思うと」
「おい、アクア! トラウマ植えつけてどうすんだ! 信者どころか恐怖を抱いてるぞ!」
「あの子たちは悪くないわ! あの子たちが上手くいかないのは世間が悪いのよ! いつも一生懸命なのにどうしてみんな責めるのよ!」
「その一生懸命に向かう方向が間違ってんだよ! お前一応あいつらの元締めなんだろ! ならしっかり教育しとけよ。むしろ教えの中に、教会には石を投げません。とか付け足したらどうだ!」
「言ってくれるじゃない! あの子たちはやればできる子なのよ、目に物を見せてあげるわ。」
そういうとアクアは目を瞑り、手を合わせ始める。
すると、アクアの周りに魔法陣が出来上がる。
見たことがない魔法陣だ、形式はテレポートの型に似ているが、決定的に違うのが魔力量だ。
あたりの磁場が歪むくらいの魔力がアクアから出始めている。爆裂魔法を彷彿として、ちょっと怖いくらいだ。
「水の女神アクアが命ず。 集いなさい信者たち!!」
アクアがそう言うと、呼び出される側には周知されないのか、みんなそれぞれ何かしてる最中に呼び出されたらしく、セシリーはところてんスライムを食べている。
「!?!?え、アクア様!?何です?何が起きたんですか!?何故またここに」
「おい、こいつら勝手に呼び出したろ。集えとか聞こえはいいが強制召喚じゃねえか!」
「初めてやったんだから仕方がないじゃない! でも私は学習したわ。次やるときは気をつけるわ。皆んなもいつ呼ばれてもいいよう準備を怠らないでね」
「「「はい、アクア様!」」」
なんなのこいつら、誰も怒らないの?
軍隊みたいで怖いんだけど。
「わぁぁぁぁぁぁぁ、めぐみーん!!また来たー!!!」
「ゆんゆん、情けないですよ! 少しは立ち向かってください!確かに魔王軍より強敵ですが勝てない相手ではないですよ!」
「そ、そうね! それもそうだわ! いくわよ『ライトオブセイバー』」
「ゆんゆんちゃん甘いわよ、『リフレクト』 」
腐っても実力は折り紙つきだ。
いとも簡単に魔法を跳ね返した。
そこまでは良かった、ただ使った魔法が魔法だ。
当然ながら跳ね返る。
ところがどうしたことか、
「詰めが甘いわセシリー! 『マジックキャンセラー』弾いた後のことを考えないと駄目よ!」
誰だこいつは。
こんな優秀なプリーストがいたとは。
自称女神なだけあって、信者たちの前では力を発揮するのだろうか。
「さすがですなアクア様、その様な高等魔法まで使えるとは、この私ゼスタが出る暇すら与えないとは。ともあれこれでそこのロリっ子は魔法が使えなくなりましたな」
貫禄があるようなないような。
佇まいは風格がある老人が前へと歩みを進めて来た。
それに続いてアクシズ教が続いてくる。
何これ怖い。
「え、そんな・・・出ない。ほんとに出ない。めぐみんどうしよう」
「はっきり言いましょう。無理です。魔王軍より絶対に強いです。格が違います。 マジックキャンセラーなんて普通は取得できません」
「さあ、皆ゆんゆんの力は封じたから、たくさんごめんなさいできるわ、さっきはごめんなさいって謝るのよ」
「では、最高責任者を務めるこの私から。 ゆんゆんさんとやら、先ほどはすまなかった。許してはくれないだろうか」
「え、あ、はい。そんな怒ってませんので大丈夫です。なので頭あげてください」
「どんなことでも受けますので、踏んでくれても構いません。あなたの脚で、お願いします。」
「いや、あの、気持ち悪いのでお断りします」
「おぉ、なんと。・・・これはアクア様に感謝を。ロリから拒絶される体験はなかなか出来ないことだ・・・」
「・・・‼︎‼︎
わぁぁぁぁぁ、めぐみん助けてぇぇ!!
わたし友達なんていらない!
めぐみんだけでいいよぉぉぉぉ」
「ほほぉ、叫び声もまた格別ですな。今日はアクア様に向けて感謝のお祝いをしなければなりませんな」
「ちょっと!ゼスタ様だけずるいわよ!私だってゆんゆんちゃんのこと好きなんだから」
それを受けてゆんゆんが後退りながらめぐみんの後ろへといつのまにか隠れている。
まあ無理もないな。
こんなのトラウマになる。
益々ぼっちになるだろうな、可哀想に。
「ちょっと、脱げます! 脱げますから離してください!」
「いやよ!めぐみんどうせ置いていくつもりでしょ!」
「わかりました、わかりましたから!助けますから離れてください!・・・ったく、本当にこの子ときたらほんとに世話がやけるんですから。というわけであなたたち、私の友達をあまりいじめないでください!
そう言うと、目を紅く光らせてあたりを威嚇する。
「あれは頭のおかしい紅魔族じゃないか・・・セシリーよ、悪いがアクア様へのお祈りの時間だ。私は帰るとしよう。後は頼んだぞ」
「え?ゼスタ様? 置いてかないでください! ・・・アクア様!すみません!今日はこれで失礼します!また遊びに来ますね!」
突然やって来たかと思ったら帰るのも突然だ。
ホントに嵐のようなやつらだ。
「えー、まだ私何も言ってないんですけど。。」
「おい、もう呼ぶなよ。 ダクネスなんか物ぶつけられすぎて気絶してるんだからな」
「えー、ダクネスのことだし大丈夫だと思うんだけどちょっくらヒールでもかけてくるわね」
そういうと、ダクネスの方までそそくさと向かいヒールをかけ始めた。後ろが落ち着いてはないが、俺的にはやっと落ち着いたところなのでソファーへと腰を下ろす。
「ふんっ、どうですかゆんゆん。これが私の実力ですよ・・・って何ですか抱きついて来ないでください、暑苦しいですよ」
「ねぇ、めぐみん? めぐみんは私のライバルにして親友だよね?」
「いえ、違いますね」
「え・・・でもさっきは」
「嘘も方便と言う言葉を知らないのですか?」
「そ、それじゃあ!親友じゃなくてライバルってことでいいのかしら?」
「自称ですね。私は認知してませんし」
「わぁぁぁぁぁぁ、めぐみんだけはめぐみんだと思ったのにー」
そう言い残し、泣きながら家を飛び出して行った。
見慣れたいつもの光景が目に入ってくる。
「・・・ふぅ、本当によくわからない子ですね」
「おい、良かったのか? 入信が取り消されたからといっても今回はさすがに可哀想じゃなかったか? 」
「これでいいのですよ。 あの子には私だけで十分です。私が見てないとあの子はすぐに道を外れてしまいます。 いずれは紅魔族の長となるものですよ?」
「お前も素直じゃないな。普通に接してやれよ」
笑いながらそう返すと、めぐみんは少し考えこちらを振りむき笑い返してくる。
「そんなのわかってます。言われなくてもあの子は私の友達ですよ。私の里で少し変わっていただけで、里の皆んなもゆんゆんの事を表面上はからかいつつも内心は凄く大事に思ってますので安心してください。」
「・・・めぐみん、そんな風に思っててくれたのね。」
「なっ!!?いつからそこにいたのですか!?」
「なんだ今頃気付いたのか? あれだろ?紅魔族が使う姿を消すやつ。扉を開ける瞬間に発動させてたぞ。もっとも感知スキル持ちの俺には通用しないがな。 上手いことやるなあって思いながら見てたぞ。」
「魔王軍の方でも気づかれないし、普通は見破れないものなのですが・・・。カズマさんは何者なのですか。ほんとに」
俺とゆんゆんが話をしてると、ぷるぷると震え出し瞳を輝かせてる子がいた。
「カズマは気づいてて私に話をさせたのですか!? 本当にこの男ときたら!!」
「ねぇ、そんなことよりめぐみん、さっきの言葉なんだけど。」
「そんなのはどうでもいいです!!ゆんゆんもゆんゆんですよ! 誰の入れ知恵ですか!盗み聞きなんてタチが悪いですよ!」
「なぁ、めぐみん」
「なんですか!?」
「今どんな気持ちだ? なあ教えてくれよ紅魔族のエリートさんよ、どんな気持ちなんだ?」
からかうのを楽しみながら、これは今日は外泊だなと考えてる最中、高みの見物と化しているアクアとダクネスが見ている。
「カズマさんたら相変わらずの鬼畜ね。ダクネスもそう思わない?」
「・・・羨ましぃ」
目覚めて早々の一言がこれである。
アクアが引いたような顔を浮かべる。
本当にぶれないやつだ。
「この男は・・・! あとで覚悟しておいてください! 今はこちらの方が大事です! ゆんゆん!表に出てください!叩きのめしてくれます!」
「え、勝負!? 勝負なのねめぐみん! めぐみんから挑んでくれるなんて嬉しいわ! いいわよ!勝負よ、めぐみん!」
確かにあの子の友達はめぐみんだけでいいかもな。
ゆんゆんもめぐみんのことだけは信頼してるし、これでいいのかもな。
「おい、アクア、ちょっくら出てくるわ。」
「どこ行くの? 出来たら晩御飯買って来て欲しいんですけど。」
「ああ、わかった。 ゆんゆんもこの調子じゃ持って来れそうにないしな、ゆんゆんの分も含めて適当に買って来るわ」
「ありがとね。夜道には気をつけるのよ。」
「おい、俺は子供か・・・いや、お前の年齢からしたらそうなのか。まあいいや、行ってくるわ」
「ねぇー!カズマさん、聞き捨てならないことが聞こえたんですけど。ねぇ、カズマさーん!」
俺は夕日が沈みそうになっている街へと今日の晩御飯を買いに行く。庭では珍しくめぐみんがゆんゆんに押さえつけられている。
ノーカンです。これじゃあ連勝記録が・・・とか
私の連敗記録に終止符が・・・とか
言い合う二人を見てなんだかんだ、仲が良いんだよなと、見てて微笑ましく思う。俺も幼馴染がいたらな・・・と。
考えても仕方がないことは、サキュバスのお店に解決してもらおう。
よし、今日は久しぶりに料理スキルでも振るうか。
そう考えながら街へと姿を消していった。
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