EP5-紅魔流!!?

目が覚めると、辺りは真っ暗だった。

いや、暗闇ならまだそこに何かがある。

暗いとかの感覚があるはずだ。

だが、今ここには無い。

目の前の何かに向かって手を振ったり掴もうとするが、空を切る…そんな感覚を思わさせられる。


どれくらい時間が経ったのだろうか、いつのまにか考えるのをやめてしまい、今は、見ている。目の前なのか、はたまた上空なのか。

わからないが目を開けていて何かを見ていることだけは確かだ。


すると、目の前に。いや、正確には奥?と言えばいいのだろうか光が燈り始めてきた。

誰かがこちらに向かって走ってきているようだ。


その人は、ここではお馴染みのあのひとだ。

彼女がこちらに近づくにつれ、自分が今までどこにいたのか、何をしてしまったのか自覚し始める。

『--あぁ、ここか。』


俺はようやく理解をした。

そして、今自分が置かれている状況も理解をした。


そうだ。

魔王討伐へと向かい、意気揚々と出たは良いものを。

俺はあっけなく死んだのだ。


だって・・・あんな可愛いウサギが、あんなことするなんて知らなかった。


それはもう見事だった。

一瞬の出来事だった。

俺がウサギへと近づいた瞬間、めぐみんが「あっ、カズマっ!!そのウサギは・・・」

と言った瞬間には、遅かった。

俺の体を貫通していたのだ。

今までと違うのは、そう痛みがあった‼︎

なんなの、あれ。

もう無理。痛いとかじゃない。死ぬかと思った! まぁ、死んだんだけど。


はぁ、堪えるな〜


物思いにふけっていると、エリス様が息も絶え絶えに俺の前にやってきた。

立ってられないのか、両手を膝へとつき、肩で息をしている。俺が何か言葉を、発しようとすると、顔もあげずに片手をこちらに突き出してくる。

待て、少し休ませろ。と言うことか。

少し休むと、軽く息を吐き、呼吸を整えたのだろう、手で髪をスッとかきあげ、こちらに顔を向ける。


「その、えっと・・・カズマさん。 心中お察ししますが、あのですね・・・」

「すみません!」


エリス様の言葉を遮り謝った。

あんな盛大に送り出されときながら死んだのだ。呆れられるのも無理もない。

ぐうの音も出ないっすわ。


「冒険者なので危険はつきものです。そのことはわかりますが、あまり死なないでくださいね。いえ、普通はこの言い方もおかしいのですが、カズマさんの場合は、アクア先輩がいるとはいえ、死なれると凄く悲しいです。ましてや、今回は今までに比べると・・・さぞ辛かったと思います」

「はい・・・」

「それでですね、ここに帰ってくるのにも時間がかかってしまいますので、私はしばらくはこちらにいようと思います。短い間でしたが、楽しい時間をありがとうございます。次はここではなくて、向こうの世界でクリスとして機会があったら会いましょうね」


そう言い残すと、毎度のこと良いところで邪魔が・・・そう、お馴染みの声が聞こえてくる。

「−−カズマさーん! 聞こえてるー? 蘇生は完了したから早く戻ってらっしゃーい」


ふふふっと、左手を口に当ててエリス様が笑い、続いて右手を上にあげて、パチンッと鳴らす。

すると、その音を合図に俺の足下に白いゲートが出現する。


「エリス様! あの、俺は・・・っ!」

「大丈夫です。 カズマさんならきっとやれますよ。しょうがねぇなぁと言いながらも解決する姿を私に見せてください。私は、いえ、私たちと言ったほうがいいですね。 ダクネスも、めぐみんさんも、そしてアクア先輩もそうです。皆んな、最後にはカズマさんがなんとかしてくれると信じてますよ」


聞こえはすごくいい。

すごくいいんだが、どうにも納得がいかない。

他のチート持ちは一体何してるのだ。

もっとたくさんいるはずだろ、そいつらでなんとかしてくれよ。

もう死にたくないなぁ、と思いながら頭を掻く。


「なんて他力本願なやつらだ、そもそも俺だってやりたくてやってるわけじゃないんですよ? 仕方なく、やむを得ないからやってるだけであって」

「でも、頼まれたら断らないですよね?」

「まぁ、うん、確かにそうなんですが・・・」


手のひらで踊らされてる気分になる。

どうもこの人のリズムに乗せられると調子が狂ってしまう。

上手いこと誘導をされてしまう。

「じゃあ、私からお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」

ほら、きた。

もうお決まりじゃないか。

しょうがないなぁ、この人はホントに。

と思いながら俺は答える。


「だが断る」

「ありがとうございます。カズマさんならそういうと思ってまし・・・?? ・・・え、え、え!? えぇぇぇ!? すいません、今なんて、なんていいましたか??」

「もう一度いいます。だが断る」

俺はもう一度ビシッと言ってやった。

こんな誘惑に負けるほど俺は甘くない。

俺は強くなったんだ。

だてに、毎日常連さんとして遊んではいない。

予想していなかったのか、エリス様が困った顔して頰を掻き出す始末だ。


「あの・・・そこは普通任せてください。とか、それっぽいことを言うものでは・・・ 私もそういった言葉が返ってくるものとばかり」

「一般的にはそうでしょうね。俺もそれが王道だと思うし、カッコいいとも思います。だけど、俺にはそれだけの強さがないんですよ。わかりますか?この気持ちが」


ここぞとばかりに常日頃の鬱憤を吐き出す。

チートの代わりに女神を貰った。そう、宴会芸の神様、いやトイレの神様か。

たしかに、プリーストとしての腕や、ステータスはトップだけど、それ以外が致命的すぎる。


すると、再び天井から声が聞こえてくる。

「ねぇカズマさーん、聞こえてるー? 聞こえてるんでしょー? 早く帰ってきてちょうだいよー。早く帰ってきてくれないと、めぐみんがカズマを早くとか言って私のこと叩いてきて痛いんですけど」


最初の呼びかけに対し、返事がなかったせいか、再び呼びかけてくる。


「悪いアクア! 今、エリス様と取り込み中だからもうちょっと待ってくれ」

「なっ…‼︎ ちょっと待ちなさいよカズマ! ……痛い!痛いわめぐみん! 今頑張ってるんだから叩かないでちょうだい! グーはダメよ!あざが出来るからやめてちょうだい! 痣ができたらどうしてくれるのよ! 」


蘇生の準備ができてるのに帰らないからだろう。アクアがめぐみんに叩かれているようだった。後ろからアクアではなく、この私を叩け、頼むから叩いてくれやら、めぐみんやめなさいよ。と言った声が聞こえてくる。

やはりゆんゆんだけが常識人のようだ。


あとは、ゲートに送ってもらうだけなので俺次第な訳なのだが、今帰ったところで結果は目に見えている。魔王討伐なんで無理だ。


「でも確かにカズマさんの言いたいこともわかります。上級職ではなく、冒険者に期待の念を込めてるわけなので変な話ではありますよね。なので、一つ提案なのですが、聞いてくれますか?」


もう嫌な予感しかしないのだが、現状を変えるためには少しでも案が欲しいところだ。

俺が頷くと。

「養殖ってご存知ですか? 紅魔族の方が行なっている楽してあげるレベル上げの手段なのですが。 その独自のやり方から、紅魔流レベル上げとか言うらしいですよ?」


そんな美味しい話、聞かないわけがない。


「ほほぅ、エリス様。 その話詳しく...」

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