EP4-最弱の冒険者

「ねぇねぇカズマさん。 エリスの言うことなんて気にしなくて良いのよ? たしかに、魔王討伐は避けては通れないけど、今すぐじゃなくても良いと思うの」


 そう言われつつも、風呂敷を広げ持って行くべき道具を吟味している。

 あの後、勢いで行くといったものの、レベルからしてまず無理だ。死ぬ。間違いなく蘇生できないレベルで死ぬ。

 俺はまだ死にたくない。

 だから、エクスプロージョン(仮)や、バインダー用のオーダーメイドワイヤー、そして金にものを言わせたマナタイト鉱石も常備した。


「なあ、カズマ! 魔王といったらやっぱり捕まったら凄いことされるのだろうか!? 捕まった暁には民衆の前で恥辱の限りを尽くされるのだろうか!?」

「お前ちょっと期待してるだろ」

「し、してない! クルセイダーとしては他の者がそういった目にあうのが許せないだけだ! うん、そうだ! ああ、こうしてはいられん! さあ、早く行こう!」


 1人で盛り上がり、頰を勝手に高揚させてるダクネスは放っておき引き続き道具の選定を行なっていく。

 こんな状況なのに、全くぶれないのがうちのドMクルセイダーだ。もはや誰も相手にしなくなっている。


 再び準備へと取り掛かろうとすると、袖をくいくいっとめぐみんが引いてくる。


「行くのは構いませんが、結界はどうされるつもりなのですか? アクアが前に破れるといっていましたが、それに達するほど幹部を倒した記憶が無いのですが」


 それもそうだ。

 魔王城には結界があるのだ。

 勝算があっても入ることが出来なければ何の意味もなさない。

 さすがにそこまで俺は馬鹿ではない。

 もちろんその質問が来ることは予想済みだ。

 だがしかし、頭が追いついてない子が一人いた。


「めぐみんの言う通りよ! いくら私が凄いからってさすがにキツイものがあるわ。 また明日から頑張りましょ。きっとこの決断はどちらを選んでも後悔することになるわ。 ああ、あの時魔王討伐に行ってれば。ああ、魔王討伐なんか言い出さなければ。ってね! だったら今を生きる為に楽な方を選びましょ! どちらを選んでも辛いなら楽なほうがいいに決まってるじゃない。ええ、そうよ、だから行くのはやめましょ!」


「先輩! それはダメです! せっかくカズマさんがやる気を出したのですからこの勢いを潰してはいけません、それに結界のことは心配ありません。その為に私がいるのですから」


 もはや、誰が女神なのかわからなくなっているのではないかと心配してきてしまう。

 以前は、自分が女神ということを忘れていたのだからあながち間違いではないはずだ。

 それを分からせるためだろう、俺の横で高貴なる存在がドンっと胸を叩いて、胸を張る。もちろん、張るほど胸はない。おっと、なんか視線を感じるが口には出してないからバレてないはずだ。


 めぐみんが、なるほど。といった顔で女神一人でダメなら、女神2人というわけですね。と納得顔をする。

 こうもゴリ押しだと、魔王討伐を志していたあの剣士が不憫に思えてくる。

 名前なんだっけ…かつらぎ? いや違うな。

 思い出せるだろうけど、思い出すための労力を割きたくない。

 俺があれやこれやと考えてる間も、アクアは激しい抵抗をしている。


「いやよ! 危ないとこには行きたくないわ! 私今の生活気に入ってるのよ」

「ほら我儘を言わないで行きますよ! 手を離してください!」

「ねぇカズマさん! どうして急にそんなことに目覚めちゃったの!? バカなの?死ぬの!?」


 山田ボイスことルイズちゃんきたぁぁ。とはなるわけがなく冷静に返していく。


「いや、よくよく考えたら魔王倒したら好きな願い一つ叶えてくれるんだろ? その為になら頑張るのもありかなってな」


「ふむ。それは一理あるな。その願いとしてこの世界を平和にして貰うという算段か」


「いや、違う。」


 ほほう。と言った顔でダクネスが顎に手をあて再度考え出し、指を指してこう言う。


「ならば巨額の富を得て、ハーレムを作る気だな! どうだこれは良い線を言ってると思わないか!? 私もだてにカズマを見てきてないぞ!」


「あながち間違いではないな。良い線だダクネス。でも違う」


 この予想も外れるとは思わなかったらしく、考えるのを諦める。俺のイメージそれだけなのかよ。いや、否定は出来ないけど。


「ねぇねぇ、カズマさん。ひょっとして日本に帰りたくなっちゃったの?? でも、そうするとゼロからよ? 記憶もないのよ?」


「いやわそれも違う。」


 違うと言われてるのが分からないのか?

 アクアが頭にはてなマークを浮かべてこちらを見続けてくる。すると、我こそはと言わんばかりにめぐみんが名乗りをあげる。


「ふっ、皆んな甘いのですよ。 カズマのことを何もわかってはいないじゃありませんか。 ここは、紅魔族随一の天才である私が教えてあげましょう。

 −–−–カズマは私と結婚…『したくない』」


「なにおぅっ! と言うかせめて最後まで聞いてからでも良いじゃないですか! なぜ即答するのですか!? 散々いい雰囲気になっておきながら、これがあなたの答えですか!! アクアもダクネスも笑いすぎです! なんなんですが本当に」


 目を紅く光らせ、杖をぶんぶんと振り回している。

 一番に笑い出したアクアに向けてちょむすけを放り投げ、ダクネスには杖で殴りかかり始めた。

 ひとしきり暴れると、目に涙を浮かべ羞恥心に押しつぶされそうになりながらもこちらに目を向けてきたから俺は優しく告げる。


「そんな言うことでもないと思うんだけどな。簡単に言うとだな、やっぱメインヒロインのエリス様と結婚だな」


 特に悪びれる様子もなく、さも当たり前かのようにそう告げるとめぐみんが膝から崩れ落ちていった。


「こんなぽっと出に私がま、負けたのですか…」

「そうか、エリス様なら私からは何も言えまい。 良い選択をしたと思うぞ」

「ねぇ、私にもわかるように教えて欲しいんですけど…カズマさん、上げ底エリスなんかのどこが良いのよ」


 エリスがびくっとし、こちらに視線を向けるてきたので即答する。


「簡単だ。お前らはイロモノ枠だ。 だが、エリス様はヒロイン枠だ。 異論は認めない」


 その後は、非難の嵐だった。めぐみんが、イロモノ枠ではなく妹枠であると告げ、暴れたり、

 ダクネスのことは、おっぱい。としか見てないことを告げたせいか、危うく魔王討伐の前に死ぬとこだった。


 だが、嘘はついてないから謝らなかった。エリス様は頑なに、女神はパッドなんかしません!と言い張っていたが知らない。

 俺はようやく準備を終えて、重たい腰をあげる。


「ほら、さっさと行こうぜ。 早くしないと俺のスティールが火を吹くぞ」


 既に火を吹いているメンバーに向けて、手をわきわきとさせて告げる。めぐみんとエリスがさっとスカートに手をあて、ダクネスは両手を広げて、さぁ来いと言いたげに立っている。

 アクアに至ってはこの世のものでは無いものを見るかのような視線を向けて来る。ドン引きである。



 コホンっと咳払いをした後に改めて仕切り直す。

 慌てて他のメンバーが身支度を終え、魔王討伐の旅路へとつくのであった。


 屋敷を出たところ、門の近くでソワソワとしながら声をかけてくれるのを待っているボッチがいた。

 おおかた、姿を消して話を聞いていたのだろう、どんどんと陰湿なぼっちになっていくな…と内心悲しく思っていたところめぐみんが言い出す。


「ぼっちからストーカーへとジョブチェンジしたんですか…? 」

「ち、違うの、違うのよめぐみん…! たまたま、そうっ! たまたまなのよ! 今日はこっちから帰ろうかな。って思ってたら話が聞こえてきたのよ!」

「…門からでは聞こえないと思うのですが」

「……っ‼︎」


 めぐみんの攻撃ならぬ口撃に負けてしまったのか、ゆんゆんが黙りこくってしまっている。

 ほら見たことかと、めぐみんが煽ると、ついにゆんゆんも反撃をし出し、いつもの光景がやってきてしまった。


 なぁ、魔王討伐!

 これってもっと意気込んだ感じで行くのではないのだろうか。俺の思い描いていた冒険とはかけ離れてしまっている。

 後ろでは、ダクネスが妄想をしてるし、アクアに至ってはお菓子を食べながらこっちをみている。

 やめろ!いらねぇよ。こっちにお菓子を差し出すな。っていうかまだお菓子持ってるのか。

 そのパンパンのリュックは全部お菓子じゃないよな?信じていいよな?


 なんだろう。いつもと変わらない。むしろ、いつもよりリラックスしている。これはこれでいいのだろうか。

 先が思いやられてくる中、最後の良心、エリス様を見ると、ニコニコしていた。

 可愛いからまあいっか・・・


 街の人に見送られながら、魔王討伐遠征とかして見たかったなぁ。今思えば、そういった待遇は受けた覚えがないなぁ。 ベルディアを倒した暁には借金。デストロイヤーを倒した際も借金。・・・俺、借金大好きだな…。


そう思っていると、どういうわけか、知っている人はいないはずなのに、その思いが通じたのか、アクセルの外へと出る門のところで、どういうわけか、ルナを筆頭にギルド職員が勢ぞろいしていた。


 ルナがこちらへと振り向き深々と頭を下げてくる。どういうことかとあたりを見ると、エリス様が照れくさそうに頬をぽりぽりと掻いている。


 またあなたですか・・・

 見通す悪魔並みの予知力じゃないですか。

 どこまで先を見通して行動しているんですか。そんな働かなくてもいいんですよ?本当に。

 俺が苦笑を浮かべてエリス様を見ると、エリス様もそれに応えるかのように笑みを向けてくれる。どんな時でもスタンスを崩さず、苦労を見せないエリス様最強だろ…


すると小さな声で。新たに取得した盗賊スキルのが無いと聞き取れなかったであろう小さな声で、パーティ全員へと向けて詠唱をする。

「−−−祝福を‼︎」


 恐らく誰も気づいてないであろう。

 アクアですら気づいてないのだから、俺が再度エリス様に目を向けると、口元に指を立て、いつものポーズを取り呟いてきた。

「…内緒ですよ?」


 ホントこの人には敵わないな。

 最初から最後まで、冒険の門出を祝ってくれるとは。

この人の為なら命も惜しくないなとすら思ってしまう。

 祝福の加護を貰ったことだし、さぁ行くか。

 いざ。魔王討伐へ。


 門へと向かい職員らの前に立つと、ギルドなりの激励の言葉なのだろう。だが、俺たちにとっては最高の言葉かもしれない。


「カズマさん、貴方達は今やこのアクセルの街、随一と言っていいほどのパーティです。きっと貴方達ならやり遂げてくれると思っています。私たちはここから応援することしか出来ませんが、ギルド職員一同、カズマさんたちの帰りをお待ちしております。 お屋敷の管理もお任せください。そして、相手は魔王です。一筋縄ではいかないと思いますが、無事帰ってきてくださいね。皆さんがいないとギルドが……寂しいですからね。帰ってきた暁には、そうですね。1日ぐらいなら休業してもバチは当たらないと思うんです。だって魔王がいないんですから! いつもいつも見てるだけですが、次回は私たちも宴会の場に参加したいと思います。 私だって本当はお酒好きなんですから。気をつけていってください。そちらの後ろにいらっしゃるのがエリス様なのでしょう? 噂は聞いております。 外部には漏れないよう気をつけておりますが、さすがにここ、アクセル内ではみなさん知ってらっしゃいます。」


「…あははは。………ごめんなさい。」


 エリス様が申し訳なさそうに困り顔を浮かべるが、ルナはまだ続けてくる。


「エリス様が魔王討伐に行くとなったら大惨事ですからね。この国全土の人皆んながこぞって行かれてしまう可能性もあります。そうなると守れる命も守れなくなってしまいます。少数精鋭ではありますが、皆様の検討をお祈り申し上げております。いってらっしゃいませ。」


 こんな風に思われてるなんて知らなかった。

 この街から出たくなくなってきた。

 お家に帰りたいな。


「カズマさん、私何だかすごくいい気分だわ。ちゃちゃっと討伐して早くパァーッと騒ぎましょ! ほら、皆んなも早く行くわよ! 私とエリスで決壊壊すでしょ? そしたら攻めてくるであろう敵襲をダクネスとゆんゆんで防いでもらってトドメにめぐみんのエクスプロージョンよ!! そうすれば残りは魔王だけよ! 後は、カズマさんの必殺無慈悲なスティールさえあれば魔王なんて余裕よ!」


 スティールで倒せる魔王がいるなら見て見たいものだ。

 じゃあ、いっちょやってみますかぁぁぁ!!

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