第3話

やっとのことで喫茶店に着くと、私はそこでリフト券を貰うことが出来た。つい先程通ったルートへと急いで戻り、自室へ時間ギリギリで戻ることが出来た。私は布団を顔まで被り、気持ちよさそうに寝ている友人を叩き起した。

「んあ…もう時間…?」寝ぼけ眼でゆっくりと起き上がる詩織を見ながら、私は手元の腕時計を詩織の目の前に突き出した。「もうそろそろ行かないとまずいよ。」そう言うと、詩織も納得した様にゆっくりと頷くと、2人で部屋を出てDホールへと向かった。


受付時間を10分ほどオーバーしたが、間に合わせることが出来た。大きな部屋の奥には、いろんな種類と見た目のウェアーと靴、小物が並べられており、数人のスタッフがサイズの確認をするため、お客にA4サイズ程の紙を配っている所だった。私達はその列の最後尾に並んだ。

すると、1人の若い女性のスタッフが、「チケットはありますか?」と尋ねてきた。私達は頷きながら、ポケットから二人分のチケットを取り出した。するとそのスタッフはチケットを受け取ると、すぐに奥の部屋へと走って行ってしまった。

その後またすぐにスタッフが走ってきた。

「えと…お客様、本日はスキーとスノボーどちらを貸し出されますか?」私達は目を輝かせながら、迷わず答えた。



「「スキーです!」」




第3.5話 数時間前の遭難事故の謎。


「本当に、その場にいなかったんですね?」

俺はそう聞かれるたび、何度も頷いた。

涙で頬はパリパリになり、視界が歪む。どうしてあの時あそこにいなかったのだろうか。警察からの取り調べには的確に答えることが出来た。

事件性もあることを一応視野に入れて、わざわざ群馬のスキー場まで来て事情を聞きに来た、と言われた。

俺の名前は朝倉 良一。31歳。フリーのジャーナリストをやっている。数日前に息子と2人だけで、このゲレンデにやって来た。

楽しい旅行になるはずだった。なのに、予想もしていなかった事が起こった。つい数時間前の出来事だった。俺と息子は中級と初級の間を滑っていた。


「お父さん!待ってよ!早いよ…!」そう慌てながら俺の後ろをぴったり着いて滑ってくるのは、俺の息子、朝倉 圭吾だった。まだ11になったばかりだと言うのに大変な旅行好きだった。

「圭吾!しっかり着いてこないと、置いて行くぞ!」と冗談混じりに叫ぶと、更に焦り出す息子の姿が見えた。だが、ゴーグルをしていないことに気づき、すぐ様ブレーキをかけた。

「何してんだ!ゴーグルかけないと目に雪が入るだろ!ちゃんと着けなさい。」俺はそう叱りつけると、息子は頷きながらゴーグルを装着した。

俺は息子がゴーグルを装着したのを確認した後すぐに滑り出した。スピードを上げるたび、デコボコした雪が目立った。体制を崩さないよう、若干前のめりになりながら走行する。

「お父さん!僕1人で滑りたい…」俺は思わず立ち止まった。「なんで?」と、問いただした。すると息子は、「うまく滑れる所をお父さんに見せてあげたい。」そう言って微笑んだ。「そうか…じゃあ、下で待ってるぞ。」そう言って、俺は滑り降りた。



____________それが最後の会話だった。__________




まだ意識を取り戻さない息子の小さな手のひらをきつく握り締め、何度も声をかけた。

だがその願いも虚しく、湿った病室内に響くだけだった。「なんで…あんな所に降りて行ったんだよ…圭吾…。」震える声で、静かにそう問いた。

息子は滑走路から大きく逸れた山林地帯に横たわっていた。あの周りにはロープが引かれており、普通に降りていれば、まず落ちない場所だった。

万が一ブレーキが効かなかったとしても、あそこに落ちる可能性は0に近いだろう。

息子は呼吸器に繋がれ、ギリギリの所で息を保っているが、いつ心臓の音がやんでもおかしくないそうだ。扉を二度叩く音が聞こえ、俺は「どうぞ。」と返事をした。先程来た警察の1人が、「そういえば、救助される時に圭吾くん(女の人がいる)とかなんとか言ってたらしいですよ。」と意味不明の言葉を発した。「女の人?」俺は必死で頭の中で推理しようとしたが無駄だった。

今はとにかく息子の意識が戻るのを待つしかない。意識が戻ったら、詳しい話を聞こう。

俺はすでにそう決めていた。だから今は息子の手を握ってやることしか出来なかった。







































【 後書き 】


少し修正しています。あと、この回は事情があって少々短めになっています。(ちょいネタ切れ)

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sky snow 蜜柑 @misosabakunn

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