第5話 君だけにできること
「思ったより長く続いたが最終回だ」
「先生!! まだ五回目です、先生!! 長くないです!! ショートですよ、すごく!」
「言いたいことはすべて言ったからな。設定やキャラの決め方はほかで調べろ」
「投げっぱなしですか!」
「で、最後だ。助手よ、聞きたいことはなんだ」
「この形式は変えないんですか……。ではお聞きします! 先生! 売れるためにはどうすればいいんでしょうか!!」
「売れるためか!!」
「売れなければ生きていけない! 私は死にたくない! どうすればいいんですか、先生!」
「宣伝だ!」
「内容ではないんですか!?」
「いいことを教えてやる!」
「あ、はい、どーぞ、お願いします」
「面白さで売上は決まらないんだよ!!」
「また敵を増やしそうなことを!!」
「いいんだよ!! あのな、面白さではなく、宣伝、知名度で売上は決まる!! 誰も知らない漫画や小説、映画、ゲームは売上もさんさんたるものになる!! だからCMなんてもんが存在するんだよ!!」
「で、でも、面白さは必要でしょう!?」
「あって損はないが、最も重要な点とはいえん!! どんなものでも、まず手に取ってもらわねばならんのだ!!
小説を書いた!!
本が出来上がった!!
書店に並んだ!!
ここまでやってもまだスタート地点に立ってはおらん!!」
「まだそんな段階なんですか!?」
「そうだ! 面白さで勝負できるのは、本を買ってもらってからなんだよ!! 一巻から後、二巻からだ! そのくせ、シリーズもののラノベで、一巻の売れ行きが悪かったからと二巻の刷り部数が減らされるというのがよくある!!」
「えっ、ちょ、それって……」
「そうだ!! もちろん売れ行きが悪かったのがさらに売れるわけがない!! 打ち切り決定だよその時点でな!!」
「い、い、い、嫌な話だ、また……。最後も……」
「いちばん重要なんだよこれが!!
一巻は売れまくったけどつまらなかったので二巻の売り上げは最悪となれば耐えられる!!
しかしな、内容の評判は良かったけど知名度もクソもないので売れ行きがよろしくなく打ち切りとなると、地獄でしかないぞ!! 絶望だよ!! どうしようもないんだからな!!」
「どうしようもないんですか!?」
「ああ、どうしようもない!! 部数を決定するのは出版社、どういう宣伝をするのかも出版社、現場で推すかどうかは書店、作家が介入する余地はない!! 売上をよくするために作家ができることは、存在しなかった!!」
「そんなあ…………って、あれ? 過去形?」
「ああ、なんとかなる手が最近になって生まれたのだ!!」
「お、おお、おおおお! 最後の最後で希望が!」
「SNSで宣伝しろ!!」
「…………ちっちゃ」
「ちっちゃいよ! ちっちゃい、本当にちっちゃい!! しかしな、地道にやり続けるしかないんだ!!」
「なんかこう、ないんですか? もっとこう、大々的に可能な宣伝は……」
「ない!! 地道だ! 地道にやるしかない! ツイッターのアプリで定期ツイートをする、金を払ってPRしてもらう、あるいは……、一番これが効果的かもしれんが、カクヨムか小説家になろうでなにかを連載する!!」
「ん、んー、先生、最後のはどうなんですか? それってなんかこう、地獄じゃないですか?」
「地獄かと問われれば、まさにそのとおりだな。しかし、連日、大多数に向かって自分はこういう作品を書いていると知らせるのは、たしかに効果がある。でなきゃあ、書籍化作品がああも売れるものかよ」
「……たしかに、まあ、売れてますね」
「当たり前なんだがな。
漫画家ならよくわかってるだろうが、大部数の雑誌に掲載されるという時点で尋常じゃない宣伝をしてもらっているんだ。同様のことをすれば、知名度は上がる。一冊の本になったら、手元に置きたい人が買ってくれる。俺も買ってるしな」
「なるほど、わかりました先生。私も早速、なにかを投稿しま――――」
「――話はまだ終わっとらーん!!」
「声がおっきいです! な、なんですか、続きは……」
「単純に言うと、一冊の本を作るのと同じ要領でネット連載したら痛い目を見るぞということだ」
「痛い目、ですか?」
「人気が出なかったりして評判を呼びたかったのが、逆に不評を買ったりとかな」
「嫌なことを言わんでください!!」
「客層がちがう、というわけではない。一冊の本とネット小説ではジャンルがちがうんだ。ここに注意しておかないと、なんの宣伝効果も出せなくなる。内容だけでなく、空白や改行なんかもしっかり学んでおけよ。それと、スピード」
「スピード、更新速度ですね」
「ああ。量は大した問題じゃない。とにかく、宣伝目的ならば、毎日定期的に投稿するのが最善だ。最悪、報告だけじゃねえか、みたいのでもいい。とにかく書け。書き続けろ」
「……なかなかしんどいですね。でも、わかりました。気をつけます。でも、宣伝目的じゃなくて、書いてる人のほうが多いですよね。そういうのにプロが入るのって、なんか、こう……」
「遠慮するな」
「……は、はあ」
「ためらうな。お前の、命がかかっているんだ。文句をいうやつが出たらぶん殴る気持ちでいけ。そもそも、こんな宣伝がどうと作家が考える時点で狂ってるんだ。もっと狂ってしまってもいいんだよ。それに、ネット小説のほうには商業にない大きな利点がある」
「気になることを……。なんですか、それは」
「言ってしまえば、打ち切られる心配がないってことだ。困ったことに、商業なんかでやったらまずキャッチーじゃないと断られたり、打ち切りを懸念して数巻で完結するように抑えておくとか、そういうことがない。神話のように壮大で長大な話も書くことができる」
「……なんだかそれって」
「最も正しい小説のあり方、という気もする。プロ、というか出版社がどう逆立ちしても勝てないんだな、こればかりは。漫画くらいに規模が大きくなれば話はまた変わるだろうけども」
「なんだか、最後が締まらないことになりましたね……」
「即興だからな。内容の精査もほとんどしてない。言いたいことだけを言っただけだ」
「これを読んだ人が書いたライトノベルや小説、たくさん売れたらいいですね」
「いいや、俺だけが売れたらいい!! そうしたら俺は幸せになるからな!!」
「最後の最後でろくでもないことを言わんでください!」
「それでは、あばよ!」
おしまい
燃えよキーボード 小川じゅんじろう @jajaj3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます