監禁

「んン……」


思い瞼を開けて、目を開くエルダー。


「おはよう、可愛い幼女さん……」


その目に天井より先に映ったのは……



こちらを覗き込むように見つめる、エルダーに何か薬物を仕込んで眠らせ、どこかに拉致監禁した彼女、赤ずきんの顔だった。



「……どこだ?……ここは」


まだ痺れが残っているのか、口を開くのもだるいようで、うわ言のように問うエルダー。


目も虚ろで、意識もはっきりしていないように見えるが、少しでも早くこの状況を理解しようともがいている。


「ここは隠れ家よ、ここなら怖いのはこないから安心して?」


優しい口調で答える赤ずきん。


「……隠れ家?」


ゆっくり視線を動かし、周囲を見渡す。


石造りの壁、床、天井、


窓はなく、光源は四方の壁にそれぞれ一本ずつかけられたロウソクだけ。


部屋の中には土とロウソクの燃える匂いが充満していて、換気がされているのかも怪しい、

そんな部屋。


確かに、彼女の言う通り、ここは地下かどこか、隔離された場所で、隠れ家にしていると言われたら納得できる。


「……これは?」


エルダーは、自分が、横になっている場所に敷かれている物を手で触って、確認する。


それは、やたら触り心地のいい布だった。


布は、エルダーの体を覆う様にもう一枚かけられている。


おそらくここは、赤ずきんの寝室か何かで、布は赤ずきんが薬で眠っているエルダーにかけたものだろう。


「それは勝手だけど冷えちゃダメだと思ってかけさせてもらったわ」


そこは私のベッドよ、


と、優しく微笑む赤ずきん。


「…………」


なんか違う……


まだ彼女と会ったばかりとはいえ、先程までの赤ずきんの様子とはあまりに違いがありすぎて、戸惑ってしまう。


「……ごめんなさいね?また私、やっちゃったみたいで」


申し訳なさそうに眉を寄せて謝る赤ずきん。



「やった?……これか?」


自分を指差して赤ずきんに問うエルダー。


そこで、ゆっくりと自分がこの女、アカズ=キンにされたことを思い出してきた。


ついさっき、おそらく穴へ落ちたであろうシャールを確認しに、大穴へ向かおうとしていた、


だが、どこかはともなく現れたアカズ=キンにホールドされ、逃げる間も無く謎の薬品で眠らされてしまったのだ。


そこまで思い出したところで、アカズ=キンと目が合い、警戒を強めるエルダー。


「そう、私、時々我を忘れちゃって、本能のままに暴走してしまう時があるの……」


本当にこいつはさっきまでのと同一人物か?


と、混乱の極みに至るエルダー。


しかし、



「お前のことはよく知らないが、悪気があってしたことではないことは分かった」



とりあえず、いきなり薬で拉致したことは水に流すことにしたエルダー。


誰だって我を忘れ、抑えが効かない時がある。


そこに、たまたま視界に入った超タイプの幼女をどうしても連れて帰りたくなったということなら、赤ずきん自体に悪気があったわけではない。

それに、あのままなら間違いなく死んでいたエルダーを救ったのもまた事実。


プラスマイナスゼロ、と言ったところで納得することにしていた。


だが、


「頼む、さっきの場所に戻ってくれないか?」


それとこれとは話が違う。


「ダメよ‼︎無意識の私がここへ逃げ帰ってくるくらいだもの‼︎きっと本能的に危険を感じ取ったのよ‼︎」


当然のように否定を述べる赤ずきん。


「……あれは群れで行動するの、最低でも五匹、一匹いたと言うことは最低でもあと4匹は近くにいるわ……」


アレ、とはトカゲのことだろう、


エルダーのことを本気で心配しているのだろう、必死に止めに入る。


事情を知らないエルダーですら、死地へ赴く思いなのだから、事情を知っている赤ずきんは、その行動がどれだけ無謀なことか、よく分かることだろう。


「たまたま一匹でいたから私一人でなんとかなったけど、2匹以上に囲まれたら私でもどうしようもないのよ‼︎」


と、トカゲの危険性を述べ、なんとか諦めさせようとする。


がしかし、


「あそこが危険なのは分かる。でも……」


例えどんなに危険でも、エルダーには戻って確認しなければならないことがあった。




(ルーちゃん……無事でいてくれ‼︎)


トカゲに弾き飛ばされ、穴へと落ちていってしまったシャールのこと。


あの穴の深さは知らないが、話の限りでは相当なもの、落ちただけでも普通なら死ぬだろう。

仮に、シャールが異常な生命力で奇跡的に生きていたとして、しかしあの下には一匹でも恐ろしい被害を出す化け物がうじゃうじゃいるという、



もはや、生存は絶望的。



だが諦めるわけにはいかない。



シャールは、分からないことだらけのこの世界で再開できた、唯一の知り合いだ。


それだけでなく、エルダーにとってシャールは、ただの旅の仲間以上に大切な存在であった。


例えどんなに望みがなくとも、最後まで諦めるわけにはいかない。


「だから頼む、戻る方法さえ教えてくれればあとは放って置いてくれればいいから」


頭を下げてお願いするエルダー。


「う〜ん……」


ここは止めるの一択のはずだが、エルダーの必死に押されて心が揺らぎ始める。



「……わかったわ」


しばしの沈黙の後、根負けしたと言った様子の赤ずきんは、渋々肯定させはを口にする。


「本当か?ありがとう‼︎」


目を輝かせ、赤ずきんの両手を握り、嬉しそうにお礼を言うエルダー。


きゅん………


唐突なボディタッチに戸惑いながらも、まんざらではない様子の赤ずきん


「でも一つ条件があるわ」


真剣な表情でエルダーに条件を持ちかける赤ずきん。


「……なんだ?」


金銭的なものは何も持っていない。


払えるものといえば、この体くらいだが、これも女神に怒られそうだから差し出せたものではない。


「見ての通りこちらは手持ちがないが……」


手をひらひらさせて、何も持っていないことを伝える。


実際にはウルフから貰った剣があるが、それも貰い物だし、渡すのはどうかと思う。


「私も行くわ‼︎」


「………え?」


だが、赤ずきんからの条件は、完全に予想にないものだった。


つい、、変な声を出してしまうエルダー。

だが、赤ずきん本人は大真面目のようで、その瞳には一点の曇りもない。



「どうして?」



エルダーはもう気にしていないのだが、よほど負い目を感じているのだろう、


赤ずきんは命をかけて、エルダーの仲間の生存確認に付き合うと申し出た。


「気持ちは嬉しいが……」


しかし、エルダー自身、いくらさっきのことに負い目を感じているとしても、命をかけるほどのことではないと思っているし、そこまでされたらこちらが返すものも用意できないと、戸惑ってしまう。


「……好きに、なってしまったの」



そんなエルダーをよそに、頬を染め、自らの気持ちを告白する赤ずきん。


「私、あなたに恋しちゃったの‼︎」


「ええぇええ〜‼︎⁉︎」


こうして、エルダーに新たな仲間ができた

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バグに轢き殺された英雄の再起戦 ベームズ @kanntory

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